「経路依存性」に囚われた問題解決の難しさ
最近のニュースを見ていると、まだまだ「わかっちゃいるけど…」と感じる問題が多いと感じませんか?猛暑が続く中でエアコンをつけずに熱中症になる人、解決が進まないハラスメント問題、いまだ根強い振り込め詐欺や女性活躍推進の壁…。これらは一体なぜなかなか改善されないのでしょうか?
ここでヒントになるのが、「経路依存性」という概念です。ビジネスや社会心理の分野でよく耳にするこの言葉ですが、簡単に言うと「過去の決定や慣習が現在の行動や選択に大きな影響を及ぼし、抜け出すのが難しくなる」という現象です。
1. 「経路依存性」って何?
「経路依存性」は、もともと経済学者のW・ブライアン・アーサーが「収穫逓増経済理論」の中で提唱したもので、ある選択肢や行動が自己強化され、次第に他の選択肢を圧倒してしまうことを指します。つまり、一度決められた道(ルート)に沿って物事が進むと、その道を離れるのがどんどん難しくなっていくというメカニズムです。
たとえば、長年の習慣や「常識」として定着しているルールに反する行動をしようとすると、無意識に「違和感」を覚えたり、場合によっては「何か変じゃない?」と思われてしまうことがありますね。この現象も、経路依存性の一例です。
2. 「経路依存性」の例:熱中症対策と根性論
熱中症対策の必要性は、今やニュースでも多く取り上げられていますが、いまだに「昔はクーラーなんてなくても大丈夫だった」「若者は根性が足りない」と言ってエアコンを使わない方がいます。しかし、この「根性論」は、現在の気温や環境にはそぐわない考え方です。過去に培われた「根性があれば乗り越えられる」という価値観が経路依存的に今も生き残り、現代の暑さ対策の妨げになっているのです。
3. 職場でのハラスメントも経路依存性?
職場でのハラスメントが根強く残ってしまう背景にも、経路依存性が関係していると考えられます。「俺の時代はこうだった」「これが職場の伝統だ」という考えに囚われ、「時代遅れ」や「不適切な行動」とされる行為が改善されないケースが少なくありません。「今の若い者は甘い」「冗談も通じない」など、過去の職場文化や考え方が今も色濃く残っていることが問題解決を難しくしています。
4. ダイバーシティ推進の壁
女性活躍やダイバーシティの推進も、いわゆる「経路依存性」によって進まないケースがあります。たとえば、女性が管理職に就くことを「無理」と決めつけるような古い価値観が職場の中で暗黙のルールとして根付いている場合、「女性の管理職登用を増やしましょう」といっても簡単には変わらないものです。
「これまでと違うルート」に対する無意識の抵抗が働くため、個人の価値観を変えるだけでなく、組織全体の文化を変える必要が出てくるのです。これは一朝一夕にできることではなく、経路依存的な思考パターンから抜け出すために組織的な変革が求められる場面です。
5. 「パラダイムシフト」を起こすために
「経路依存性」の問題を解決するには、「パラダイムシフト」、つまり過去の固定観念から脱却する意識的な努力が不可欠です。「時代は変わる、だから自分も変わる」という意識を持つことで、経路依存的な行動や思考パターンを打破できるのです。
たとえば、熱中症対策では「今は昔と違って、命を守るためにエアコンを使うべきだ」と再認識し、職場のハラスメント対策においては「時代に即したコミュニケーション方法を意識する」ことが重要です。さらに、ダイバーシティを推進する際には「過去の習慣や価値観に縛られず、多様性を受け入れる」ことを職場全体で意識することで、経路依存から脱却できるでしょう。
結論:わかっちゃいるけど…からの脱却
「わかっちゃいるけど…」と、わかっていても変えられない理由は、私たちが過去の慣習や価値観に囚われている「経路依存性」にあるのかもしれません。日常の小さな一歩からでも「自分はこう考えがちだけど、これは変えられるかも」と振り返ってみることで、今までのルートから新しい道を選べるようになるかもしれません。
言葉だけでなく行動に移すことが、本当の「パラダイムシフト」を起こす鍵です。「経路依存性」という考え方を知ることで、なぜ問題解決が難しいのかを理解し、少しずつでも変革に向けた一歩を踏み出していきましょう。
(この記事は、2018年7月26日にオフィスKojoのブログ「伝刻の詞」にエントリーしたものを再編集したものです。)