「エシカル」を広げる鍵は、入り口の設計にこだわること| エシカルフードインタビュー 佐々木ひろこさん
こんにちは。「Tカードみんなのエシカルフードラボ」公式note担当の東樹です。
今回は、ラボの活動に有識者として参画されている、一般社団法人Chefs for the Blue 代表理事の佐々木ひろこさんへのインタビューをお届けします。フードジャーナリストとして食やサステナビリティ等をテーマに長く執筆を続けられており、シェフのみなさんとともに持続可能な海を目指した活動も展開されている佐々木さんに、私たちがどのように「エシカルフード」に向き合うべきか、お話を伺いました。
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ー 佐々木さんは、なぜ「Tカードみんなのエシカルフードラボ」に参加されたのでしょうか?
一般社団法人Chefs for the Blueとして、約5年間、水産の領域でシェフとともに様々な活動をしてきた中で痛感していることがあります。
それは、すでに「エシカル」に興味がある方に対して、さらに深堀りをしてもらえるよう働きかけることはできる可能性が高いのですが、そもそも興味がない方をもう少し進んだ段階に引き上げるのはとても難しいということです。
そのような中で、「Tカードみんなのエシカルフードラボ」は、一般の方に「エシカル」へ目を向けていただく、つまり、8を10にというより1を2にしていくというところにフォーカスして活動すると聞き、ぜひ参画したいと思ったのがきっかけです。
ー 「エシカルフード」はまだ一般的な言葉にはなっていませんが、佐々木さんが考える「エシカルフード」とはどのようなものでしょうか?
「エシカル」は単純に訳すると「倫理的な」となりますが、日本語にしづらいテーマですよね。特に食の分野において、「エシカル」とは「環境・社会・経済が今後も持続的につながっていくための物事のあり方」だと私は考えています。
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ー 漁業において、「エシカル」の波はきているのでしょうか?
日本の漁業は、特に「環境」の文脈で、残念ながら遅れていると言わざるを得ません。
SDGsには17の目標がありますが、実は、それらの優先順位はすべて同じではありません。「SDGsウェディングケーキ」という3層のモデルがあり、一番下に環境に関する目標、2段目に社会に関する目標、一番上に経済に関する目標がプロットされます。環境が持続可能になっていなければ社会は成り立ちませんし、社会が確固たる基盤を持っていなければ経済は回らないという考え方です。
日本の漁業においては、経済が優先されてしまい、社会や環境に目が向けられてこなかったように思います。
ー 国外の漁業の状況はどうなのでしょうか?
1980年代頃から、科学的な根拠に基づいて資源の状態を調査し、状態を改善するために漁獲量について制限し資源を管理する国が増えてきました。2000年代初頭までには、多くの先進国はそのような体制に切り替えています。
ですが、日本ではそのようなシステムがなかなか導入されず、ここまで資源が減った大きな要因になっているんです。
ー 日本の漁業は、なぜ経済を優先せざるを得なかったのでしょうか。
バリューチェーンの中で、消費者が強い立場にあることが一つの理由だと思います。消費者が「安くていいものがほしい」と言えば、流通はそれにおもねった形のビジネス戦略をとるしかなくなります。そうすると、流通の要望を受け止める生産の場では、安くたくさん生産しないといけなくなります。結果、海の状況がいかに悪くなっても、大量に漁獲するしかなくなってしまうんです。
消費者が「サンマは100円じゃないと」と思っているとします。昔、魚が海にあふれていた頃はそれでもよかったかもしれません。ですが、魚がここまで減ってしまった今、これまでの値付けでは回らなくなっています。そのことに、消費者や、消費者に情報を伝えるメディアが気づかないといけません。
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ー そのような状況下で佐々木さんは発信を続けてこられていますが、これまでに「エシカルフード」を消費者に受け入れてもらえた好事例はありますか?
以前、サステナブルな水産養殖を目指した技術革新に取り組む、スタートアップ企業さん主導のプロジェクトに関わらせていただきました。内容は、ASC認証真鯛をスーパーマーケットで実験的に販売するというものです。
今までスーパーは、「サステナブルな商品はコストがかかるのでお客さん受けが悪くて売れないはず。売れないだろうから売りたくない」というスタンスだったんですよね。流通の方に向けて講演をする際に、そういったお声をよく聞きました。一方で、消費者の方に向けて講演をすると、「そういうサステナブルな商品はどこで買えるんですか」と聞かれるんです。ずれが生まれているな、ということを感じていました。
2021年2月に行った実証実験では、環境に配慮しているというメッセージを発信することに加えて、QRコードを利用してコンテンツを配信しました。QRコードを読み込むと、海や生産方法に対する生産者の思いに迫るインタビューや、真鯛の味やサステナビリティに対する考え方を語る料理人のインタビュー動画が流れるという内容です。さらに、6人の料理人が開発した真鯛のレシピも見られるようにしたところ、消費者の方々から非常によい反応が得られました。
このプロジェクトをきっかけに、流通企業側も前向きに動き始め、規模を拡大しながら販売の回を重ねているようです。2022年6月には、大手スーパー約350店舗の店頭とネットスーパー拠点230店舗で10,000尾のASC認証真鯛を販売し、よい結果が得られたそうです。食材の価値を消費者に伝える、ということをしていく上で非常に大きな成果だと感じます。
「エシカルフード」には興味がなくても「おいしいもの」や「キラキラしたもの」に興味がある方はいらっしゃると思います。そのような方々に対して、付属情報を活用して入り口を作ってあげれば、関心を持ってもらえる場合もあるのではないでしょうか。
Chefs for the Blueの活動をしている中でも、元々は「エシカル」に興味がなかったものの、「自分の好きなシェフが熱っぽく語っているこれってなんだろう」というところから関心を持ってくださる方がいます。食はそもそも、入り口の数が多い領域だと思っていますので、そこから「エシカル」につなげていければいいですよね。入り口を見つけていくことが鍵だと思っています。
ー ありがとうございました。最後に、ここまで読んでくださったみなさんに、佐々木さんからメッセージをお願いします。
「エシカル」や「サステナブル」って、「私達がずっと食べていく」ということを可能にするための根源的なニーズだと思うんです。それがなければ、私達は食べていけませんし、そもそも地球が今後につながっていきません。
みなさんにも、どうかそこに気づいていただければと思います。そして、すでに気づいている方には、機会があれば周りの方へ伝えていっていただきたいです。仲間を増やしていくということに協力していただけたら、と思います。
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