都内の島から夏を始める。
島へ
島に行きたい。なぜかわからないが、最近ずっとそう思っていた。と言っても、東京で忙しく働く身からすれば島という言葉からは距離が遠そうな響きを感じる。そこでまずは現実的な本屋に飛び込み、離島という言葉が目に入る文献を片っ端から目を通した。そしているうちに7月に突入。気づいたら3連休が目前にあることを初週に知り、慌てて最も行きやすそうだと目をつけていた離島への移動手段を押さえにかかった。
最初の島は、入門編として最適だと感じていた東京の島々。その中でも今回訪れたのは伊豆諸島の新島である。3連休ということもあり、竹橋から出ているジェット船は満席だったが、残席わずかな状況だった大型客船でなんとか席を確保。とはいえ、値段変わらずしてジェット船は2時間半程度で着くのに対し、大型客船は7時間半程度かかってしまう。時間の比較的ゆったり取れる連休でなければまず取らないであろう手段だが、大型客船に乗るのは初めてということもあったので経験として悪くないと思いたい。
1日目 23:00 竹橋出港
納涼船後であろう華やかな若い浴衣集団に逆行しながらターミナルへ。船内は綺麗で筆者が取った特2等の席は寝台と毛布、枕に小ぶりのコインロッカー。
荷物を置いてから甲板へ。いよいよ旅が始まると、気持ちも昂ぶる。
24時に消灯。
2日目 7:20 新島・黒根港 入港
翌朝一番早く着く大島には4時入港で大きなボリュームの館内放送が鳴り響くため、睡眠が十分取れたとは言い難い船旅であった。
入港すると早速滞在先の送迎。天候が悪い気配であったが、車に乗り込むと土砂降りに。そのまま宿到着後10時頃まで激し目のスコール。
今回お世話になったのはHOSTEL NABLAというドミトリー。外壁の眩しい白と海をモチーフにした青がリゾートらしい配色のこちらの宿は清潔かつサービスが行き届いていて快適な滞在であった。
雨が上がると、早速島内の散策へ。弾丸すぎてノープランだったこの旅の唯一の目的は、海を見てのんびりすることだったので、ひとまず海。宿から歩いて5分くらいですぐに一番近い黒根海岸に着いた。
10:30 羽伏浦海岸
波を少し眺めた後、レンタサイクルを借りて、今度は反対側の羽伏浦海岸へ。南には火山灰層が海に食され露出した珍しい白ママ断層を見ることができる。そしてなんと言っても沖縄と遜色ないくらい、海の透明度が高く、美しい。サーフスポットとしても有名。
その後、自転車を10分ほど漕いでまた反対側へ。レンタサイクルがなかなか年季が入っていたため、平坦な道でも足に重しでも着いているのではなかろうか、というくらい太ももに力を入れて漕ぐ必要があった。この時の坂道は本当に辛く、手押しで強行突破。途中蛇に遭遇しながらも、最後の下坂でのご褒美タイム(自転車で風を切りながら坂道を下る)は忘れられない。
12:00 ランチ、博物館、十三社神社
腹ごしらえのため、POOLという島一番のカフェへ。
お腹を満たしてからは、新島村博物館へ向かう。ここでも坂道の試練。乗り越えると、こじんまりとはしているものの、しっかりとした展示のある博物館へ。平安時代の噴火で向山が隆起したこと、火山島ならではの珍しい地質、島の特産品でもあるコーガ石(滞在したHOSTEL NABLAもコーガ石を使用していた)、江戸時代は流刑地であったこと、伝統芸能である盆の大踊など、島の歴史や風土をかいつまんで学ぶ。
涼んだ(学んだ)後、博物館への坂道の途中で発見した獣道へ。十三社神社へ抜ける道らしく、雨でぬかるんだ地面を虫に怯えながら駆けること数分。わずか200mほどで神社の裏へ抜け出る。新島の総鎮守にして伊豆諸島で最大規模の神社。お参りをしたのち、坂を下って、前浜海岸へ。
14:00 海水浴 前浜海岸
