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右手に雑音 左手に約束を

【私の漫画棚 - No.002】
作品:水は海に向かって流れる
著者:田島列島
出版:講談社


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不倫した親の罪は 子が追うのだろうか


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あらすじ

親同士の不倫をめぐる数奇な関係のふたりが、
ある日同じ屋根の下に集う。

物語は、主人公である直達(なおたつ)くんが通学のため、叔父の家に住まうところから始まる。

引っ越しの日、雨で濡れる駅に着いた直達くんを迎えに来たのは、榊(さかき)さんという女性だった。

彼女は叔父と一緒に住んでいるという。寝耳に水の情報に彼は混乱したが、これから住まうその家は、シェアハウスだったのだ。叔父を含め、4人が住まう。直達くんを入れて、5人の共同生活。

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共同生活者の1人に榊さんの父の古い友人である通称”教授”がいる。
駅へ直達くんを迎えに行ったその日、榊さんは偶然にも彼が、不倫の末に戻ってこなかった自分の母親、その不倫相手の息子だと知ることになる。
榊さんはそれを教授に話すも「子どもに罪はないでしょう?」と、直達くんには最初から告げないつもりでいたのだ。

これから、母親を奪った男の、その息子と一緒に住まうことになる。

しかし、直達くんは庭先で榊さんと教授の会話を聞いてしまった。
自分はここにいてよいのだろうか、どうすればいいのだろうか…。聞いていないふりをしてそのまま過ごせばよいのだろうか…。

これは悩む直達くんをめぐる、罪の行く末を追う優しい物語。


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感想

不倫した親の罪は、子が追うのだろうか。

同じ屋根の下の住まうその2人には、落とし所の無い罪が残っている。
それは罪と呼ぶべきなのだろうか。ただどうしようもなく罪を抱えてしまい生きている、そんな2人の物語です。

「こどもに罪はない」
…と、確かにそうなのだけれど。

直達くんは葛藤するも、親の罪に向き合う決意をします。最終的にはそれを"極悪な"方法でお返しするのですが。


重めのテーマながらも、周囲の登場人物が皆個性的で、なんとも軽やか!
内容は昼ドラみたいにドロドロしているのですが、不思議なくらいにすっきりとした飲み口の作品に仕上がっています。この謎の清涼感は田島列島さんの唯一無二の作家性なのかな、なんて他の作品をみても思うところです。なんといっても、登場人物みんなひとりひとりを好きになれるような、生き生きとしたキャラクターたちが作品の大きな魅力になっています。やりとりにいちいち笑えます。ちなみに私は教授が好きです。物語の要にして、包み隠さずあれこれ引っ掻き回すのが爽快。笑


「水は海に向かって流れる」…という、とても特徴的なタイトル。

川の水というのは静かな水面でも絶えず動いています。
一見静かでも川の底に複雑に渦巻く流れがある。
水は流れるから清流でいられるし、流れない水は静かに腐っていく。
それでも、傍からはあまり観測できない。そういうものです。

この作品は、心の動きやあり方を水に例えているのでしょう。
榊さんは落ち着いていて、感情の起伏のない人柄です。静かな水面のような。それでも、心の底にある渦巻く複雑な感情。
濁り始めた心に深く沈み、自分でも見つけられなくなっていた本当の感情。
いろんな感情が渦巻き、滞り、流れを堰き止めてしまった。
流れるのをやめた川。止まった時間。


「…どうして 直達くんなんだろう……」
ときに、ある特定の人間にしか解けない呪いというものがある。
運命なんかないけれど、そこには宿命があるのかもしれない。

そのまま水の底に沈めてしまおうと決めていた気持ち。川を堰き止めていた感情たちは少しずつ浮かび上がっていく。
やがて、川の水は海に向かって流れていく。

後読感はすっきりと幸せになれる、
タイトルに納得行くような物語でした。

今年1番の推しタイトルです。

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「水は海に向かって流れる」(全3巻)
著作: 田島列島
出版:講談社(2019〜2020)

その他の代表作
「子供はわかってあげない」(上下巻 2014)
(※2021年映画化予定)

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