ある男|23−1|平野啓一郎
弁護士の城戸章良と面会した日の三日後、里枝は、このところますます部屋に籠もって本ばかり読んでいる悠人に、お風呂から上がったら、話があるからと伝えた。
里枝は先に花と一緒に入って、前歯が一本、グラつき出したという気恥ずかしそうな報告を聞いた。
「よかったねぇ。みせて? あ、ほんとだ。はやいんじゃない、クラスのなかでも?」
「うん、はとぐみでは、ひなのちゃんだけ。──あのね、はなちゃんね、きょう、ひなのちゃんって、よぼうとしたのに、まちがって、ひののちゃんっていっちゃって、