『他と信頼と』(オーストラ・マコンドー、2024)
『辰巳』(小路絋史、2024)に深く胸を打たれた者として見に行ったのですが、少なからぬ動揺を覚えました。まず、物語の甘さ。季節をーー日本的な〈季節〉の表象をなぞり返すようにーー取り込んでしまう甘さに加えて、単純にメロなのです。相手を真に尊重しているという事態から導かれる最も適切な身振りとは何か。同棲中かつ撮影中の恋人から彼女とその新マネージャーの仲に至るまで全篇を貫くこの問題系は、地方に住む半グレたちの抗争を描いたハードノワール映画『辰巳』でも思い直して最終決戦に臨む遠藤雄弥の佇まいに現れていたため、それほど突然表出した主題というわけではありませんが、やはり150分近い上演時間のほとんどをその解決に費やす事態は、映画で言えばむしろ今泉力哉あたりを想起させるものでしょう。『辰巳』であの狂犬を演じた俳優がこのように演出しているのかとギャップに驚きつつ、一方で、芝居がキチンとしていると確かな手触りを覚えもしました。つまり、ちゃんと相手役の俳優が発した言葉を受け止めてリアクションしているように感じられたのです。ずんぐりとした巨軀に似つかわしくないほど繊細な後藤武範の彼氏もこの俳優の新たな一面を見られましたし、湯川ひなの力みがかったマネージャーも小川暖奈の風通しのよい友人もーー千穐楽で演劇畑の観客が多かったためか若干外していた箇所はあったのですがーー悪くない。正直決して巧みとはいえぬタイプの深川麻衣もずっと口を真一文字にへの字にしながら怒り調子だったのが『ニノチカ』のグレタ・ガルボよろしく頬が緩む瞬間にはこの人以外にあり得ないなと思わされ、俳優全員に好感を持ちました。みんな好きになっちゃうというこの感じは、もちろん『ケンとカズ』や『辰巳』にも抱いた印象です。