少年よ!貧しても鈍するな!
私は保護司をしていますが、先日1号観察対象者(家庭裁判所の決定により保護観察処分に付された者)の19歳青年と面接をしました。
保護観察処分になると、遵守事項を守って月に数回、保護司と面接をして近況などを報告しなくてはいけません。
彼は焼き鳥屋で夜遅くまで勤務をしているので、面接はなるべく彼の都合のいい時間に合わせるようにしています。
今回は、彼が仕事を終えた22時に面接をしました。通常は昼間自宅でするのですが、仕事場近くのファミレスですることにしたのです。
入店し周りに人がいない奥の席に陣取り、彼は遅い夕飯です。
対象者に金銭を貸す行為は御法度ですが、たまに奢ることぐらいはいいだろうと思って、
「好きなの注文していいよ。奢るから!」と言うと、彼はにっこりして「ありがとうごさいま〜す!」
タブレットを手に取り、メニューをスライドさせ、いったりきたり。するとピタリ止まって「じゃあ、このステーキで!」
おいおい、遠慮ということを知らんのか?!と思いながら、
「それでいいの?ドリンクバーは?」
「水でいいです」
「そう。じゃあ、僕は夕飯をすましているので、ドリンクバーだけでいいや。注文して」
内心、財布の中身が心配にもなったのです。
それからステーキがテーブルに置かれると、彼はよほどお腹が空いていたのか、大盛りライスとステーキを交互にガツガツと頬張りはじめました。
歳をとると夜中にこんな重いものを食べる気にはなりません。
しかし、私も昔はこんなふうにがっついて食べていたなと思ったのです。
それから暫く一生懸命食べている様子を眺めていると、にこやかにとてもいい顔をしています。こっちまでなんか嬉しくなったのです。
家族団欒で食卓を囲んでいる時のような、ほっこりとした気持ちになりました。
しかし、彼のつらい生い立ちを思うと、きっとこのような機会が少なかったのだろうと勝手に想像して、心痛めたのです。
それから食べ終わると、仕事のことや友人に会いに一泊二日で旅行したことなどを楽しそうに話してくれました。
そんな彼も初めの頃は心を開いてくれませんでした。何回も面接するうちに段々と打ち解けるようになっていきました。
若い人の心を開くには、食べさせることが有効だと思うのです。特に男子は食べ盛りですから。
家で面接する時は食事どきでなくても、いつも惣菜パンやお菓子などを用意しておきます。すると彼はいつもそれをきれいに平らげて、仕事に向かいます。
腹が減っては戦はできません。
人間、食べなくては元気がでません。食べることは人生の楽しみのひとつでもあります。
『貧すれば鈍する』
食に困窮すると思考が鈍り愚鈍に陥ります。
食べる物があり、共食する相手がいることは、とても幸せなことだと思います。共食は人間だけの特権です。動物は会話なく(たぶん)ひとり黙々と食するだけですから。
現代は子供だって塾や習い事などで多忙です。家族みんな揃って食事をすることが難しい時代なのかもしれません。しかしどんなに忙しくても、いつも家族団欒で食卓を囲みたいものですね。
さて彼の保護観察期間も残すところあと半年となりました。終了したあかつきには、どこか美味しいお店でお祝いしようと思っています。善意の押しつけにならないように。
そして彼がいつか本当の家族団欒ができるようにと願うのです。
ー了ー
最後までお読み下さり、ありがとうございました🙇
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