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他人のマジ喧嘩見て前向きに生きようと思った22の夏

私の海にまつわる思い出は大学生グループのマジ喧嘩を目撃してしまったことです。

私は釣りを趣味にしていまして、大学時代によく通った港にはYAMAHA発動機さんの製品群でいうところの「プレミアムヨッツ」に近い船舶が多数停泊していました。行ったことないですがアメリカの海岸はこんな感じなんでしょうか。実際、真っ黒に日焼けした金髪のお兄さんとマイクロビキニを着たその彼女が洋上ではしゃぐ姿は、ここが日本かと疑うほどでした。

私は彼らに見つからないように停泊場を抜け、人気の少ない港の隅に陣取ります。釣れなくとも、夕陽を眺めてのんびり過ごすだけで幸せです。私には友人がおりませんでしたので、話し相手は1パック500円のアオイソメ(中)です。

日が落ち、電気ウキに切り替えようとしたタイミング、大学生らしき集団が私の近くにやってきました。後方10mほどの距離、男女5人のグループです。手にはバケツと、ビニール袋から花火が見えます。人の迷惑にならぬよう港の端に移動してきたら私がおり困惑したのでしょう。少し迷うような素振りの後、陰キャ一匹どうにでもなると思われたのか、彼らは花火を始めました。見ているだけで惨めさがこみ上げてくるので、当時の私にとってリア充大学生は天敵です。すぐに帰ろうと思いましたが、すぐに帰るとビビッて逃げたと思われるので、しばらくしてから帰ろうと思いました。


時間は宵。夏の匂いを嗅ぎながら、気心の知れた仲間と海で花火。汗ばんだTシャツを海風が心地よく通り過ぎます。何気ない会話も、くだらない冗談も、まるで青春映画のワンシーンのよう---------

「うぉぅうええうるぇええせぇえええあっぼぼげぇえああえぇあ!!!!」

5分ほどした時でしょうか、一人が聞き取れないほどの怒声を発しました。それに共振するかのようにもう一人が怒鳴り、収集がつかなくなりました。会話の詳細は聞こえませんでしたが、なにか気に食わないことがあったのでしょうか。どうや男性二人が喧嘩しており、その他3人はそれをなだめている構図のようです。

依然、言葉にならない叫びを発しております。どれほど強い感情なのでしょうか。感情が激しすぎて、言葉にできないのでしょう。海で友達と花火なんて、私にとっては天上人の楽しみです。きっと一生経験できないでしょう。いや、もう4年の夏なので確実に無理です。就活も終わっております。しかし天上人も、人生が順風満帆なわけではなかったのでしょう。憧れは理解から最も遠い感情だって、昔ジャンプで読みました。キラキラした彼らは悩みなんてなくて、仲が良くて、喧嘩なんてするはずがないと思っていました。彼らリア充大学生の気持ちなんて、想像しようとさえ思わなかった。気に食わないけど同じグループに居る奴だから、仲良くしなきゃいけないとか。なんか今日やけにつっかかるなとか。もうこいつ切るからブチぎれてやろうとか。彼らも私と同じ人間で、全てがうまくいっているわけではなかったのです。

私は少し、救われた気持ちになりました。自分の求める理想なんて、所詮は虚像でしかないのです。現実は、生臭い人間関係から逃れられません。私はそっと、その場から離れました。激情をおさえきれない彼らの叫び声を背に、私は歩きます。

人並みに青春を送れなかった後悔を断ち切り、前向きに生きようと思った22の晩夏。今でもたまに、夕陽を眺めながら釣り糸を垂らします。もっとも、喋り相手はアオイソメではなく、職場で出会った友人たちに変わりましたが。



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