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【短編小説】掴みようのない淋しさ

ふとした時に感じる、
掴みようのない淋しさについて。

ときどき、僕は何かが静かに流れ去っていくのを感じる。正確に言うと、それが何なのか、僕自身もはっきりとは説明できない。ただ、それはどこか遠くで起こっている出来事でありながら、同時に僕のすぐそばで進行していることのようでもある。

それは記憶でもないし、夢でもない。ただ、曖昧な何かが存在していて、それがゆっくりと消えていく。気がつくとそこにあって、けれども触れようとすると、手の中からさらさらとこぼれ落ちてしまう。まるで蜃気楼みたいなものだ。形もなく、音もなく、ただ僕の意識の端をかすめていくだけの存在。

ある日、午後の部屋に差し込む光の中で、僕は自分の影を見ていた。その影は僕のものであるはずなのに、どうも見覚えがない。僕の知っている影とは違う何かのように感じられる。ぼんやりとした輪郭が少しずつ薄れていき、気づいた時にはもう僕の足元には何も残っていない。僕はただ、その静かな時間の流れをじっと見つめていた。

僕はその感覚を言葉にするのを避けている。うまく表現しようとすればするほど、その感覚はどこかに消えてしまう気がするからだ。それは特別なものではなく、誰かに話すようなことでもない。ただそこにある。見えない存在だが、確実に僕の中に生きている。

この不確かな感覚がやがてどこかに行ってしまうのか、それとも僕自身の一部として定着するのかはわからない。だけど、時折感じるその瞬間が、僕が何か大切なものを置き忘れてしまっているのではないか、という奇妙な錯覚を僕に抱かせる。そして、その錯覚はいつも僕の中に、どこかのページを読み飛ばしてしまったような、かすかな違和感を残していく。

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Sho Kasama|【短編小説を作ってます / 2024.11.17 シェア型書店OPEN】
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