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個人SNSで愛を叫ぶ情報発信、共感を呼びコミュニティ形成へ——マイネット代表・上原仁さん流、起業に効くSNS活用術
「愛を叫ぶ系ツイートはありだと思う。SNSを使うときは、好きなものは好きと忖度ない姿勢でいることが大事」「知識や知恵、感情を世に出すことは、他の人にとって価値のあることと言える」。
SNSやブログを初期から扱ってきた経験がある株式会社マイネット代表取締役の上原仁さんは本イベントでこう語っています。起業の過程でどのようにSNSやブログを活用していたのか。「ビジネスに役立つnoteやSNSのつづけ方」インタビューシリーズでは、上原さんをゲストにお迎えして、情報発信の先にあるコミュニティ形成などのお話をおうかがいしました。
まだ誰もやってないことが専門性になる。転勤をきっかけにSNSとブログに着手
ーービジネスで最初にSNSを使ったきっかけはなんですか?
上原さん きっかけは転勤です。ポータルサイト「goo」の運営にかかわることになりましたが、周りの人とのインターネットに関する知識レベルに差があり過ぎ、私には知識や専門性が何もないと実感して焦りました。
そんな中、当時ブームだと言われてはじめていたSNSとブログに着手しました。まだ誰も手つけてなかったことで、専門性がない私でもチャンスがあると思ったからです。gooブログをはじめさまざまなブログのアカウントつくっては使用し、感想をメモすることを繰り返して、多数のサービスを比較しました。ブログを始めたのは2004年で、SNSも同じタイミングでスタートさせました。
ーー最近メインで使用しているSNSは何ですか?
上原さん いま注力しているのはTwitterです。私は6時半に朝ランをしていて、「#起業家起きろ」というハッシュタグを勝手につくり、起業家向けに思いついたことをつぶやいています。
ビジネスこそ、個人アカウントで情報発信するのが効果的
ーー企業も個人もSNSの使用が当たり前の時代にビジネス情報を発信する際のアドバイスをください。
上原さん 最近は、企業用の匿名アカウントと個人アカウントの両方を運用する場合も多いですよね。仕事に関する自分の意見を個人アカウントで公開することがはばかられる感覚もあるかもしれませんが、個人アカウントで発信した方が効果的だと思います。フォローしやすいのは、圧倒的に個人アカウントだと思うからです。
企業の方には、実名ではないけれども人物の特定ができるニックネームで活動することもおすすめしています。私の場合は”近江商人”と名乗っており、上原仁のことをわかっていなくても、近江商人だとはわかる状態です。
ーー個人アカウントでプライベートとビジネスの内容を発信していく場合、投稿内容のバランスに悩んでいる方も多そうです。
上原さん 個人アカウントを使って反応を確認する投稿をしたり様子を見る期間を設けたりして、企業アカウントでできるレベルを探ってみるのがよいと思います。バランスをとった投稿をするには技術が必要なので、それを自分で判断できるようになるまで続ければ、最終的にはユーザーとの距離が近いマーケティングにつなげることも可能です。
ツイートや音声メディアで愛を叫ぶ。ありのままの自分を発信して共感を呼ぶ
ーー上原さんのアカウントからは、自分の好きなスポーツチームを応援できて嬉しくて仕方がない! という熱い気持ちが伝わってきます。
上原さん 最近、私のアカウントでは滋賀レイクスターズへの愛をひたすら語っていて、私が楽しんでいることそのものがレイクスの宣伝になっているように思います。ほとんどの人にとって、誰かが好きなものを語る様子は、そんなに嫌なものではないでしょうから、愛を叫ぶ系ツイートはありだと思います。自社のプロダクトを個人で発信することも宣伝になります。好きを発信するというスタンスが重要だと考えます。
SNSを使う上でのこだわりは、ありのままの自分でいることです。好きなものは好き、嫌いなものは嫌いと忖度なくいられればと思います。そのため、広告っぽいことはやりたくないです。
ーー音声メディアにも注力されていますね。
上原さん はい。音声配信アプリ「stand.fm」などを使って音声メディアでも情報発信しています。
音声メディアは間口がせまい分、人と深くつながることができるメディアだと思います。柔らかい考えのままの情報を提示できますし、気持ちが揺さぶられるような情報の場合は共感を呼びやすいのも音声メディアの特徴です。
短尺文字メディアの情報発信は、目にした人の過半数が内容を読みます。一方、音声メディアの場合は情報を最後まで取得するのに10分費やすとわかると、目にした人の2割ほどしか最後の情報に辿り着かないのが現実でしょう。そのため必要以上にバズらないのが利点ですね。一部を切り取られて恣意的に扱われることも起きにくいです。
イベントで人と出会いつながること自体に価値がある 同じ空間を共有してコミュニティ形成
ーーイベントでは起業に役立ちそうなコミュニティを作ろうとしたのですか?
