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だれも語ろうとしない傑作「麻雀放浪記」のこと
この作品は1984年のモノクロである。監督和田誠。フルカラーに慣れた目からすればモノクロはとっつきにくいかもしれないが、見はじめれば色など関係ない。この映画の10年前、「ペーパームーン」が白黒で撮られている。ボグダノビッチ監督で、封切り当初から名作の誉れ高い作品である。新作でありながらクラシックという仕上がりだった。彼には名作「ラストショー」もある。「ドライビィング・ミス・ディージィー」や「キャバ
もっとみる「マイ・フェア・レディ」のイライザは、はたして幸せか?
この映画も、すでに10回は見ているだろうか。ぼくは一人の女性のサクセスストーリーとしてこの映画を見ていた。ロンドンの下町生まれで、コックニー訛りの、髪の毛はぼさぼさで、顔は煤だらけの小汚い娘がプリンセスのように変身を遂げていく。父親は娘に金をたかる、赤鼻のアル中かと思われる汚い伊達男である。イライザはそんな父親など当てにしないで、花売りの娘として逞しく生きている。彼女は花卉(かき)市場(あるいは大
もっとみる映画「卒業」が隠そうとすること
この映画は1967年に撮られている。やはり傑作だろう。68年のアカデミー賞の候補はものすごいラインナップで、本作と「俺たちに明日はない」「夜の大捜査線」などが作品賞、監督賞候補に挙げられ、女優賞には「暗くなるまで待って」のヘップバーンがノミネートされている。まさに歴史を画する年で、結局、作品賞は「夜の大走査線」(監督ノーマン・ジュイソン)、監督賞は本作の監督マイク・ニコルズが獲っている。「俺たちに
もっとみるいつも奇跡は起きていた3
救いの手数年前のことだが、年も押し詰まって、あることで思い屈することがあった。毎晩、そのことが頭を離れず、ろくに眠ることができなかった。
それが、不思議なことにしばらく連絡もくれなかった人からメールが届き、彼がぼくの苦境に手助けしてくれることになった。またその後、それほど間を空けず、知人から知らせがあり、そのときに窮状をふと洩らしたところ、サポートするよ、と言われた。
またひと月も経ったろうか、あ
いつも奇跡が起きていた(番外篇)
島で迷う 荒れる海
だいぶまえに1週間ほど、五島の上下の島へ行ってきた。上下というのは上(かみ、と読む)五島、下(しも)五島のことである。お盆を挟む前後がいかにも島の、あるいはその地方の風習がよく見えるような気がして、その季節を狙って行っていた。
福岡から電車で佐世保に出て、そこから船で3時間半で上五島に着く。下へ行く場合は長崎からのほうが便が多い。これで2度目だが、最初は平戸へ行ったのが島を
いつも奇跡が起きていた2
うり二つこないだ三遊亭円丈の高座を見に行った。弟子が2席、そして円丈が2席である。ネタ帳から目を離さない、同じことをくり返す。弟子は盛んに師匠に拍手をしてくれ、そうしたら喜ぶと客に頼む始末である。
円丈の名を高からしめた「悲しみは埼玉に向けて」を初めて生で聞いた。さすが名作である。筋を間違おうが、同じシークエンスをくり返そうが、北千住を出て東武伊勢崎線に乗って差別の構造がいや増していく話の組み立て