S&P500に債券の組み合わせを考える
サブテーマ:2種類の投資対象の組み合わせは必要なのか??
1 初めに
前回、S&P500と債権単独投資の場合でトレンドの確認、積立、取崩した場合について確認しました。今回は、株式(S &P500)と債券(長期米国債)の組み合わせることが資産運用に有効なのかを考えてみました。
投資の情報を集めると、債権や金も組み合わせたら良い!!という情報も溢れていますが、具体的に自分の場合ではどうなるのか理解できる人は少ないのでは??と思います。
PYTHONなどで自分の状況に近い場合を考えてみることでご自身の投資方針に活かせますので、ぜひお付き合いください。
今回の結論:長期米国債を25%程度の組み合わせはアリ!!
積立時: 下落時の下落幅Down!!(リターンも微減)
取崩し時:元本割れの確率Down!! 推奨:25%!
知人よりプログラム部分が難しくてよくわからないとご指摘をいただきました。そのためこのチャンネルでは、PYTHONを使った米国株投資に関わるさまざまな調査の結果OUTPUTにこだわった記事にします。投資に関わる身近な疑問にも答えていきますので、投資リテラシー向上にお役立ちを目指します!!
なお、全ての解析データは引き続き、PYTHONを活用してコード全文も掲載します。Googleコラボならまずは”コピペ”でチャレンジできます。これから勉強始めたい方にも、プログラミングで何ができるのかを知る良いチャンスとなればと思っていますので応援お願いします!!
2 豆知識
1)相関係数とは?
株式市場における異なるETF同士の価格動きの関連性を理解するために、相関係数の計算が役立ちます。相関係数は、-1から+1までの範囲で値をとり、+1は完全な正の相関(一方のETFが上がるともう一方も上がる)、-1は完全な負の相関(一方が上がるともう一方は下がる)を示します。0の場合、ETF間には関連性がありません。この数値を使うことで、投資ポートフォリオのリスク分散や戦略的なアセットアロケーションを行うための洞察が得られます。たとえば、相関係数を計算して、異なる市場セクターや地理的な位置に分散投資することが推奨されます。この分析はPythonなどのプログラミング言語を使用して簡単に計算できます。
2)最大ドローダウンとは?
最大ドローダウン(Maximum Drawdown, MDD)は、投資ポートフォリオのパフォーマンスを評価する際に用いられる指標の一つです。これは、ある期間内で記録された資産のピーク(最高値)からトラフ(最低値)までの最大の下落幅を指し、リスクの大きさを測るために使われます。最大ドローダウンが大きいほど、その投資は大きなリスクを伴っていると考えられます。
例えば、最大ドローダウンが50%の場合、資産が半分の価値に減少したことを意味し、元の価値に戻るためには100%のリターンが必要です。このように最大ドローダウンは、投資の安定性や回復力を理解するのに役立つ重要な指標です。
3)シャープレシオとは?
シャープレシオ(Sharpe Ratio)は、投資によって得られたリターンをリスクフリーレート(無リスク資産のリターン率、例えば国債など)から差し引いた値を、投資のリスク(標準偏差)で割ることにより計算される比率ですす。シャープレシオが高いほど、リスクを取ることに対して高いリターンを得ていると評価され、効率的な投資とされます。具体的には、シャープレシオが正の値であればリスクフリーレートを上回るパフォーマンスを示し、値が大きいほど投資の効率が良いことを意味します。逆に、シャープレシオが負の値を示す場合、その投資はリスクフリーレート以下のリターンしか生み出していないことを表します。
3 実践
1)調査内容
今回、対象はS&P 500ETFであるSPYと、米国債権の中でも長期米国債ETFであるTLTです。投資の組合せを考えるにあたり、株式と相関係数が低いものが価格変動のリスクを抑えられます。債権の中には会社が発行する債権である社債、国が発行する国債などがありますが、株式と相関が比較的低いのは国債であり、その中で長期かつ米国に特化したETFを選択してます。
今回の調査では、株式と債権を25%づつ割合を変えた場合の、下記①から④の確認を行います。
①時系列チャートでトレンド確認
②リスクとリターン、最大ドローダウンとシャープレシオの計算
③積立時のシミュレーション
④取崩し時のシミュレーション
2)時系列チャートでトレンド確認
Yahoo Financeから過去20年分の株価データを取得し、月毎のデータに変換しリターンとリスク(標準偏差)を計算します。今回、比率をSPY:TLTを、100〜0%まで25%づつウエイトを定義し、それぞれのトレンドとリターン等の指標を計算しています。その後、時系列プロットとしてはじめの日を100としたグラフと、変化率を正確に表示するため対数軸メモリとした2つのグラフをプロットしています。
pip install japanize-matplotlib
import yfinance as yf
import pandas as pd
import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
import matplotlib.cm as cm
import japanize_matplotlib # 日本語表示に対応
# 対象のティッカーシンボル
tickers = ['SPY', 'TLT']
# データの取得
data = yf.download(tickers, start="2004-04-01", end=pd.Timestamp.now().strftime('%Y-%m-%d'))['Adj Close']
# ティッカーの順序を正確に指定
data = data[['SPY', 'TLT']]
# ウェイトを定義
weights = [(1.0, 0.0), (0.75, 0.25), (0.5, 0.5), (0.25, 0.75), (0.0, 1.0)]
portfolio_metrics = pd.DataFrame()
portfolio_time_series = pd.DataFrame(index=data.index)
# 各ウェイトに基づいてポートフォリオラベルのリストを生成
portfolio_labels = [f"SPY {weight[0]*100}% : TLT {weight[1]*100}%" for weight in weights]
# リスクフリーレートの設定
risk_free_rate = 0.01
