【短編小説】恋人ごっこ
眠らない街でねむれないよるを何度過ごしたことだろう。
相変わらず残されたテキストメッセージは「既読」がついたまま無防備に晒されていた。
あと何日には、何時間後には会えること。
約束した日が楽しみで、こんな日々が果てなく続けばいいと思った。
"大事なものほどすこしめんどくさい"ことを知った。
日常を非日常にする遊びを見つけようって、限りある時間を大切にできるようにって。だから、お互いに自己紹介をするんだ。
行きたい場所、行きたくない場所、してほしいこと、してほしくないことを語った。そんな時間が増えるたび、知らなかったことを知るたび一緒になれるような気がした。
ラーメン屋。居酒屋。古本屋。古着屋。
足を運びたいお店に星をつけた。美味しかったお店にはなまるをつけた。
花火ができる公園、景色がいい歩道橋、いろんな場所で共に過ごす時間を共有したこと。
朝焼けのカーテンを揺らす日が増えるたび嬉しかった。
笑顔を見るたび、どこか孤独な匂いがする隙間を埋めたかった。
初めて会った日に撮った写真。
ぎこちない綻びで笑ってる姿がこっちをみつめる。
わかりきった答えに背いたことに気づいて、誤魔化した感情に抱かれて景色が滲んでいった。
僕らは二人の直線が交じり合うように、ある地点でいっときの時間を過ごして、そのまま交わることはなく離れてしまったのだ。
些細なキッカケに気づくことができなくて、月日が経てば立つほどわからなくなっていった恋。
だらしない姿を見しても、何気ない一言でも。
答えがないような言葉にも、笑ってくれた。救ってくれた。
その度、僕は調子に乗って面白いことを言えるように振る舞った。
君の笑顔が見たかった。
君を知りたいと思った数シャッターを切った。
あきらめる、諦められるキッカケをずっと探していた。
恋という濡れ衣が少しずつ剥がれ落ちていく。
その音を聞くたび、暮夜が早くなっていく時間を少し恨んだ。
鮮やかな色彩を描く景色が、少しづづ透明になっていく。オレンジ、キイロ、アオ、ミズイロ、シロ。
線香花火が終わるように、少しずつ夏が溶けていく。もう一度あなたといられるなら、きっともっと愛を伝える。