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ウチの法務の取説 その2

■この記事を書いている人
事業会社(小売業)の法務担当です。
法曹資格を保有していますが、諸般の事情で弁護士登録はしていません。
昔は事業部門の担当者として法務にいろいろと相談をする立場でしたが、今は逆に相談を受ける立場になっています。
自分自身や所属部門の仕事の進め方を改革することによって、働きやすい職場の実現や会社の収益向上に貢献したいと思っています。
その改革の手段として、デジタルという切り口で取り組もうとしています


1 総論

前回の記事で、私自身や私の所属する法務部門(ウチの法務)に関する概況を書きましたが、今回は、ウチの法務の課題について少し探ってみたいと思います。

ちなみに前回の記事はこちら

課題を探っていくためには、まずは当事者への聞き込みということで、前回の記事でご登場いただいた上司Kさんと話をしてみました。
自分なりの現状認識と問題意識を話して、それから上司Kさんの話を聞いた結果、少なくない認識のズレはありましたが、共通項として挙げられそうな課題は、概ね以下のとおりでした。

2 ウチの法務の課題(各論)

⑴ チマチマ系の契約審査に時間をとられる

① 私の認識

ウチの法務のチマチマ系の筆頭は、なんといっても契約審査です。
契約審査とは、会社として締結する契約について、担当部署内のチェックだけでなく、法務部門によるチェックもかけて、適法性やリスクの分析・評価を行う業務です。
事業部門の方はあまり意識することはないかもしれませんが、ほとんどすべての企業活動は何らかの形で契約と結びついています。
そして、これらの契約の多くは、一つ一つだけを見れば重要度も緊急度も個別性もさほど高くありません。いわばチマチマ系の契約です。

契約審査については、内容や取引規模等により一定の基準を設定して、それに達しないものは法務のリソースを投入せず、当該部署で完結してやってもらうという制度設計もありうるところですが、ウチの会社では、内部統制その他の理由により法務部門による審査を経ているということが非常に(ある意味で過度に)重視されています。

その結果、チマチマ系の契約審査が日々押し寄せてきており、特に上期末(8月末)と年度末(2月末)には大変なことになってしまい、利用者をお待たせするということになります。

期末に契約審査が集中するというのはウチの会社の固有事情かもしれませんが、契約審査の業務負荷の大きさについては、ウチの法務に限らず世間一般でも法務部門における共通の課題です。
最近ではいわゆるリーガルテックの一つとしてAIを利用した契約審査サービスも世の中に多くローンチされています。そこで、ウチの法務でもいくつかのサービスをお試し版で利用してみたこともあるのですが、素朴な実感としては正直それほどの効能を感じることができず、導入には至っていません。

ちなみにAIによる契約審査サービスに言及した記事はこちら

そんなわけで、チマチマ系の契約審査に時間を取られ、新規事業への法的側面からの支援や紛争対応など、まさに法務としての知識や経験が発揮されるべきところに力を割けないという、とっても残念な状況が生まれています。

② Kさんの認識

チマチマ系の契約審査が業務負荷を大きくしていることについては、Kさんも同じ認識です。

もっとも、Kさんとしては、特に具体的な打ち手は考えていないようで、ある意味で現状を容認しているという印象を受けました。

たしかに、チマチマ系の契約審査は会社にとって緊急度も重要度も低く、だいたいは当該部署の都合(ときには担当者の個人的都合)でワイワイガヤガヤと押し寄せてくるだけなので、対応を先送りしても会社として大きく困ることはないんですよね・・。

そうすると、Kさんのように、他に注力するべきこととの兼ね合いで、チマチマ系の契約審査にスピードがかかり効率が悪くても、マネジメント視点では、ある意味それを容認するというのもアリなのかもしれないと思いました。

③ 小括

チマチマ系の契約審査の効率を上げれば、事業部門の担当者には喜んでもらえるかもしれませんが、会社全体という視点で少し俯瞰してみると、ある意味で重要度や緊急度の低い業務の効率を上げているだけとも言えます。

チマチマ系の契約審査の多さは、敢えて厳しい言い方をすればマネジメント層・事業部門の責任回避や思考放棄の結果(・・経営判断に属する事柄でも自分で判断するのが怖いので、「法務に確認せよ」の一言で法務に投げてしまう。)として過度に生まれている側面もあります。

