骨董屋の彼女
地元の商店街に、一軒のアンティーク骨董屋があります。高齢化し、活気がなくなった商店街にぽつんと小さなお店が。
私が街に出かける時間帯と、お店がオープンする時間帯があまりかみ合ってないので、開いてる様子はたまにしか見ないのですが、ほんの時々、見かけると入ることがありました。でも、なぜか魅入っても買うことがなく、何年も経っていたようです。
お店の方が、背が高くて黒髪のいつも着物をリメイクしたようなワンピースを着ていて、大ぶりのネックレスをしています。いかにも、骨董屋の独特な雰囲気を醸し出していて、ちょっとそのあたりには簡単には見かけないタイプの女性です。
私は、惹かれるような、でも少し馴染みにくさを感じていました。だから、あまり自ら出向くことがなかったのかもしれません。
昨年の六月、ちょうど通りかかりふらっと入りました。さっと見ただけなんですが、気になる器があって、しかも安く、私にも手が出るものでした。でも、美容院のカットの予約がせまっていたので、ありがとうございました、とだけ言って店を出ました。お店には、高齢の方たちが三人ほどあつまり、お店の方が一生懸命お茶出して話を聞いています。接客業が一番苦手な私は、そんな彼女を素晴らしいと思いました。
そして、何日かして、その器が気になってしょうがなく、とりあえず行ってみて決めようと思いました。
私が躊躇しているのは、骨董の器に踏み込むことで、そこへの戸惑いがあったからです。癖になったらどうしようとか、いろいろと頭の中を駆け巡りましたが、お店で最初ひとりで見ていたら、一枚だけ買ってみようかなと少し心にブレーキを感じながら、でも決意が出てきました。同じものが六枚ありました。
お店の方に、声をかけて器について質問したら、なます皿といって、大正昭和初期の印判皿で、なますのような汁物も取皿として使える、少し深さのあるものです。庶民の間で使われていたものです。それで彼女と話し始めたら、思っていたより気さくで話しやすく、他の器も見せてもらいました。だんだん、彼女からだったら器を買ってもいいかも、という気になりました。私にとってはそこが大事で、嫌な人からは買いません。
それで、なます皿六枚から選び始め、古いものだから、一枚一枚安定感を見るのに、手でがたがた揺らしてみたりしていると、彼女が、
私そんなの何にも気になんない、
私はがたがたなのばっかり、
ちょっと細かいね。
そう、私のことを言われましたが、私はかまわず真剣に選んでます。がたつきだけでなく、印判の絵や色の濃淡も見ています。すべて違うからです。結局、一番最初に手に取ったものが一番良くて決まりました。こういう場合が多いです。
決まって、お会計お願いして、話してたら、
箪笥もがたがたよ、
と、うれしそうに笑顔で話しています。
私も子供の頃からの古い箪笥を使っています、古い帯をひいてありますよ。
と、話しました。
そういうことしてるんだあ。
と、うれしそうに、ニコニコしています。
私もニコニコです。
ありがとうございました!
気持ちよくお店を後にしました。
実はこの日、年に数回しかない大吉日の日で、新しいお買い物をするのに、発展する運気のある日でした。
何より、お買い物するときの、お店の方とのコミュニケーションは、その後の使い心地に関わってくることなので、大事にしています。
彼女のおかげです。
それでは、またお会いできますように。
ありがとうございました。