# 各ポートフォリオに対して計算を実行
for weight in weights:
portfolio_label = f"SPY {weight[0]*100}% : TLT {weight[1]*100}%"
# 月次リターンの計算
returns = data.pct_change().dot(weight)
cum_returns = (1 + returns).cumprod()
cum_returns.iloc[0] = 1 # 最初のNaNを補完
portfolio_time_series[portfolio_label] = cum_returns
# 年次リターン
annual_returns = (1 + returns).resample('Y').prod() - 1
avg_annual_return = annual_returns.mean()
# 年次換算標準偏差
annual_std = returns.std() * np.sqrt(252)
# 最大ドローダウンの計算
rolling_max = cum_returns.cummax()
drawdown = (cum_returns - rolling_max) / rolling_max
max_drawdown = drawdown.min()
# シャープレシオの計算
sharpe_ratio = (returns.mean() * 252 - risk_free_rate) / annual_std
# 結果の保存
portfolio_metrics[portfolio_label] = [avg_annual_return, annual_std, max_drawdown, sharpe_ratio]
# データフレームの列をこのラベルリストに基づいて順序付け
portfolio_metrics = portfolio_metrics[portfolio_labels]
portfolio_time_series = portfolio_time_series[portfolio_labels]
# メトリクスのインデックス名を設定
portfolio_metrics.index = ['年次リターン', '年次換算標準偏差', '最大ドローダウン', 'シャープレシオ']
# カラーマップを生成
colors = cm.viridis(np.linspace(0, 1, len(portfolio_labels))) # グラデーションカラーマップ生成
# 軸の範囲を動的に調整
max_std = portfolio_metrics.loc['年次換算標準偏差'].max() * 1.2
max_return = portfolio_metrics.loc['年次リターン'].max() * 1.2
plt.xlim(0, max_std)
plt.ylim(0, max_return)
# 対数スケールに変換
y_values = [50, 100, 200, 300, 400, 500, 1000]
log_y_values = np.log10(y_values)
# 時系列グラフのプロット
fig, axes = plt.subplots(2, 1, figsize=(9, 9))
# 通常の時系列グラフ
colors = cm.viridis(np.linspace(0, 1, len(portfolio_labels))) # グラデーションカラーマップ生成
portfolio_time_series.plot(ax=axes[0], color=colors)
axes[0].set_title('通常の時系列グラフ')
axes[0].set_ylabel('累積リターン')
axes[0].grid(True)
# スタートを100に固定し対数軸メモリ
normalized_portfolio = portfolio_time_series.divide(portfolio_time_series.iloc[0]) * 100
log_portfolio = np.log10(normalized_portfolio.replace(0, np.nan).dropna())
log_portfolio = log_portfolio[portfolio_labels] # 正しい順序で再割り当て
log_portfolio.plot(ax=axes[1], color=colors)
axes[1].set_title('対数スケールの正規化された時系列グラフ(開始値を100に設定)')
axes[1].set_ylabel('インデックス化されたリターン(対数スケール)')
axes[1].set_yticks(log_y_values) # Y軸のメモリ位置を設定
axes[1].set_yticklabels(y_values) # Y軸のメモリラベルを設定
axes[1].grid(True)
plt.tight_layout()
plt.show()
時系列にプロットした結果、2008年以降のリーマンショック時の落ち込み箇所が顕著に傾向が現れています。株式100%では落ち込みが大きいですが、逆に債権100%では価値が増加しています。これが逆相関の関係であることを示しています。
実際のリターンは株式が多いほど高いリターンが見込めますが、株式のみの投資であればリーマンショック時のように50%以上の下落に巻き込まれる可能性があります。債権の割合を増やすほどその下落幅は小さくかつ、長期的なリターンが見込めることが示されています。
3)リスクとリターン、最大ドローダウン、シャープレシオの出力
次に、各割合を変更した際のリスクとリターン及び最大ドローダウン、シャープレシオを出力します。
# 散布図をプロット
plt.figure(figsize=(7, 4))
for idx, label in enumerate(portfolio_labels):
annual_return = portfolio_metrics.loc['年次リターン', label]
annual_std_dev = portfolio_metrics.loc['年次換算標準偏差', label]
plt.scatter(annual_std_dev, annual_return, color=colors[idx], label=label)
plt.xlabel('年次換算標準偏差')
plt.ylabel('年次リターン')
plt.title('年次換算標準偏差 vs 年次リターンの散布図')