そうすると、小規模なデジタルツールによる業務改善というよりも、先に述べたAI契約審査サービスの更なる進化や、組織の制度設計・マインド改革による方が大きく前進しそうなので、今回の取り組みでは検討対象にはしないことになるかもしれません。

⑵ 対応に一貫性がない場合がある

① 私の認識

事業部門からの相談や依頼には、上記の契約審査以外にもいろいろなものがありますが、人によって考え方や判断が分かれる面があります。自然科学のように一義的に答えが出やすい分野とは異なり、法律の世界では人による判断が入ることが多いので、これは仕方がない面があります。
とはいえ、事業部門としては、時と場合、あるいは聞く相手によって回答や判断が異なるというのでは、予測可能性が担保されておらず、仕事をやりにくいでしょう。例えば、以前聞いた時には👌OKだといわれていたからその前提で商談を進めていたのに、今回別の人に聞いたらNGだと言われた・・・みたいな。
したがって、大事なのは、法務部門としての回答や判断に一貫性を持たせることなのですが、現状ではこれができているとは言い難い状況です。
個別性が強い案件については、判断が違っていてもそれは個別性ゆえなのですが、まったく同じような案件や事柄で判断が異なるというのは問題だと思っています。
私としては、この課題の最大の原因は、仕事が属人化・タコツボ化していることにあると思っています。

② Kさんの認識

上司Kさんはあまり大きな問題とはとらえていないように感じられました。
そもそも仕事が属人化・タコツボ化していること自体をあまり問題とは思っていない印象を受けます。
また、Kさんとしては、定期的なミーティング等による案件共有によって解消できるだろうという考え方でした。

③ 小括

この問題については、確かに定期的なミーティングをすることで一定程度の問題解決に寄与しそうです。
もっとも、現在進行中の案件や、現時点でのメンバーが知っている情報に関しては対応の一貫性を担保できますが、過去の案件との一貫性や現在のメンバーが知らない案件との一貫性は担保できません。
したがって、定期的なミーテイングはそれはそれで始めるとして、何らかの管理ツールの導入によって過去の案件との一貫性の担保や、未来の案件との一貫性も確保できそうに思いますので、今回の取り組みになじみそうです。

⑶ 事業部門とのコミュニケーション不全

① 私の認識

ちょっと誤解されがちなのですが、法務の仕事は事業部門とのコミュニケーションがきわめて重要な仕事です。
法令や判例・裁判例の調査、参考文献の確認、契約書の読み込みや起案など、一人で黙々とやる局面は確かに多いのですが、どのような案件であってもフロントラインで仕事をしている人たち=事業部門との意思疎通や情報共有は大前提になってきます。
上記の契約審査の例でいうと、当該契約書がどのような取引に関するもので、リスクや問題点について事業部門としてはどのように考えているのか、といったコミュニケーションは欠かせません。
しかしながら、現状としては、事業部門との必要十分なコミュニケーションが取れているとは言い難い状況のように思えます。
その結果、たとえば、事業部門から当該案件の固有事情や事業部門としての考え方(≒経営判断)といった前提情報を得られないままに、正面から法律論を聞かれて、法律的には至極まっとうなド正論だけを返すような、ちょっと不毛なやり取りが見られたりしています。

② Kさんの認識

Kさんの認識としてもほぼ私と同様で、一部の事業部門や担当者とは良好なコミュニケーションが成立するが、それ以外とはなかなかかみ合わないことも多い、という認識です。

③ 小括

この問題は、法務部門が出来ることと出来ないこと、法務にさせてよいこととさせてはいけないこと等に関して、マネジメント層・事業部門と法務部門の間に認識のギャップがあることが原因ではないかと思われました。
そうすると、これはツールの導入というよりも制度設計やマインド改革によって解決すべき問題とも思えます。

⑷ 案件が組織として管理されていない

① 私の認識

ウチの法務では、前回の記事でも述べた通り、メンバーごとに役割分担や担当範囲が決まっているのではなく、人に仕事がくっついています。
したがって、事業部門は、ウチの法務の任意のメンバーに個別で連絡を取り、個別に案件のやり取りをし、個別に案件が終わっていく、という形になります。

案件ごとに、必要に応じて自分以外のメンバーをアサインすることはありますが、基本的に人単位で仕事が分かれています。
まるで弁護士事務所のような仕事の仕方ですね・・・。

