ラスボスと対峙する
早朝「おと〜さ〜ん」「早くきて〜」
と娘の叫ぶ声が家中に響いた。
僕は何ごとかと驚き、急いで娘の部屋へと向かった。
そして部屋に入ると、そこには低姿勢で黒光りをした大きなゴキブリが身構えていた。
一瞬目があった。
こいつはデカい。
今まで僕が見た中の最強クラス。何処となく風格さえあるラスボスだ。
こういう時のために、部屋に備えてあるキッチンペーパーの芯をとり、片手で振りかざし仕留めにかかった。
そして、黒光りするラスボスめがけて、その太刀を勢いよく振り下ろそうとしたその瞬間
「あっ!」
奴は羽根をバタバタとさせて僕の頭上を飛び超え、背後の壁にへばりついた。
ゴキブリが飛ぶのを久しぶりに見た。飛ぶことを忘れていた。迂闊だった。
「此奴やりおる」
キッチンペーパーの芯ではとても太刀打ち出来ないと思い、直ぐに最終兵器のアースジェットのもとへと走った。
それを手に取り、部屋に戻ると娘が教えてくれた。
奴は僕が目を離した隙に、机の下に身を潜めていた。
そして、その最終兵器を潜んでいるであろう場所へひと吹きした。また更にもうひと吹き。
暫くすると、ピクピクと震えながら、弱々しい足取りで机の下から這い出てきた。
かなり苦しんでいる様子である。
今、楽にしてやる。
僕は「武士の情け!」と、渾身の一太刀を浴びせてとどめを刺した。
なにやら白いものやら茶色いものが飛び散り、無惨な姿となった。
死闘は終わった。
並のゴキブリならティッシュに包んでゴミ箱に捨てるのだが、こいつはラスボスだ。敬意を払って庭に埋めてあげよう。
ラスボスにも家族や仲間がいたであろう。
娘の為にしたことだ。僕にも家族を守る使命がある。
本意ではない。拙者を許してくれ。
人は差別をする。綺麗な蝶は殺されることはないが、しかしゴキブリはなんの躊躇いもなく、無慈悲に殺される。大した害はないのに、可哀想なことでもある。
人間のエゴ。
見た目の姿で差別をしてはいけない。みんな一生懸命生きている。
この世に生あるものすべては、神のもとに平等でなくてはいけないと思うのだが、、。
僕はその亡骸を庭に埋葬し、「次に生まれ変わってくる時は、嫌われ者のゴキブリではなく、華やかな蝶に生まれ変わってこいよ」と、その墓に両手をそっと合わせ、祈りを捧げた。
ー了ー
最後までお読み下さりありがとうございました🙇
※この画像はフォトグラファーのippei(いっぺい)さんが撮影したものを使わせて頂きました。富士山をバックに、とてもカッコイイ画像です。
御礼申し上げます。