plt.legend(title="ポートフォリオ", bbox_to_anchor=(1.05, 1), loc='upper left')
plt.grid(True)
リターン、リスク(標準偏差)を散布図でプロットすると、株式100%をスタートした”く”の字の形状になっています。株式:債権=1:1である、くの折り返し点に置いてリターンの割にリスクが小さいことを示しています。
次にこれらをテーブルとして出力し比較します。
・年次リターン 良 株式100%>0% 悪
・リスク(標準偏差) 良 最小値 株式50%
・最大ドローダウン 悪 株式100%>0% 良
・シャープレシオ 良 最小値 株式50%
まとめると、株式100%ではリターンが最大になるが、最大ドローダウンも大きくリスクが高い。債権を50%の割合では、リスク、シャープレシオが最小値となり投資効率が良いことがわかります。
3)積立シミュレーション
前回と同じく先ほど計算したリスクとリターンを使って20年間の積立シミュレーションをしてみます。今回は初期投資額200万として月々10万円を積みたてを1000回実施した際の資産額をヒストグラムで表示させてみます。
import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
# パラメータ設定
initial_investment = 200 # 初期投資額
monthly_investment = 10 # 月次積立額(10万円)
investment_duration = 240 # 投資期間(月)
simulations = 1000 # シミュレーション回数
# シミュレーションの実行と結果の収集
all_final_values = []
for label in portfolio_labels:
# portfolio_metrics から月次リターンの平均と標準偏差を取得
monthly_return_mean = portfolio_metrics.loc['年次リターン', label] / 12
monthly_return_std = portfolio_metrics.loc['年次換算標準偏差', label] / np.sqrt(12)
final_values = np.zeros(simulations)
for simulation in range(simulations):
total_value = initial_investment
for month in range(investment_duration):
monthly_return = np.random.normal(monthly_return_mean, monthly_return_std)
total_value += monthly_investment
total_value = total_value * (1 + monthly_return)
final_values[simulation] = total_value
all_final_values.append(final_values)
# 全シミュレーション結果からビンの範囲を決定するための配列を生成
flat_all_final_values = [value for sublist in all_final_values for value in sublist]
min_value = min(flat_all_final_values)
max_value = max(flat_all_final_values)
bins = np.linspace(min_value, max_value, 200)
# 投資元本の計算(初期投資額 + 月次積立投資額の合計)
total_investment = initial_investment + monthly_investment * investment_duration
# x_maxをシミュレーション結果の最大値を基に設定
x_max = total_investment*6
# グラフの描画
fig, axes = plt.subplots(len(portfolio_labels), 1, figsize=(9, 3 * len(portfolio_labels)), sharex=False)
for i, label in enumerate(portfolio_labels):
ax = axes[i]
ticker_final_values = all_final_values[i]
median_value = np.median(ticker_final_values)
Q1 = np.percentile(ticker_final_values, 25)
Q3 = np.percentile(ticker_final_values, 75)
# ヒストグラムをプロット(ここでカラーマップの色を使用)
n, bins, patches = ax.hist(ticker_final_values, bins=bins, alpha=0.75, color=colors[i], label=f'{label} 最終資産額')
# Q1からQ3の間を透明な色で塗りつぶす(透明度調整で同じカラーを使用)
ax.fill_betweenx([0, max(n)], Q1, Q3, color=colors[i], alpha=0.3)
# 投資元本、中央値、Q1、Q3の線を追加
ax.axvline(x=total_investment, color='r', linestyle='--', label=f'投資元本: {total_investment:.0f}')
ax.axvline(x=median_value, color='green', linestyle='--', label=f'中央値: {median_value:.0f}')
ax.axvline(x=Q1, color='blue', linestyle='--', label=f'Q1: {Q1:.0f}')
ax.axvline(x=Q3, color='purple', linestyle='--', label=f'Q3: {Q3:.0f}')
ax.set_title(f'{label} - 最終資産額の分布')
ax.set_xlabel('最終資産額')
ax.set_ylabel('頻度')
ax.legend(loc='upper left', bbox_to_anchor=(1.05, 1), borderaxespad=0.)
