「異世界系配信者かと思ったら異世界転生していた」①
今日は待ちに待った配信者がデビューする日。
つい1週間ほど前、「星明ステラ」という異世界系配信者としてデビュー予定であることを知り、第一印象が「かわいい」
いや、バーチャルの配信者は基本的にみんな可愛いので、この言葉では全くの説明不足である。
何やら魔法を使うことができ、引っ越してきたばかりなのでお金に困っている、とのことらしい。健気で真面目、それでいて、ほんのりあざとさというか、「お願い事をされたらなんとなく引き受けてしまう」不思議な魅力がありそうだと感じた。
ご存じTwitterは、文字と画像、動画投稿などが可能だが、文字だけでこれほど心を掴んでくる彼女はきっと逸材に違いない。
と思い、一週間が経過。
初配信の時間は3月30日午後7時ちょうど。今日は残業をすべて拒否し、わき目を振らずにまっすぐ帰宅した。
そして午後7時
「…あ…あー…わーすごい!声聞こえてきた!」とはしゃぐ声
いや、今声を出しているのは君だが
「…え?始まったんですか?!ご、ごめんなさい!」と慌ただしく自己紹介を始める。どうやら緊張でガチガチのようだ。
「す、すみません…こういう機械って、見るのも初めてで、何が何やら…って感じでドキドキしてます・・・えへへ」
あ、あざとい…しかし、緊張を跳ねのけるメンタルの強さはあるようだ
「はじめましてー」「かわいい」「よろしくー」
といった文字が並ぶ。どうやら第一声はなんとかなったようだ。
しかしこの声は…、母性を感じる様でありながら、決して金切声ではなく、穏やかで、アニメ声優といわれてもおかしくない。企業からデビューする子なんだからもしかして声優なんだろうか?と勘ぐってしまうほどだ。
「声可愛いですね」「配信って初めてなんですか?」と質問してみた。
「あ、はい!コメントありがとうございます。配信どころかこのパソコン?とか言うやつも初めて見まして…お部屋から何から初めてのものばっかりですね」
彼女が在籍する「アナザーディメンション」という企業は、新興のタレント事務所のようである。僕のコメントはすぐさま発見され、たどたどしながらも元気よく返事が返ってきた。
彼女は続けて、
「実は、このお部屋も先月来たばっかりで、電車って言う乗り物にも初めて乗りまして…この街は人がいっぱいなんですね?こんなにいっぱい人がいるところは生まれて初めてなんですよ」とのことだ。
田舎暮らしなんだろうか?田舎にも電車はあるだろうし、走ってなくても存在位は知っているだろうけど…ここまで本格的に異世界の住人という設定を守ろうとしているんだろうか?
「ねーねーどこ住み?」「そんなに人が多いところって都内在住なのかな?」というコメントが流れた瞬間…
「あ、そうなんですよ、実は私、とうk」
「ストおおおおおおおっぷ!!」と突然別の女性の声が聞こえた
その女性は続けて「あ、あはははすみません取り乱しました~失礼しました~」という声とともにフェードアウトしていった。
え?なに?今のマネージャーさん?!
その存在に疑問を呈した他のリスナーたちが次々書き込みを開始、5分後には「異世界系配信者の初配信にマネージャーが乱入」という見出しと、都内在住という言葉がタイムライン上に拡散されていった。
「あ、あの~ご、ごめんなさい…住所はしゃべっちゃいけないんですね…実は、まだこの世界に慣れていないので、知り合いの方のお家に居候?っていうのをさせてもらっているんです。なので、マネージャーさんとは違う人なんですよ。この方が配信に出てもいいって許可も、そのマネージャーさんからもらっていますよ」とステラさんは切り出した。
「じゃあこの流れで自己紹介しようか…もう少し後になってこっそり出るはずだったんだけど…」と女性は一言。続けて、「私は、今井麻衣って言います。」訳あって、ステラちゃんを居候させてます。私とステラちゃんが一緒に配信をする形でデビューすることで運営さんから許可をもらってますので、よろしくお願いします。」と淡々と自己紹介をした。
「よろしくー」「実質マネージャーさんじゃない?」「同居人がセットって新しいな」などのコメントが踊る。
「元の世界はどんなところなの?」当然気になるリスナーが現れる。僕もその一人だった。
「元の世界だと、夜中にゴブリンとかゾンビが襲ってきたり、ドラゴンが空を飛んでいたりするんですけど、冒険者や魔法使いのギルドがあって、こっちで言う警察みたいなことをしてくれるんですよ。実家は魔法使いの家計なので、修行に出かけることになったんですけど、その途中で修行先が謎の光に包まれて、気づいたら山奥に立ってたところに麻衣さんが現れたんですよね~」と楽し気に語るステラ
麻衣は「いやいやそんなかるーく話してるけど、結構お腹空いて困り果ててなかった?」と当時を振り返る
ここで、「じゃあ魔法見せて」「異世界から来た証拠よろしく」といったコメントが飛ぶ
そういうのは聞かないのがお約束なのに…と思った瞬間
「いいですよ~どんなのがいいですかね?」
「火が出たりバケモン出すのじゃなかったらいいけど加減してね???」
とやり取りがあった瞬間
画面から突然淡い光が出始めた。
ステラは、「詠唱とかなくても出せるんですけど、詠唱したほうがいいですかね?」といい放った。画面の向こうでは紫色に淡く光る飛行物体が飛んでいる。よく見ると妖精のようだった。小さな火の玉がぼんやりと光っている。パソコンを始めて触った者にできる技なのだろうか?こんなエフェクトは見たことがない。もしかして麻衣さんの力なのか?
ここまで15分、先ほどのうっかりもあり、同時接続人数の数は300を超え、デビュー配信としてはかなりの数字をたたき出していた。
設定に忠実で、異世界感をこれでもかと見せつけていくその様は、あっという間に僕の心をつかんだ。
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