ドラッカーのMBOを再発見:目的思考と自己統制による本質的マネジメント
ドラッカーの「目標による管理(MBO:Management by Objectives and Self Control)」は、単に「目標設定」にとどまる概念ではありません。日本では一般的に「目標による管理」と訳されますが、実際のところ、この訳ではドラッカーの本質的な意図が完全には伝わりません。MBOは、より深く「目的思考による自己統制でのマネジメント」として理解されるべきものです。
MBOの本質:目的達成の自己統制
ドラッカーが提唱したMBOの核心は、従業員が主体的に自らの目標を設定し、その達成に向けて自己統制を行うことです。つまり、単に上司や管理者から与えられた目標に従うのではなく、従業員自らが目的を理解し、その目的を達成するために自発的な行動を取ることが求められます。このため、MBOは「目標管理」というよりも「自己統制による目的達成プロセス」に重点が置かれています。
MBOでは、上司と従業員が協力して目標を設定することが基本です。しかし、この目標はあくまで目的を達成するための手段であり、重要なのは個々の従業員が自己管理のもとでその目標に向かって動くことです。こうした「自己統制」のアプローチが、組織全体の成果を最大化するポイントとなります。
「目標」ではなく「目的」
日本では「目標による管理」と訳されたことで、多くの企業がMBOを「数値目標の達成」に重点を置く傾向が強まりました。しかし、ドラッカーの意図する「目的」は単なる短期的な数値目標ではなく、組織の長期的なビジョンや価値観に基づいた方向性を意味します。つまり、MBOは「いかに数値目標を達成するか」ではなく、「いかにして組織の目的を実現するか」に焦点を当てています。
目標はあくまで目的達成のための手段に過ぎません。組織全体の目的に向かって、各従業員がそれぞれの役割を果たし、自己統制のもとで自発的に行動することが、MBOの真の価値です。
自己統制(Self-Control)の重要性
MBOにおけるもう一つの重要な要素が「自己統制(self-control)」です。ドラッカーは、管理職が従業員を直接管理するのではなく、従業員自身が自分の目標に責任を持ち、その達成に向けて自己統制を行うことを重視しています。この「自己統制」が実現することで、従業員は自発的に行動し、組織全体のパフォーマンスを高めることができるのです。
ドラッカーは、MBOが組織のピラミッド型のマネジメント構造を崩し、従業員が自らの役割を理解し、目標に向けて主体的に動く文化を育むと信じていました。管理職は従業員を「管理」するのではなく、従業員が自己統制を発揮できる環境を整えることが求められるのです。
翻訳の限界と改善案
「目標による管理」という訳語はMBOの一部を反映してはいますが、ドラッカーの強調した「目的(objective)」と「自己統制(self-control)」という重要な概念を十分に伝えているとは言い難いです。そのため、より正確にMBOを表現するために、「目的志向の自己統制マネジメント」や「目的に基づく自己管理」といった表現が適しているかもしれません。
これにより、MBOが単なる数値目標の管理手法ではなく、組織の長期的な目的に向かって、個々の従業員が自己統制を通じて主体的に貢献するという真の意図を明確にできます。
結論
ドラッカーのMBOは、「目標」による外的な管理ではなく、「目的」に向けた自己統制のプロセスを重視しています。この「目的思考による自己統制でのマネジメント」という理解は、現代の企業においても重要なリーダーシップスタイルとして再評価されるべきです。
従業員が自らの目標に向かって自己統制を発揮し、組織の目的達成に向けて貢献するためには、経営者や管理職がそのための環境を整え、サポートする役割を担うことが求められます。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?