人口2,250人の町が6,300人のファンを獲得。島根県海士町のnote活用術
島根県海士町は、本土から船で2,3時間かかる隠岐諸島に位置するまち。人口は約2,250人の小さな島です。
そんな海士町公式noteのフォロワーは現在1,909人。関係人口向けに運用しているLINEの友だちは約6,300人で、そのうちの19%がnote経由で登録しています。
まちの人口以上のファンを獲得する海士町の発信。
教育委員会や小中学校、事業者など、noteを使って発信する島内のアカウントは約40あり「島に関わりのある人みんなで情報発信する」ことが根付いています。
海士町noteをどのように運営しているのか、総務課情報政策係の寺田さんに聞きました。
「島そのものをnoteで表現する」というブランド戦略
——海士町といえば、40代以下の移住者が人口の1割をしめる“地方創生のトップランナー”というイメージです。なぜnoteの活用をはじめたのでしょうか。
寺田さん: これまでも島の取り組みをメディアなどで取り上げていただく機会は多くありました。でも自分たちで発信することはあまりしてこなかったんです。
それに役場の事業は各課に予算と事業がひもづくので、縦割りになってしまいがち。横連携が少ないことで様々な機会損失がうまれていました。
この課題感を、情報発信につながりをつくることで解消していけないかと考えました。
関係者で協議を重ねて、「島のすべての情報が集まるまとめサイトをつくること」「公式LINEを運用すること」この2つを情報政策の柱に置くことが決まりました。
noteの記事は、RSSでまとめサイト側に引っ張ることができるし、LINEでシェアもできる。noteはだれでも簡単にはじめられるので、島内のみなさんに活用してもらえば島の情報をまとめやすくなります。
まとめサイトと公式LINE。この2つの施策のベースをnoteでつくれば、やりたいことが実現できると考えました。
さらにnote proのカスタマイズ機能を使えば、町の公式サイトとは違うもう1つのホームをネット上につくることもできる。
しかも自治体にはnote proの無償提供プランがあります。これも決め手になりました。
——海士町ではnote運用の目的やゴールはどこに置いていますか?
寺田さん:島内外のnoteクリエイターと連携して、海士町という島そのものをnote上で表現することです。
たとえ島に来なくても、等身大の海士町を感じることができるオウンドメディアをつくることを目指しています。
海士町らしい取り組みを発信し続ければ、島内外のさまざまなチャレンジの後押しになって、人と人がつながるきっかけにもなると考えています。
もう一つ「海士町のブランド価値を高めること」も目標です。
海士町には「ないものはない」という独自の価値観を表すブランドコピーがあります。
「ないからこそいい」という考え方を大切に、あるものをいかす知恵と工夫で、暮らしを楽しむ海士町のアイデンティティ。
この価値観が伝わるストーリーを発信して、ブランド力を高めていきたいと考えています。
書き手は30人以上。記事のクオリティを保つ秘訣は事前準備
——海士町がnoteをはじめてから3年、途切れることなく定期的に記事を公開し続けていますよね。運用体制について教えてください。
寺田さん: 総務課 情報政策の職員がディレクションを担当して、管理職が最終確認を行っています。
執筆・編集・撮影は、主に総務課に所属する就労型お試し移住制度で来た“大人の島留学生”や、短期インターンシップの“島体験生”が担当しています。
島留学生や島体験生は、外から来た人の新鮮な視点で海士町を発信できるんです。彼らは島の人々にとっては当たり前すぎて気づけない魅力を発見してくれることがあります。
他にも役場の職員や海士町在住の方にも、スポットで執筆いただいています。
「海士町noteに記事を書きたい」とご相談いただければ自由度高く書いてもらっているので、のべ30人以上が執筆に関わっています。
記事のテーマや題材は、総務課で企画することもあれば「こんな記事を書いてほしい・書きたい」と相談があって決まることもあります。割合は半々くらい。
ありがたいことに、noteを開設してから記事の依頼・相談の件数は、年々増えています。
「ないものはない」という島の価値観の発信につながるもの、海士町に関するイベントや取り組み、新しい挑戦、これまでWEB上に情報がなかったこと、島の季節感や雰囲気が伝わる写真、節目の振り返り記事…などが多くなっています。
——行かなくても海士町のいまが分かるくらい、多様なテーマで記事が書かれていますよね。書いたnoteが読まれるために工夫していることはありますか?
