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【読書まとめ】なぜヒトは心を病むようになったのか?小松正 著 ~vol.1~
進化心理学とは、心も進化によって形成されたという前提に基づいて、ヒトの心理を研究する学問である。本書は、この進化心理学の視点から。様々な現象について説明をしている。私にとっては新たな切り口であり、2回に分けてまとめて整理したい。
「うつ」
うつの生涯有病率は7%といわれ、かなり高い。この事実から、うつ状態になりやすい遺伝子は生存・繁殖に対して常に悪影響なわけではなく、良い影響を与えることもある。
うつ状態は、社会的地位を失ったもののそれを奪い返す可能性がない場合に生じる防御反応という仮説がある(ランク理論)。すなわち、敗者自身の意欲を失わせ、闘争を強制終了させることが、防御反応としてのうつ状態の役割になる。そのため、敗者が自身の敗北を素直に認めて受け入れた場合には、大きな被害を受ける危険がなくなるため、うつ状態は消える。
「自殺」
WHOによると、全世界の死因の1.4%は自殺であり、戦争と殺人による死亡者数の合計を上回る。自殺(利己的自殺)はヒトに特有の行動であるという。自殺の共通の目標は意識の停止、苦痛からの解放である。ヒトは、精神を高度に発達させた結果、不幸な事態にみまわれたときに、心に大きな傷を負うというリスクを背負うことになった。ヒトにとって自殺は、苦痛から逃れるための合理的な方法であり、容易に実行できる手段があり、伝染しやすいという特徴がある。それにも関わらず、ヒトが進化の過程で生き残っているのは、ヒトには自殺に対する防御策が備わっているという可能性がある。
まず、自殺に対する文化的障壁の存在。例えば、イスラム教の教え。
また、クリフォード・ソーパーは、自殺に対する防御メカニズムとして「幸福感」が進化したという説を提唱している。すなわち、人生は生きるに値すると肯定的に感じられる心性を備えた個体が生き残ったため、人類は生きることに希望や幸福を感じるという性質を備えるようになった。この説は、ポジティブ心理学における「苦しみを通して栄える」という理論と類似している。
「依存症」
本来は生存にとって有利であるがゆえに進化してきた脳内の報酬系のシステムが、食物や薬物を大量に入手、摂取することが可能になった現代においては、依存症を生み出す一因になったといえる。この現象は、「進化のミスマッチ」の例である。
「サイコパス」
サイコパスの特徴は良心・共感性の欠如、恐怖心の欠如。人口の1%程度存在している。サイコパスにとっては、少数派であることはむしろ進化においては有利になるという仮説がある。サイコパスにとって都合がよいのは、他人をすぐに信頼する善人が周囲に多くいて、それらの者を容易に利用できる状況であり「社会的捕食者」と呼ばれている。サイコパスにとっては、一つの場所に長くとどまり、長期間同じ者と関係を続けることは都合が悪いため、所属集団を頻繁に変えたり、人の流動が激しい環境で生活することが都合が良い。
「差別」
差別を進化の観点から説明するキーワードは以下の二つである。
⒈「行動免疫システム」
偽陽性(安全なものを危険なものと判別して遠ざけること)を生み出しやすい行動免疫システムは、外交人や病気の患者を見境なく誰でも排除するという差別的行動につながりやすい。
⒉「内集団バイアス」
内集団びいきを行う個体は、その行動を見ている他の内集団メンバーから良い評価を得ることによって、集団内で有利な立場を確保できる結果、適応度(生存率と繁殖率)が高くなる(閉ざされた一般互酬仮説)。仲間を助けるという社会規範を守っているかどうかを内集団メンバーが互いに見ている状況では、自分が見られていることに敏感な個体は積極的に内集団びいきを行うことが予想される。
※教育や社会制度などの環境を整え、解放的な価値観を向上させることによって、差別を減らすことができる。