『マクナイーマ』マリオ・デ・アンドラーデ
作品
アマゾンの森に、黒人として生まれ、6年間何も言葉を喋らず、その後川の水を浴びると白人となった主人公。
こんな風な紹介を大学のブラジル人の教授に道端で歩いている時にされた私は、「どういうこと⁉」というようなハチャメチャな感じに惹かれ、「なにそれ!」という興味本位で読み始めました。
2回死に、2回生き返って、最後は本当にこの世を去って大熊座となった主人公マクナイーマ。小さいころから女好きの変態で、「ああ、めんどくさ」が口癖で、いたずら好きで悪知恵持ちなマクナイーマは英雄です。
ブラジル人作家による作品です。ブラジルの要素がギュッとこの作品い詰め込まれた、もはやもうごちゃごちゃで、訳が分からないというような感じです。
普通、小説においては舞台設定があって、物語が進行し、何かしら事件・出来事が起きて、終わりへと向かっていく。そういった、いわば、「整えられた」世界、かもしれません。でもこの『マクナイーマ』は現実の世界のような混沌とした世界
ブラジルに伝わる神話、伝説、言い伝え、食べ物、儀式、そして国の歴史的背景等々様々な点を見出すことができます。
・月がでこぼこしているのはマクナイーマが殴ったから。
・ある滝は、昔人間だった女の子が姿を変えられて泣いているからでそれは流れる涙
こんな風な神話的世界が大好きな私は楽しく読み進められました。
もう少し、まともな概要をまとめますと、
マクナイーマが愛した森の母神シーの形見である緑色のワニの形をした石、ムイラキタンを取り戻すための、アマゾンからサンパウロへの冒険物語。
主な舞台はアマゾンとサンパウロ。森と大都市、この二つの対比が面白い。
ブラジル好きな人、神話が好きな人におすすめです(^^)
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この作品を読もうと思っている人へ~選書への一言~
私の知る限り、福島伸洋氏と馬場良二氏による2つの日本語訳が出版されています。もとはポルトガル語による1つの作品ですが、この2冊はだいぶ特徴が違います。両方とも読んだので、正直に意見を書きたいと思います。
①福島氏は、他のポルトガル語文学の翻訳やNHKポルトガル語講座を担当などされており、この本以外でも名前を目にしたことが多々ありました。作品『マクナイーマ』の翻訳本として、私は福島氏の本(松籟社...しょうらいしゃ)の方が好きです。タイトルも若干違います。こちらには副題(「つかみどころのない英雄」)も日本語タイトルにされています。
②もう一冊は馬場氏による本(トライ出版)。こちらの大きな特徴としては、
・注釈がものすごく多くあることです。(全255頁の本に930の注釈)ブラジルで販売されている注釈書的なものを参考にしこの作品の中に盛り込んであります。言葉の説明や文化的背景の説明などがありずいぶん興味深いものもあります。
・またブラジル人の画家による絵が、本の最初に数ページ、カラーで載せられていること
・巻末に訳者によるブラジルの歴史や1920年代以降の近代芸術週間やモダニズム等について項目ごとにシンプルに分かりやすくまとめられていること
・ただ、日本語における誤字が多々あること、直訳過ぎて分からない文、誤訳だろうと思われる部分がたまに気になりました。もともとオリジナルでも読みやすい作品ではないですが、そういった点での読みにくさがあると思いました。。
②の馬場氏による本には良い点も多いので手に取る価値はあると思いますが、物語そのものを楽しむには①の福島氏の翻訳の方が良いと思す。参考になればと思います!