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『ジョニー・キム』 〜Navy SEALs、ハーバード大卒の医者、そして宇宙飛行士へ〜
1 はじめに
韓国系アメリカ人「ジョニー・キム」として知られるジョナサン・キムは2017年にNASAの宇宙飛行士に選抜された。彼はハーバード大学メディカル・スクール(医学大学院)で医学博士号を取得した医者であり、海軍特殊部隊Navy SEALsの隊員として100回以上の戦闘任務をこなした軍人でもある。
2 幼少期
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ジョナサン・キムは韓国人移民2世として1984年2月5日にカリフォルニア州ロサンゼルスで生まれた。彼の両親はロサンゼルスで酒屋を経営していたが、母は小学校の代用教員としてダブル・ワークで働きながらジョナサンとその弟を育てた。一方で、父は高校をまともに卒業しておらず、たびたび母に対して暴力を振るうなどしており、ジョナサンの幼少期は暗く不安定なものであった。
ジョナサンは自分の幼少期について、「自分自身にまったく自信が持てない子供だった。」と語っている。
2002年2月、彼の父親は自宅の屋根裏で警官に射殺された。
3 海軍への入隊
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母はジョナサンの海軍入隊を涙ながら必死に止めた
同時多発テロの翌年の2002年、ジョナサンは16歳で米海軍に水兵として入隊する。そしてアメリカ特殊部隊の選抜試験(BUDS/S#274期)を通過し海軍特殊部隊ネイビー・シールズに配属された。当時のアメリカは、中東で「テロとの戦い」を続けていたが、ジョナサンは2度中東に派遣され、のべ100回以上の戦闘任務に従事した。
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ジョナサンは海軍(ネイビー・シールズ)入隊について、「僕の人生で最高の決断だった。なぜなら、夢を持たずに怯えていた少年を、自らを信頼できる大人へと成長させてくれたからだ。」と語っている。
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彼は敵の銃火のもと、複数のイラク兵を救出した功績でシルバー・スター勲章を授与された。
4 海軍から医学の道へ
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2009年、23歳となったジョナサンは『Seaman to Admiral-21(水兵から提督までー21)』という海軍士官養成プログラムに選抜され、無償でサンディエゴ大学への進学が許された。3年後の2012年、彼はトップの成績で数学の学士号を取得し、海軍少尉に任官した。そして、医者を志し米海軍の医療分野への道に進んだ。
医者を志望したことについてジョナサンは、「戦場で亡くなった多くの仲間に誓ったんだ。君たちが生きていたら、きっと素晴らしいことを成し遂げていたはずだ。僕は医者になる。君たちの死に報いるために。」と語っている。
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彼は2012年にハーバード大学メディカル・スクール(医学大学院)に進み緊急医学(外科)を専攻しマサチューセッツ総合病院とブリガム・アンド・ウィメンズ病院の共同研修プログラムに研修医として参加した。
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また彼は海軍医官としてのキャリアも積み重ねており、航空医官兼パイロットとしてテキサス州の海軍航空基地で飛行訓練を修了し、フロリダ州でヘリコプターの操縦訓練も受けた。また海軍医療研究所で海軍航空医官課程を修了している。
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海軍入隊を反対した母の喜びはいかほどか
彼は30歳の2016年にハーバード大学の医学博士号を取得し、引き続き医学の勉強を続ける予定であった。しかし思いがけない理由でそれは中断を余儀なくされる
2016年6月、ジョナサンはNASAが発表した宇宙飛行士候補生12名のうちの一人に選ばれたのだ。
5 学業を中断し宇宙へ
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ジョナサンは2017年8月にNASAに着任し、33歳で2年間の宇宙飛行士候補生訓練を修了した。彼は宇宙フライトの任務開始まで、NASAのミッションコントロールセンターなどで働き、宇宙空間で活動しているクルーのオペレーション支援を続けてきた。
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ジョナサンは宇宙飛行士になったことについて、「また、新しい世界の末席から学んでいく。でもそれが楽しいんだ。」と語っている。
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2024年8月、NASAはジョナサンが72/73次長期滞在クルーの一員として国際宇宙ステーションに派遣されることを発表した。彼は2025年3月にソユーズMS-27で宇宙に旅立つ予定だ。
参考資料
・The Harvard Gazette "SEAL-tested, NASA-approved" July 21, 2017.
・NBC NEWS "SEAL, doctor, astronaut: Jonny Kim goes where few Korean Americans have gone before" January 18, 2020.
・NASA "Jonny Kim" September 9, 2024.