【短編】年末
悩みのたねである年賀状、今年もひと言コメントに苦戦している。
たったの、たったの、ひと言よ!
そう言い聞かせては、席をたってコーヒーを淹れたり、スマホをいじってみたりして、ぜんぜんすすまない。
もらった年賀状を参考にと、コメントに目を通したら、迷いのない文字の線から、送り主の話し声となって聞こえてきた。
語りかけてくれる心をじんわりとかんじて、同時にそれは私ないものだと不意打ちをくらう。だからこそペンがまったくすすまない。
相手が喜びそうな言葉はいくらでも並べられるけど、でもどれも想像でしかなないものはとても薄っぺらい。どうにかこうにか書き終えたあっさりとした文脈に私の声は聞こえなかった。
たった数行の答えに辿り着くまでの道のりが長過ぎる。紙の上をなめらかに滑るような文字で、心を通わせることができる人たちから、ほど遠いところにいることを再確認しただけの時間だった。
この長くてまとまらないものこそが私の頭の中で、これを処理できるのも自分だけだとわかっているから、誰かに投げかけたりはしない。
掘って掘ってやっとたどり着いた地下通路が誰かの通路と繋がっていたら、おつかれさまと語りかけるかもしれない、そのときに言葉はとめどなく出てくるのかもしれないし、やっぱり出てこないかもしれない。
「今年も幸多き一年となりますように」
幸は多いに越したことはないのだろうな、よそよそしくはないか、失礼にあたらないかな、精一杯の想像を巡らせて書いた文字はやっぱりどこか浮いるけれでも、地上で繋がってくれている感謝が少しだけでも伝わればいいと、ペンを置いた。