寺田さん:記事を書く前の事前準備、公開後のシェア、更新頻度、の3つの点で工夫しています。
まず事前準備では、記事の目的や読者などを整理するようにしています。
具体的にはこの6項目を整理してから執筆しています。
読者(島内のひと向けor島外のひと向け)
記事の目的
記事の形式(Q&A形式なのか一人称形式なのかなど)
読了後にしてほしいアクション
構成案
SEOキーワード
事前に考えてから書くことで関係者との認識のずれがなくなり、目的からもブレないので、読みやすい記事が書きやすくなると思っています。
このあたりの内容は「海士町流のnoteの書き方」記事で詳しくまとめているので、読んでいただけたらうれしいです。
公開したあとは記事を届けたい読者に届くように拡散しています。
島内のひと向けには「あまとめ」という独自アプリ・サイトに記事を自動転載。島外のひと向けには、公式LINEやXなどのSNSで記事をシェアすることで届けています。
自治体の公式LINEは、そこに住むみなさんを対象に運用していることが多いと思います。海士町では島外にお住まいで海士町を好きでいてくれるみなさんとつながる場としてLINEを活用しています。
なのでLINEでは島外のみなさんに特に読んでほしい記事にしぼってシェアするようにしています。
必ず送っているのは、その月の海士町の様子がすべて分かるシリーズ記事「◯月の海士町」。
Web回覧板のようなイメージの記事で、海士町公式noteに限らず、島について書かれたnoteをピックアップして載せたり、風景写真を載せたり、XなどのSNSで発信された内容を埋め込んだり…
この記事を見れば、今月海士町であったこと・これから海士町で予定されていることが分かるようにまとめて、毎月公開しています。
ちなみに、海士町のLINE登録者は約6,300人。そのうち約1,200人、全体の19%にあたる人が、noteの記事下に設置しているサポートエリアから登録しています。
noteが一番多い登録経路です。
あとは海士町noteを継続して読んでもらうために、最低でも週に1本の記事を更新する頻度を保つようにしています。
公開した記事は、島の魅力を伝え続ける財産になる
——3年間、週1本以上の更新を継続しているのはすごいですね。noteを続けていてよかったことはありますか?
寺田さん: 海士町に関わりのある方みんなで情報発信ができている、というのが一つの成果だと思っています。
海士町教育委員会や島内小中学校など、約40ある島内のアカウントと連携して、海士町みんなのnoteマガジンを更新しています。
海士町みんなのnoteマガジンは、海士町の多様な側面を一つの場所で見ることができる、いわば「海士町の百科事典」のような存在になっています。
学校の様子、地域の行事、特産品の情報、移住者の体験談など…様々な視点から海士町を知ることができます。
ここ数年で、noteで発信をはじめた島内のアカウント数と記事の更新頻度は着実に増えています。
海士町公式noteでの情報発信も力を入れていますが、それと同じように、海士町全体の情報発信力を高めることも大切にしています。
3年で海士町公式noteは島らしいオウンドメディアに成長しました。
2021年1月に運用をはじめて、いま全体ビューが66.4万、スキが1.2万、記事数が416本(2024年8月29日時点)になっています。
この数字は海士町の約2,250人という人口を大きく上回っていて、島外の方々にも広く海士町の情報が届いていることを感じています。
特にうれしいのは、過去に公開した記事が今も継続して読まれていることです。
noteが単なる情報発信の場だけでなく、「海士町の魅力をいつでも閲覧できるアーカイブ」として機能しているからだと思います。
noteは操作性がシンプルで、使ったことがない方でも気軽に記事を書くことができます。だから島内のみなさんもはじめやすい。
それに、自治体は数年ごとに異動がありますが、誰でも使いやすい機能が整っているので困ったことはほとんどありません。
誰でも使いやすいうえに財政負担のないnoteは、自治体がオウンドメディアをつくるうえで、またとない環境が整っていると感じます。
かしこまらずラフな雰囲気で記事をつくれるのもnoteならではだと思います。
これからもnoteをベースに、島の日常や風景をお届けしながら、海士町らしさが一目で伝わるオウンドメディアをみなさんと一緒につくっていきたいと思っています。
海士町では「島との距離は離れても、気持ちはいつも近くに」をコンセプトに、公式LINEやXも運用しています。海士町に関する様々な情報を配信中なので、こちらもぜひご覧ください。
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