短編詩

ー宇宙ー
 夜はあいにくの曇り空で、
星ひとつ見られなかった。
翌日、けたたましい目覚しで
目を開けた。

 動かない。金縛りのような数分の格闘。

 格闘に疲れたのか、
僕はふわりと立ち上がる。
眠気が徐々になくなっていく。
気づくと空は雲ひとつない快晴。

 何をするでもなく、
蒼天の空の頂点を見上げていた。
自分が空の青に溶けていくような。
このコンクリートジャングルにも、
日常の喧騒さにも、
決して交わることもない豊かな風景。

 夕方、紅の海にモコモコとした雲々。
これから、ゲリラ豪雨が来るのだろうか。
スコールのような。

 この日の情景を僕は忘れない。

 どうか、忘れないでほしい。
僕らは自然とあることを。
僕らは生命とあることを。
僕らは宇宙とあることを。

僕らは誰かのために生きていることを。

-新年噺-
深淵に秘められた僕の心。傷が深いゆえにそこには何も届いてこない。
雪深々と降り積もる中、僕はさらに殻に閉じこもるー凍っている。
真夜中積雪した真新しい白が不気味に光っている。
今日は大晦日。両手が寒さでじんじんと痛い。
寒いと思ってコタツにあったてもやはり痛い。
気を紛らわせようと、ロック割のウイスキーを注ぐ。
もう寝ようか。いつの間にか寝込んでいた。

一瞬のような、永遠のような迷宮を僕は一人歩いている。
無限回廊の狭間で、
なす術もなく途方にくれトボトボと歩いていた。
いく人の人と出逢い、別離してきた。
今まで演じてきた仮面は幾ばくか?
行き先不明の旅を続けていた。
吹きすさぶ嵐が僕の周りに渦巻く。

あっ!転機となったのは早朝のことである。
その日は晴れた。
朝日が差し込む。初日の出だった。
快晴の空に赤い暖かい日差し。
その赤き血汐によって徐々に殻が溶けていく。
殻がすっかり無くなり、自分の心持ちがすっと軽くなった。
恍惚として、朝陽を燦々と浴びた。そう、あれは夢だったのだ。
過去でも未来でもなく現在(いま)この時を生きていると実感。
現世での居心地の良いことこの上ない。
よし、今年も頑張るぞと。
新年、気持ちを新たに送るお噺。
希望に満ち満ちた新たな詞をさあ紡ごう。

時間というものは残酷なもので、全ての者に等しく分け与えられている。
過ぎ去りし時は返ってこない。
時間というものは尊いもので、鼓動と一期一会を分かち合える。

荒んだ気持ちの人に捧げるエール

雪解けの春を気長に待ちながら、
福寿草、ふきのとうを楽しみに。
桜吹雪の舞う季節を見るために。
艶やかな雨のしずくも恋しい。
君に幸あれ。

-早春の賜物-
  桜よ、何故そんな悲しいようにひっそり咲く?
一段と綺麗な時分なのに。
そうか、去年から戯れる人々の渦がなくなったせいなのだろう?
一昨年は幾多の人たちを誘い、酔狂にしたのだろう。
花を咲かすにはもう元気が無くて最期の盛大さの花をつけたのに。

悔しかろう。
僕はなす術もなく、ただただ立ち尽くすことも叶わず、
匂いだけを愛でていた。

桜を流し見しつつ、虚空をぼんやり見ていた。
薄曇りで天空から舞い降りる光の柱を見た。

何故だろう、涙一筋きらり。
感傷的になったのだろうか?

桜見物の帰り道、夕刻になった。
空。
僕がどんな頭にある美辞麗句を並べようと
あの夕焼けの空は表せなかった。

空虚な気持ちを埋めてくれて、
次へつながる鍵をくれた。

-憎悪と贖罪-
躍動するこの感情はなんだ。
この込み上げ溢れ出る憎悪の感情
清水の泉の底から、赤黒くどろどろした
封印してきた感情
外に出してはいけない
そう思ってきた
でも、限界だ。
泉は。。。
血が煮えたぎる。
咆哮が先陣を切って刃が泉を枯らす。
贖罪、生きていること自体”罪”と感じている

その園は僕を包み込むように受け入れてくれた。
そのとき、僕は思った。
「ああ、こんな僕も生きていていいんだと」

-無題-

望み叶えるため、今日もさすらう。
冬の氷に閉ざされた大地を穿って、
雪解けのせせらぎの音を静かに聞きながら、
待つ、待つ、待つ。
春の兆し。暖かな陽光がほんのり大地に
注がれ、やっと地上に出られた。
一花のふきのとうのレモン色がぬくぬく出てきた。
生命の躍る季節が到来したことを告げてくれた。
ああ、美しき野原よ。

-波止場にて-

ああ、なんて綺麗な夕焼けなのだろう。
丁度、太陽の血汐が水平線へ吸い込まれ、
あたり一面、最後と言わんばかりの紅い水がこぼれていく。
なぜ、僕はここにいるのか忘れてしまった。あぜん。
今まで僕は、さげすまれ、傷つき、社会から隔絶されている、と考えていた。
そんな境遇への悲嘆の思いを抱いていた。
今の今まで。そんな気もすっかりなくなるほどみとれた。
気がつくと、僕の目からきらりと一筋のしずくが流れた。
そう、今日は「ポジティブ記念日」。
ご褒美をあげなくては。
そのまま日は暮れ、夜の砂浜、物静かな波の寄せては引き、
寄せては引きのリズムが心地よく耳に響き渡る。
青白い満月を眺めながらの贅沢な時間。
ホットミルクを飲みながら、月のワルツを見上げていた。

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