『甲冑・刀・刀装具 光村コレクション・ダイジェスト』展@根津美術館
表参道という立地にありながら自然あふれる美術館があるというのは前々から知っていたのですが、今まで縁に恵まれず行っていませんでした。
今回ついに行くことができました。
しかも内容は刀剣に刀装具。
私の大好物です。
◎ 都会の中に風情ある佇まいの美術館
表参道駅の出口からはとても行きやすく、途中ヨックモックのレストランの前を通り過ぎながら「ここでランチするのも良いなぁ、いやいや今日はNEZU CAFEに行くんだ」と、固く心に刻みながらの徒歩5分程度。
ああ、この光景はテレビで見たことがあるなと思った景色が目の前に。
入り口からもう風情があるじゃないですか。
こんな日本画を見たことがあるかもしれないと、錯覚すら覚えます。
展示案内は斜めから失礼します。
正面から撮影すると私が写り込んでしまうので。
エントランスを入ってすぐ、竹林の中をくぐるような回廊も有名な場所。
歩きながら滅多に撮影しない動画を撮っちゃったりして。
多分、浮かれてたんだと思います。
館内に入ると驚いたことに外国人ばかりです。
日本人3:外国人7くらいの割合でしたでしょうか。
都内に外国人観光客が大挙しているとは聞いていましたが、ここもそんな感じでした。
◎ 甲冑 → 刀 → 刀装具
さて、肝心の展示について。
実業家・光村利藻のコレクションを、刀剣類に全く興味はないけれども根津嘉一郎氏が購入したというものが「光村コレクション」。
根津氏はこれを実物を見ずに一括購入しました。
その数3000点以上(現在は1200点所蔵)。
なぜそんなことをしたのかと言えば「苦心の大蒐集だから」とのこと。
光村氏の審美眼を信頼していたからこそ、そんなことができたのではないかと容易に想像がつきます。
若い頃から古美術品に興味を持ち、豪快に美術品を蒐集したという根津氏。
なんと清々しいお金の使い方だろうか。
昭和15年の財団設立当時には4643点もの美術品があったそうです。
庶民には信じられないこの蒐集っぷりですが、しかしこのことがあったからこそこれまで守られてきた存在があるのではないでしょうか。
今回の展示は、その一端が垣間見える展覧会でした。
光村氏が蒐集を始めるきっかけとなったのは、長男の初節句の折に本物の甲冑と太刀を購入したこと。
展覧会は甲冑の展示から始まりました。
19世紀に制作されたものが多く、使用された痕跡はほとんどありません。
しかし中には16世紀や17世紀の作品もあり、これはところどころ破損があったりして、戦場に出ていたことが想像できます。
刀剣の展示は鎌倉時代作刀のものから始まり、明治時代のものまで雑多。
太刀もあれば短刀もあるし、備前もあれば相州もあるといった展示です。
その中で私が一番興味をそそられたのが「脇指 銘 伊賀守金道」。
隣で見ていた見知らぬおじ様も「きれいだねぇ、これはきれいだ」と惚れ惚れしていました。
地鉄がとにかくきれいで、さまざまな形の沸や映りが刀身全体にあって、とても良い景色を見せてくれました。
単眼鏡持っていって良かったと思えた作品です。
刀装具のエリアはお馴染みの赤銅でできたものが多かったのですが、今回私がどうしても目がいってしまったのは、朧銀でできたものでした。
銀の刀装具自体あまり展覧会で見ないので、余計目がいってしまいました。
鞘の保管に使う木刀の代わりに銀で作ったもの、というのを初めて見て感動です。
他にも鍔や小柄などにも朧銀でできたものがあり、その多くが水墨画のような装飾がされていました。
水墨画でたまに見るような、髭の長いお爺さんが佇むような、流麗な筆で描かれたあの景色。
それが小柄や鍔に描かれていました。
後藤家の作品にありがちな大名好みの金細工というよりも、渋さが感じられる作品です。
もちろん私だってゴテゴテの金細工大好きですけど、朧銀の落ち着いた風情もたまらなかったです。
◎ 「二月堂焼経 ─焼けてもなお煌めく─」の展示へ
メインの展覧会を終えてテーマ展示の方にも足を伸ばしました。
ここで私は感動的な出会いをしました。
東大寺の修二会の際に燃えてしまった華厳経の巻物です。
文化遺産オンラインで見れますけど、実物はいっそう鮮やかでオンライン上では得られない感動があります。
巻によって上が燃えていたり下が燃えていたりするし、消失部分の広さも異なります。
紺の料紙に銀泥で華厳経が書かれているのですが、通常なら経年変化で退色してしまうはずがその文字は光り輝き鮮やか。
焼損してしまった上下の修復に、やはり紺色の料紙を使っているのですが、燃えてオレンジ色に染まった巻の下端と修復で貼り付けた料紙の曲がりくねった境界線が、なぜだか日が沈みきる寸前の夕焼けに見えました。
銀泥の文字が灯りがついたビルにも見えて、巻全体が夜景のようです。
物が燃えてしまうのは悲しい出来事のはずなのですが、この巻は燃えてからさらに新たな生を得たようでした。
◎ 美術鑑賞の後はカフェと庭園散策へ
根津美術館を訪れる理由は人によって違って、私みたいに美術鑑賞が主目的な人もいれば、カフェと庭園のために来たという人もいるでしょう。
そのくらい根津美術館のカフェ「NEZUCAFE」と庭園は観光スポットとして有名です。
美術鑑賞が終わった後にNEZUCAFEでランチをすると決めていたので、疲れた足を癒すためにも早々にカフェへ。
食事のメニューは「神戸牛のミートパイ」しかありません。
このことからも、こちらのカフェはおやつ時間向きということでしょう。
窓際の席だと庭園をじっくり眺めながら食事ができます。
私の席からは庭園を散策する人たちがよく見えました。
客席にほとんど壁はなく、庭園の緑がくまなく見渡せる造り。
屋内にいながらも新緑を感じながらゆったりした気持ちになれる場所です。
人気が出るのもわかります。
庭園は驚くほど広いです。
美術館本館が6棟くらい入るのではないかと思うほどです。
その広大な敷地は木々に恵まれていて、森に近い雰囲気。
夏は木陰が涼しそうです。
西から東へ横断する池は、今も湧き出てくる地下水によるもの。
小道を歩けば茶室に行き当たり、通り沿いには石塔や鳥居、石像などが所々に設置され、厳かな雰囲気を纏っています。
初めて行った美術館でしたが、展示や庭園全てを含めてゆったりとした時間を過ごせる場所でした。
今回は予定があったので庭園はサクサク歩いてしまったのですが、次はスケジュールを詰め込まず、しっかり美術鑑賞した後に庭園のベンチで鳥のさえずりを聞きながらボーッとしたいです。