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悪いのは、

自分を責めてはいけないよ、と励まされるけれど、悪いのは、やっぱり、ぼくだ。

うつ病だと知ってはいたけれど、それを認めたくない、ぼくがいた。ちょっと頑張りゃ、今の苦しさなんて、すぐ乗り越えられるよ。そう思っていたんだ。

軽く、と言えばとそうでもないけれど、克服可能な苦しみなんだって。2、3年もありゃ十分だろうって。だって兄ちゃんにも障害があるんだぜ。お前はしっかりしてよ、と。これが本心だ。

だから、ことさら冷たくした。ぼくの言うことにうなずいている間は優しく、でなけりゃことさら。視線の冷たさを、君が感じなかったわけはない。

本当は、砂浜のひと粒ひと粒をつまみ上げ、別の砂浜をこさえるほどの努力がいったのに。こんなことになるまで、分からなかった。

途方もない時間と向き合う君には伴走者が必要だった。お母さんはしっかり寄り添っていたのに、ぼくは突き飛ばしたり、無視したり。

あの夜、多くのもやもやが吹き飛ばされた。理解ができた、君のこと。同じ時、ぼくは酒飲んで騒いでいたんだぜ。最低だ。

考えてみりゃ、これは殺人事件じゃないか。人に迷惑をかけるのがきらいだった君が、こんな結末を迎えたのは、ぼくのせいだと思ってくれていい。残りの生涯、ぼくは檻のない獄舎で生きる。


追伸 まだ警察署にいる君へ。遺体袋の君と会うのが本当は怖い。どうにかなってしまいそうで。だけど親だもの。最後の務めはしっかり果たすよ。心配するな。

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