ax.grid(True)
ax.set_xlim(0, x_max)
plt.tight_layout()
plt.show()
上から株式100%で下が0%ですが、株式割合が高いほど右側にシフトしています。また25%、50%においては多少最終資産額の中央値は小さくなりますが、元本割れの確率も下がっていることがわかります。
4)取崩しシミュレーション
同様に、取崩しのシミュレーション効果を確認します。今回5000万円の元手に対し、月々25万円(年300万円:年率6%)の定額取り崩しの際の資産額の推移をシミュレーションし、時系列で表示します。
import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
import pandas as pd
# パラメータ設定
initial_investment = 5000 # 初期投資額(5000万円)
withdrawal_amount = 25 # 月次取り崩し額(25万円)
investment_duration = 360 # 投資期間(月)
simulations = 1000 # シミュレーション回数
# portfolio_metrics からデータを抽出
monthly_returns = portfolio_metrics.loc['年次リターン'] / 12 # 年次リターンを月次に変換
monthly_std_devs = portfolio_metrics.loc['年次換算標準偏差'] / np.sqrt(12) # 年次標準偏差を月次に変換
# 時系列グラフのプロット
fig, axes = plt.subplots(len(portfolio_labels), 1, figsize=(8, 3 * len(portfolio_labels)), sharex=False)
for i, label in enumerate(portfolio_labels):
monthly_values_all_simulations = []
for simulation in range(simulations):
monthly_values = []
total_value = initial_investment
for month in range(investment_duration):
monthly_return = np.random.normal(monthly_returns[label], monthly_std_devs[label])
total_value = total_value * (1 + monthly_return) - withdrawal_amount
monthly_values.append(max(total_value, 0))
monthly_values_all_simulations.append(monthly_values)
# Q1、中央値、Q3の計算
median_values = np.median(monthly_values_all_simulations, axis=0)
q1_values = np.percentile(monthly_values_all_simulations, 25, axis=0)
q3_values = np.percentile(monthly_values_all_simulations, 75, axis=0)
# サブプロットにプロット
ax = axes[i]
ax.plot(median_values, label=f'{label} 中央値', color=colors[i])
ax.fill_between(range(investment_duration), q1_values, q3_values, color=colors[i], alpha=0.2)
ax.axhline(y=initial_investment, color='grey', linestyle='--', label='初期投資額') # 初期投資額の線
ax.set_ylim(0, initial_investment * 2) # Y軸の範囲を設定
ax.set_title(f'{label}')
ax.set_ylabel('資産額 (万円)')
ax.legend()
ax.grid(True)
# X軸のラベルは最下部のサブプロットのみに表示
axes[-1].set_xlabel('月')
plt.tight_layout()
plt.show()
シミュレーションの結果、株式100%と50%に比較して25%では、元本割れの期間の確率が低いことがわかります。これは取り崩し時期においてはある程度のリターンがある中で、リスクの低い組合せが長期にわたって取崩しながら元本を減らさず生活できることが示されてます。
4 まとめ
今回、S&P500に対し、米国債を割合で変更した際の各種指標の変化、積立及び取崩しのシミュレーションを実施しました。
積立時期には債券の割合が多いほどリターンは下がりますが、その他の指標は改善することがわかりました。長期を想定されている方には株式100%でも良いと思いますが、途中の下落局面での心理的安定等を求められる方や数年後には定年やFIREが予定されている方には、それぞれ許容できるリスクに応じた債券を組み合わせることは有効な結果です。
取崩し時期においては、S&P500では年率6%の取崩しを想定されている場合には、債券25%程度が最適であることも得られました。
皆様の投資のご参考になれば幸いです。
*今回の結果は、それぞれの割合で購入した仮想の投資信託商品のようなシミュレーションです。個々の商品で運用するなら厳密にはリバランスを考慮した積立や取崩しシミュレーションが必要です。ややこしくなるため省略していますが全体感の把握には今回の結果がわかりやすいと考えて記事にしています。
*今回の結果も、過去20年の実績をもとにシミュレーションした結果です。今後の結果を保証するものではありません。実際の投資判断はご自身にてお願いいたします。
以下、過去記事、AI時系列予測等のご紹介
他サイトですがココならで、A I(LSTM)を使った株価予測の販売もやってます。こちらではFREDから、失業率や2年10年金利、銅価格等結果も取得しLSTMモデルで予測するコードとなってますので興味があれば見てみてください。またその他2件も米国株投資とは直接関係はありませんがプログラム入門におすすめですのでみてみてください。
チャンネル紹介:Kota@Python&米国株投資チャンネル
過去の掲載記事:興味があればぜひ読んでください。
グラフ化集計の基礎:S &P500と金や米国債を比較してます。
移動平均を使った時系列予測