見出し画像

【ショートショート】報告



①始まり


ある地方の大衆居酒屋

カウンター8割で成り立つこの店の一角で

父親と娘が横並びに座っている。

「最近のロシアときたら・・・」

父親が瓶ビールをコップに注ぎながら

当たり障りのない会話を始める。

「ね。本当に恐ろしいわ」

娘もすかさず呼応して、
コップに入ったビールを飲み干す。

「店長 シロとレバーとカシラ」

父親が注文する。

さぁ親子の近況報告会の始まりだ。


②会話


「最近、お父さん腰が痛くてな」

やや心配させながら、
会話に繋げやすい話題を振る父

「そうなの?大丈夫?」

心配する娘

「あぁ 今のところは」

若干の不安を匂わせながら、
ぐいっとビールを飲み干す父

酔いが回らないと
中々本題を切り出すことは難しい。

とは言ってもこの2人の本題が共通している
ことはお互い分かっている。

「はい、シロとレバーとカシラ」

出来立ての焼き鳥が運ばれてきた。

「おいしそう」

娘は思わず呟く

「冷めないうちに食べよう。
日本酒2合 冷で あと刺し盛頂戴」

エンジンが掛かってきたのか、
ピッチを上げ始めた

「拓真 大人しくしているかな」

思い出したかのように娘が喋りだす。

「ばぁばが見てるから大丈夫だろう」

「拓真はいま何歳になったんだっけか?」

知っているが、
会話を繋げるため敢えて聞く父

「2歳 イヤイヤ期でもう大変 
この間なんて・・・」

日頃の大変さを語る娘。
うんうん頷きながら、娘の1人の大人としての成長を嬉しく思いながらも寂しくもある父親がいる。

「まぁ 人一倍大変だけど 
本当にかわいいわ」

娘が喋り終えた。最後の言葉は本題に入る入口を示してくれている。

③本題


「そっか・・・色々大変だな」

やや俯きながら父は呟いた。

「はい 刺し盛と冷2合ね」

良いタイミングで料理と酒が運ばれてきた。

「ま 今日はゆっくり飲もう」

おちょこに日本酒を注ぐ。

そう娘は1週間前に、
シングルマザーになったらしい。

突然の報告に困惑した父だったが、

娘の「子供のためを思うと、絶対1人で育てたほうがいい」

という言葉に強い意志を感じたためその時、深く聞くことは出来なかった。

あらかた、旦那の浮気か借金などが原因なのだろう。

今日はそのことを聞くための酒の席だし、
向こうも話してくるだろうと思っている。

昔から何かと父を頼ってきた娘だ。
そして今まで父と娘の間には何でも話せる

強い信頼関係があると確信している。

娘から本題を広げてくるのをもう
少し待ってみよう

「ねぇ お父さん」

ほら来た。娘は何かを伝えたいとき、
いつもこの会話の入り方をしてくる

「ん?なんだ」

何でも言ってごらん。成人しても娘は娘だ。ましてやシングルマザー。父親を頼っていいんだぞ。













「死体の隠し方って知ってる?」

今日から私は共犯者になる。

いいなと思ったら応援しよう!