見出し画像

感染症病棟〜新型コロナウイルスが変えたもの〜⑬終

新型コロナウイルスと共存

それから新型コロナウイルスは何度も波を繰り返した。
祖母の最期には立ち会うことができなかった。
葬儀の人数も制限された。

しかし、数か月すると
ワクチンの開発が急速に進み
二類感染症から五類感染症となり
世間の人も何気ない会話で
「あーコロナに感染したわー。」と話すくらい感染者が珍しくない状況となった。
まだ完全ではないものの、各病院の面会制限は緩やかなものになり、
病棟の役割も本来の業務に近いものになっていた。

(今の世間の状況くらい落ち着いていれば祖母ともう少し過ごす時間もあっただろうに…たらればなんだけどね…。少しでも早く落ち着くように見守ってね。)
そう思いながら祖母が眠る墓に手を合わせた。


それから数日後、業務を終えて帰宅しようとしていると
「あの…!」と後ろから引き留める声がした。

その声に振り返ると以前、新型コロナウイルス感染症陽性の患者を誤って入院処理してしまった看護師と、その他に2人の看護師が居た。

(うわ…直接何か言われるのかな…)
そう思い身構える。だが相手の表情を見ると俯き、困惑した様子だった。

すると
「川崎さん…ですよね?感染症病棟の…。青山さんに聞きました…その…以前ロッカールームでいろいろ言っていたの私たちで…。この前青山さんに注意されました…。そして改めて感染症病棟の状況とか聞いたんです。それに自分が安易に考えていたせいで以前入院処理のミスしてしまって…恥ずかしい話ですけどその時、咄嗟にどうしたらいいのか動けなくて改めて日々の訓練の大切さとか知ったんです。失礼なこと言って、色々と申し訳ありませんでした…」と言われた。
その言葉の後に他の看護師もバツが悪そうに頭を下げていた。

その時に
(あの時は本当に悔しかったな)という少しイラついた感情と
(青山さんがいつか伝わると言っていたように、やっと感染症病棟が必死にやってきた役割の意味が伝わったのか…)という安堵した気持ちが混じった複雑な感情だった。

私は
「正直嫌な思いはしました。
ですが…お互い、新型コロナウイルスのせいでいろいろと変わって大変でしたよね。こちらも皆さんが内科の患者さんを看てくれたおかげでコロナ対応に集中できました。ありがとうございます。まだまだ完全に終息した訳ではないですけど共に頑張りましょうね」と声をかけた。

その言葉に相手の看護師は
「…そうですね。もう少しと信じてお互いがんばりましょうね」と言って去っていった。


なんだか少しすっきりとした気持ちになった。

そんな中、家の前に着くと
久しぶりに近所の方に遭遇した。

こちらに気づくと
「あら!川崎さん、久々じゃない!元気にしてる?」
と、以前のように話しかけられた。

その様子に
(付き合い方を考えるって言ってたこと忘れたのかな…?)と思いつつ

「元気にしてますよ」と答えると

「よかった!
みんな周りもコロナになっちゃったわよー。
もう仕方ないわね!
川崎さんも罹らないよう気をつけてね!」
と話し何事もなかったように笑顔で去っていった。

その様子をみて随分世間の反応が変わってきたんだなと感じた。
それと同時に、
(最初の方に感染したAさんやその家族の時も周りがこのくらい受け止めて普段通りに過ごしてくれて居てくれたら良かったけど……Aさんやその家族は元気に過ごせているといいのだけれど…)と思った。

だが、あの頃はどうしても現状とは違う。

"闘うべき相手はウイルスであり
医療従事者や感染者ではない。"

皆、頭でそのことは理解しつつ、
感染の恐怖からどうしても言動に出てしまうのだろう。

新型コロナウイルスは
単純に新しい未知のウイルスだということだけでなく
周囲の人間関係や生活様式など
様々なものを大きく変えていった。

もう2度と同じようなことは起きて欲しくない。
しかし、同じようなことが起きれば
今回の新型コロナウイルス感染症で学んだことが少しでも生かされることを願うばかりだ。

そう思いつつ、1日1日を過ごしている。



#創作大賞2024 #お仕事小説部門


よろしければサポートをお願いします!いただいたサポートは今後の活動費や医療の最新情報収集のための教材購入のために使用させていただきます!