必然的に、案件が組織として管理されていない状況が生まれます。

② Kさんの認識

この点について、上司Kさんとしては、事業部門からの情報の入り口で自分を経由することが多いですし、法務のメンバーが対応中の案件もメールのCCなどによって自分を通る形になっているので、私の問題意識とはかなり温度差があるのかなと感じました。

③ 小括

私としては、案件が組織として管理されていないという点は、単なるマネジャーによる管理上の問題というよりは、むしろ法務としての対応の一貫性の問題(前記のとおり)や次に述べるナレッジマネジメントの問題と深く関係していると思っていますので、実はかなり重要な問題だと捉えています。

そして、この課題については、何らかのツールの導入で解決できそうです。

⑸ 個人と組織の経験の相乗効果がない(ナレッジマネジメントの不足)

① 私の認識

前記のように仕事が属人化・タコツボ化しているので、個人の経験が組織としての経験につながりません。
また、これまで組織が経験してきたことが、メンバーが利用できる形で蓄積されていないので、これまでの組織の経験をメンバーが活かすこともできません。隣の人に聞いてみたらたまたま情報を持っていた、ということはあり得ますが、仕組みとして整えている訳ではありませんから、たまたま知っているかもという運にすがるような感じです。
法務の仕事というのは、経験の蓄積がソリューション能力に直結するところがあるので、これは本当にもったいないことで、しかも効率が悪いことだと思っています。

法務に限らず、ナレッジマネジメントという概念で論じられることが多い課題です。

ちなみに企業法務のナレッジマネジメントについて記した本はこちら。

② Kさんの認識

案件が組織として管理されていない問題と同様の認識でしたが、既成の管理ツールの導入を検討しているとのことでした。
「それですべて解決する」とのことです。

とはいえ、まだ具体的な検討に入っているようでもないですし、そのツールの効能、コスパがどの程度かもあまり見えていません。

③ 小括

検討中の管理ツールの行方については注視するとして、それよりも低コストで、しかもウチの法務に適合する形のツールが作成できれば、これは素晴らしいことになりそうです。

⑹ メンバーがどこで何しているか分からない

① 私の認識

この課題についてはあまり私は問題意識を持っていなかったのですが、それは私が管理される立場だからでしょう。
また、私は外出やら打ち合わせやらテレワークやらで、自席に座っていないことも多いのですが、私宛の電話を受ける人が実際上困ることがあるというのもあるようです。
そして、前回の記事で、ホワイトボードによるスケジュール管理のことを少し書きましたが、実はこれとは別に、ウチの法務では、紙に鉛筆で記載する方法によるスケジュール表も存在していて、この方法でこの課題を解決しようとしていますが・・。

② Kさんの認識

Kさんとしては、ホワイトボードや紙のスケジュール表に関して、不合理なことをやっているなという認識は共通していますが、ホワイトボードや紙にこだわりのある層が一定数いて、その人たちを巻き込んだり説得したりしてまで方法を変える、廃止するというのは面倒なので、消極的な現状容認という感じです。

③ 小括

ホワイトボードや紙のように、1秒で見ることができるツールにも確かにメリットはあるのですが、そうはいってもホワイトボードや紙は細かい情報を書ききれませんし、管理の手間も考えると、何らかのツールを導入するほうがよさそうです。
ただ、導入したからといってウチの法務の機能が上がっていくというものではなく、チョットした不合理・不便さが解消されるというものなので、優先度はあまり高くないかもしれませんね。

3 今後の方向性

以上からすると、小規模なデジタルを切り口としたツールの導入による解決になじみそうな課題は、以下の4つになるかと思います。

  • ①対応に一貫性がない場合がある

  • ②案件が組織として管理されていない

  • ③個人と組織の相乗効果がない(ナレッジマネジメントの不足)

  • ④メンバーがどこで何をしているか分からない

このうち、①②③については、Kさんが検討している管理ツールの導入が実際にコストに見合う程度に機能すれば解決されそうですが、その効能がまだハッキリと見えないので、並行して解決方法を検討していく価値がありそうです。
また、④は①②③とは少し毛色が違っていて、かなり卑近な課題でリターンはさほど大きくないという印象ですが、逆に言えばちょっとした不便さ、不合理さの解消には寄与しそうです。

少々まとまりのない内容でしたが、今後さらに検討を深めていきたいと思います。


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