その執着心、捨ててください
かれこれ20年くらい前でしょうか、
わたしが髪を振り乱しながら
ワンオペ育児と在宅ワークに追われ
ボロ雑巾のように疲れていた頃です
夫がぼそっと
「 僕もノエミに捨てられるかも… 」
といいました
ノエミってわたしのことです
当時はわたしも若くて
耳も遠くありませんから
とってもよく聞こえましたが、
なに寝ぼけたことを言っているのかと
聞こえないふりをして
「 捨てて 」
と夫が悲しそうに見つめる先の
夫の所有物あれこれを次々と指さして
いきました
図書館に行けばいつでも借りられる
一度も読み返されたことがない
希少本でもなんでもない大量の本、
どこをどれだけ切りたいのかわからない
ノコギリ3本、しかもサビてる、
たくさんの何かの付属品、その何かが
まだうちにあるのかもわからない、
若い頃に買ったらしいアロハシャツ、
鮮やかなピンク地に大きなスイカ柄、
その歳でいったい いつ、どこに、
着ていくのかを教えてほしい
など、夫が「 いつか読む、使う、着る、
だから捨てないで 」 という物たちです
夫は捨てられない人です
なぜそんなに物に執着するのかは
わたしにはわかりません
わたしは不要な物は持ちたくない
とつねづね思っています
ミニマリスト?
そんな素敵な言葉で言っていただけて
なんか照れます… えっ、言ってない?
とにかく、
ただ物を持つのが面倒で、
物が少ないと掃除が楽で、
楽なことが大好きだからです
でもミニマリストさんのように
必要最小限までは減らせません
物が減るからゴミ捨ても大好きで、
ゴミ袋を両手にさげて
うきうきとマンションの長い廊下を
スキップしながら行きたいぐらいです
しませんけどね
そして、「捨てて」と言ってから早20年
が経ちました
あの時わたしが指さした夫の不要な物は
ひとつも処分されていません
20年もの間、夫は一度たりとも
本を読み返さず、ノコギリを使わず、
スイカ柄の派手アロハを着ていません
着ようとしたら、たとえ南国だろうと
全力でとめますけど。
夫はそれらの物たちを一度も思い出した
ことがないと思います
そして、記憶力が低下する一方のこの先、
思い出すことなどないでしょう
だから今、わたしが親切にも
そーっと、ちょっとずつ、ちょっとずつ
処分してあげています
ブックオフさん、
売れなさそうなものを送りつけてしまって
すみません
夫は物が徐々になくなっていくことには
全く気づかず、少しずつ広くなる部屋で
幸せに暮らしています
わたしの理想は、
いつでも夜逃げできる身軽さです