成熟企業の競争戦略_次の時代に生き残るために by HBR勉強会
HBR勉強会では、ダイヤモンド社が発行するビジネス誌”ハーバードビジネスレビュー”の特集を取り上げて、毎月勉強会を開催しています。2022年4月号は 「デジタルディスラプションに立ち向かう成熟企業の競争戦略」というテーマでした。特集の中の「 限られた情報で変革を促す方法」という論文の紹介を中心に、レポートしていきます。
変われなければ、、退場決定?!
Amazonが台頭し、トイザらスが苦境に陥りました。Netflixは、レンタルビデオチェーンを撤退に追いやりました。 テック系を中心とするこれらの新興企業は、デジタルの力を武器にあっという間に成長し、これまで当たり前だったことが前提から変わってしまう時代になりました。こうした世の中の流れに対して伝統的な成熟企業はどうやって立ち向かったらいいのかが今月のテーマです。
特集を通じて、私が感じたメッセージは「変わっていくこと」の重要さです。成熟企業は、キャッシュがあったり、優秀な人材を抱えていたり、たくさんの取引先があったり、基本的には「持っている」立場です。
全てがうまくいっているように見えても、現代では変化に弱いことはとても危険です。既存のゲームをひっくり返してしまうようなプレーヤーが出てきた時に、変化に対応できないとあっという間に退場になってしまう=別のものに取り替えられてしまうリスクがあります。
経営順調な法律事務所の危機感
論文の中では、オーストラリアのKWMと言う世界的なローファームの改革が、事例として取り上げられています。KWMの経営は順調でした。 優秀な弁護士が集まり、高い収益を上げていました。
一方で法律業界には、将来的に大きな変化が訪れるのではないかという兆候がありました。例えば、法務関連のサービスをより効率的に提供するリーガルテックと呼ばれる企業が増加していました。また、コストを気にする会社が、自社で専門的な法律部門を抱える流れが見られました。 一部の人たちは、これらのトレンドを敏感に感じ取り、差し迫った脅威はないものの、将来的な不安を抱くようになっていました。
まだ、本当に大変な状況に陥るかわからないが、なんとなくトレンド変わりそうな気配がする、そういったあやふやな状況で、KWMは大きくアクセスを踏みました。将来のトレンド変化に備えるためDXを進めるのです。
組織は一朝一夕には変われない
この論文からは、組織が今までのやり方から変化することの大変さを垣間見ることができます。 DXの道のりは、単純に今やっていることをそのままデジタル化したり、ペーパーレス化したりして終わりではありません。
変化するためには、まずはメンバーが「変化しなくてはいけない」と言う共通意識を持つ必要があります。しかし、あるかないかもわからない将来の脅威に備えるために全員の認識を揃えて、行動を起こすことはとても大変です。 何せ、現在は経営も順調だし、 足元は何の問題もないのですから。
KWMの場合は、スタートラインに立つまでに1年かかったそうです。自分たちで独自のトレンド分析をしたり、主要メンバーで何度も話し合いを重ね、全員が「変わらなければいけない」という共通認識を持つのに1年を費やしました。
あれやこれやの検討の末、彼らはAIやスマート契約ツールを日々の業務に取り入れることに決めました。
続いて、導入したツールを全員が使えるように、丁寧に定着を図ります。
デジタルリテラシーブートキャンプと言う教育プログラムを立ち上げ、スタッフや弁護士に受講をさせました。さらに関連する動画を130以上も作成し、いつでも見られるように公開しました。また、教育を受けたITに強い若者が、ベテラン弁護士に教える「逆メンター」の制度を作りました。ベテラン勢にもツールを使いこなせるようになってもらうためです。
報酬体系も変更しました。弁護士たちがリーガルテックに関わる業務に時間を割いた場合に、最大30時間まで給料が支払われるようになりました。
新規採用の弁護士に対しては、時間がかかるほど残業代が払われるような報酬体系をやめ、 デジタルツールを使って効率的に仕事をした方が得をする形に改めました。
評価基準も変わりました。DXやリーガルテクノロジーに詳しい弁護士に称号を与え、顧客体験を変革したチームに対しては社内で表彰をしました。
結果として、KWMはファイナンシャルタイムズからアジア太平洋地域で最も革新的な法律事務所と言う評価を得るまでになりました。
うまく行っている時こそ変化に投資する
相当大変な改革だったと思います。本文には書いてありませんが、もしかしたらこうした改革についていけず職場を去った人もいたかもしれません。わかりませんが。
そして重要な点は、これらの改革は業績好調で、顧客が満足していて、業界でも人気の就職先として高い評価を受け、すべて順調に進んでいる、何にも問題がないときに実施されたものだと言うことです。
これ、すごいことじゃないですか?全てが順調な時に、なかなか危機感を保って行動し続けることって難しいですよね??
実際のところは、本業が順調だからこそ、次の時代に備える余裕があるとも言えるでしょう。今日を生きることに精一杯な状態では、あるかないかもわからないような将来の変化への備えどころではないからです。
そうは言っても、普通は組織も個人も、簡単に続けられることじゃないと思うんです。
組織の変革を進めることは、ものすごく強いリーダーシップと、メンバー全員に行動を促す忍耐強さが必要です。そうして先んじて変化していくことが、成熟企業の生きる道だと、今回の論文は主張しているわけですね。それができれば、本来「もっている」立場の成熟企業は、新興企業にとっても簡単に打ち負かせない巨大な存在となるのでしょう。
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