アートオブジェか、光陰か、境界か――変幻自在の切り絵で映像を彩った久藤エリコさんのこと
『Mothers マザーズ』は5人の脚本家が集まり、それぞれが「母」をテーマとした20分の短編映画をつづるオムニバス映画です。脚本家・高橋郁子さんもこの映画に参加し、『夜想(仮)』と題した作品を制作しています。
『Mothers マザーズ』と『夜想(仮)』についての詳細は以下の記事をご覧ください。
今回は切り絵作家・久藤エリコさんのご紹介です。
百聞は一見に如かずと言いますから、エリコさんの切り絵が『夜想(仮)』でどのように使われていたのか、まずは見ていただきましょう。
切り絵をつる作業はエリコさんが自ら行っていて、そのままでもアート作品として成り立つ迫力があるものです。
しかし、これが映像を通して見るとまた趣が変わってくるのです。
例えば、上記のカットでは画面を彩るアートでしたが……。
こちらのカットでは照明演出のような役割も。
舞台照明で木漏れ日を作る際、無数の穴が開いたプレートを照明にセットし、その影の輪郭線をぼやかすことで表現することがありますが、エリコさんの切り絵がそれと同じような効果を生んでいるのです。
(もちろん、エリコさんの切り絵の形状のほうがより複雑です)
他にも「何か」と「何か」を分ける境界のような役割を果たしていたり、生い茂る草木のようにも見えたり、撮影すればするほど新たな表情が生まれてくるのが本当に驚きでした。
この切り絵を作った久藤エリコさんは新北海道美術協会会員に所属する切り絵作家。
北海道を中心に個展、グループ展などの展示活動をしています。
最近では、下絵なしで作ったラフな切り絵をつるす空間インスタレーションや、被写体に切り絵の影を写す作品に取り組まれています。
切り絵そのものに大きな主張をさせていないことが、これほどまで多様な融和性を生んでいるように、私は感じました。
エリコさんの切り絵は繊細な作品ゆえ、時間の限られた撮影準備日にどうやってつるしきるかは悩ましいところでした。
そこで、当日は学芸員の資格を持つ上田華子さんと協力して切り絵を設置することにしました。
テグスを使って一つ一つ、ほぼ一日がかりの作業。
その成果は……初めに写真で見ていただいたとおりです。
次回の制作日誌は、撮影とそのテクニカルな部分全般を担ったEden Project.のみなさんをご紹介します。
引き続きの応援、よろしくお願いいたします!