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【短編小説】朝焼けを、告げる午前五時 上書きできない恋を捨てたい



拝啓 あなたへ

あなたはいまどこの国にいて、どこの海の上で何を聴いて何の銘柄の煙草を喫って誰と過ごしていますか。僕は変わらずに編集者をしながら、文章を直して、時々書いて、そんな日々を繰り返しては自分の好きなものを大切にして暮らしているつもりです。

---- "つもりです"と書いたのは一人でほとんどの時間を過ごし、誰にも教えない小さな秘密基地をこの世界に拵えているような、そんな感覚だから。

あなたと出会ってから五年が経ち、この街に住んで五年目になりました。未だに銀杏BOYZの歌詞に出てくるような"青春"、人によってはそんな表現するような、時間は過ごせていなく隣にあなたがいれば良かったのにと思いながら宛先のない手紙を積み重ねてます。

行きつけのうどん屋の風鈴の音、純情商店街のインドカレー屋のトイレのポスター、金曜ロードショーのサマーウォーズ、夏祭り、花火大会、沖縄旅行のしおり。

変わったのはあなただけで(そう思い込んでるだけかもしれませんが)街並みは色褪せず残り続けています。

毎年この季節になるとあなたを思い出します。光が強ければ強いほど影が濃くなるように、何処に行っても記憶の片鱗にはあなたの影(それは亡霊とも言えるような影)が自分の影の後ろに居るようにかんじます。


初めて出会った日、たまたま旅館に居合わせた男女のグループで作られた飲み会(プチ合コン)を抜け出して、一緒に鯵を食べたこと、広緑でお互いの灰皿を一杯にして、目の前の海の奥には鯵がいること。

横顔から移る景色を知りたくて、何度か釣船に乗ったり魚を捌いたりしたけれど、どれも上手くはいきませんでした。

ゲームみたいに魚が食いつくと「ビビって」振動が来ると思っていたけれど、魚によって餌の咥え方が異なるから釣り方も異なることを知りました。

アジ(鯵)は餌に対して並行して食いつくから釣竿が重くなるけれど、イカ(烏賊)は餌に対して下から食いつくから釣竿が軽くなる。魚も朝型とか夜型とか、好きな海とか好きな場所とか、人間みたいだなと思った。烏賊の由来は本当なの?みたいな話今ならもっとできるし、知りたかったよ。


一緒に灰皿一杯にした銘柄はまだ喫っています。銘柄ばかり聞かれるけど、喫った時の記憶は聞かれたことがないからぬいぐるみを中々捨てられないような大人になっていました。

そういえば、海外にこの前行けて何人か友達が増えました。フランスとスペインに旅行に行った際に「村上春樹とスコット・フィッツジェラルド」が好きな人が集まるお店で数人と仲良くなって今度上野美術館を案内しようと思います。上野、あの時見たパンダ(シャンシャン)は中国に返還されてもう見ることはできないそうです。

あなたと初めて会った時に一緒に居た友達とはまだ一緒に居る人もいるけれど会わなくなった人もいます。


始まりは用意されてるけれどずっと続く終電見たく終わりが無いこと(用意されていないことの方)が多くなりました。

始業式と卒業式が丁寧に用意されていたのは、儀式をしないと孤独を抱えてしまうからなのかな、実は終わりがあるってことは素敵なのかもしれないなと独り言。

とこんなことを日々考えていたら、東京の季節は梅雨を抜けて季節は夏になり、梅雨を抜けたと知らせるよう雨が降り夏に変わりました。雨上がりの空気を感じて、あなたとこんな話ばかりしたよねって思い出しています。

どうか体調には気をつけて、明日はサマーウォーズが上映されるそうです。

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Sho Kasama|【短編小説を作ってます / 2024.11.17 シェア型書店OPEN】
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