上原さん はい。人が集まる場を自らつくることは人とのつながりができることとも言えますし、それ自体が楽しく価値があることです。イベントの回数を重ねるごとに参加者からの信用を獲得でき、結果的に参加者が私の活動をサポートしてくれたこともあります。
イベントを開催するときは、抽象度が高いオープンなテーマを設定して、何か新しいことを始めようとする人が集まる場をつくるようにしています。専門知識を得ることが目的というより、多くの人とつながる場を用意することを意識しています。
ーーイベント開催やコミュニティづくりをするときのポイントは何ですか?
上原さん 恥ずかしがらずに情報発信することです。起業にまつわることを発信するとき、周りと比べて専門性がなく自信がないことから、情報発信しない人が多い。みなさんが持っている知識や知恵、感情を世に出すことは、他の人にとって価値のあることですよ、とお伝えしたい。
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ーーリモートワークが普及したこともあり、地方でも環境が整った状態で仕事できるはずですが、東京に集まることも多いですよね。
上原さん 本質的にリモートワークにした方がよいものと、そうではないものがあることに気づきました。意思決定のための議論はオンラインで十分ですが、創発や発散系の議論は対面がよいですね。マイネットでは95%はオンライン、残りの5%はオフラインで創発や発散系の議論の時間に当てています。
同じ空間で仕事してて、ボソッと言ったことが突破口になるようなことは、オンラインだと起きにくいと感じています。だからコミュニティをつくるんです。
ーーもし、これから起業するとしたら、SNSや文章メディアはどう取り入れますか?
上原さん まず起業の日々の気づきをTwitterに書いてフォロワーを集めて、専門性の高いnoteを書いてコンテンツをためて、Twitterで告知をすると思います。私にとってnoteやブログなどの文章メディアは自己紹介やオピニオンが含まれているので、自分の分身だと考えています。Twitterは検知や拡散に向いているので、オピニオンリーダーとやりとりをしてイベントへの参加をお願いするかもしれないですね。そのやりとりまで見ているようなコアな人たちを巻き込んだ80〜100人の場をつくりたいです。
ーー名前の表記こそニックネームやハンドルネームであっても、個人の活動が見えるアカウントにはその人の顔が見え、そこでの愛を叫ぶ系ツイートは共感を呼び、応援したくなります。
企業も個人もSNSや文章メディアを使うことが当たり前の時代になりました。積極的に情報発信をすることで、多くの人とつながることができたり起業のサポートをしてくれる人が現れたり、チャンスが増えることでしょう。本日はありがとうございました。
※敬称略
ゲスト紹介
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上原仁さん
株式会社マイネット代表取締役 滋賀レイクスターズ会長
1974年滋賀県守山市生まれ。1998年神戸大学経営学部卒業。NTTにてインターネット事業開発に従事。2006年マイネットを創業し同社代表に就任。ソーシャルメディア、SaaS事業を経て、現在はゲームとスポーツ2領域のDXを推進。ゲームサービス事業では国内最多数のゲームタイトルを運営。スポーツDX事業では複数クラブへの横展開を見据えたクラブDX事業、日本プロ野球機構初公認のファンタジースポーツ事業を展開。2事業を主軸に、第三創業期更なる飛躍を目指す。
ブログ:http://blog.livedoor.jp/ueharajin/
Twitter:https://twitter.com/ueharajin
interviewed by 徳力基彦 text by 村松美紀