せっかくだし、そして何より28度にして本当に暑かったので(都会とは全く違う暑さ)、海水浴をすることに。博物館で聞いたら前浜海岸か黒根がおすすめ(間々下は潮が早くて危険)とのことだったので、人も多かった前浜海岸で泳ぐ。さっぱりとして気持ち良くなったところで読書。この流れでもうすでに島に来た目的は達成された。読んだのは『26歳計画』。沢木耕太郎の『深夜特急』に触発されてさまざまな分野・地域にいる若者が26歳であることを共通項として文章を書いたエッセイ集。今年、その節目を迎える者として、感情移入しすぎて感傷的になったり、あるいは奮起されたりと心を揺さぶられる素晴らしく豊かな読書経験であった。
ところで、このビーチは、場所の取り合いなどにならずしっとりと過ごせたのが印象的だった。昭和初期には離島ブームも相まって大変な混雑だったらしいが、今は落ち着いており、3連休の只中でありながらも、ゆったりと快適に過ごせたことは記しておきたい。
16:00 温泉
整ったあと、自転車の返却時間が迫っていることもあり(17時まで)、海岸の次に島の名観光スポットとして知られる温泉へ。
まずは水着着用で24時間入れる湯浜露天風呂。正直気温が熱かったのでお湯にはあまり浸からず、プール部分に避難。日中は絶景が楽しめる。夜はきっと星が綺麗なのだろう。
まました温泉へ。名物の砂むし風呂に中華系観光客2名と一緒に入る。ほぼサウナ。砂の重さが心地良いし、砂に埋もれてみたいという子供ながらの夢も計らずして叶う。シャワーと湯船で最高に気持ち良くなったあとは、夕日を浴びながら来た道を戻る。まました温泉から湯浜露天風呂へ戻る道すがら、少し突き出た場所にある東屋に立ち寄る。東屋からはこれまでになく真っ青な海が波飛沫をあげながら眼前の岩山にぶつかる壮大な風景、そして少し目を上に向けると雲が優雅に泳ぐ空が見え、しばらく惚けてしまった。美味しいものを食べて、身体を動かし、さっぱり整った後に、この美しい景色。これ以上なく気持ちが晴れ、満たされた状態でフリーズ。すると、この丘が希望の丘という名を持つと知り、嬉しくなる。安易に使われてしまう傾向のある希望という言葉だけど、ここまで正しくその語意を感じられる場所は他にない。すごく正しい使い所だ。
ちなみに、この丘をはじめとして島内にはコーガ石でできたモヤイ像が多くあり、名物となっている。
レンタサイクル返却後、ホステルで簡単にチェックインを済ませる。ポキ丼がボリューミーだったので夜ご飯は簡単なおつまみ程度で良いな、と思いながら居酒屋「日本橋」へ。
帰りしな、月明かりの下にある海を眺めてさらにセンチメンタルに。月寝不足だったこともあり、21時には就寝。
3日目 7:00 かじやベーカリー
6時間睡眠で身体が満足してしまい、夜中に目がさめる。結局、ユーロの決勝(スペインVSイングランド)を見てしまった。
ドミトリーで同室に人がいたこともあり、起床するのは6時半過ぎに。簡単に身支度をして、島一番のベーカリーであるかじやベーカリーへ。7時開店というので6:55に着くように行ったのに、それでも10人程度が前に並んでいた。後ろで話していた島のおじちゃんたちによると、島内ではこれまでかじやベーカリーの他にもいくつかパン屋ができたらしいが、ここに味が敵わないというので潰れてしまったらしい。老舗にして頂点。たまごサンドイッチ、ハムサラダサンドイッチ、メンチサンドイッチ、ミルクパン、あんぱんを購入。1日かけて食べ切った。一番美味しかったのは、新鮮な野菜がたまらないハムサラダサンドイッチ。パンはふわっふわで美味しい。
10:55 黒根港 入港
そうこうしているうちに帰船の時間。船に乗る前に、名残惜しい気持ちで海を見納め。次来るときは、絶対にマリンアクティビティを予約しようと思う。
それにしても、『世界が変わるシマ思考』でも説かれていた離島での「足るを知る」のパワーはすごい。1人で島に来るのは少し勇気も必要だったけれど、ここまで満たされた気持ちになれると知れた今、本当にえいっと船の予約をした甲斐があったと思う。自然に翻弄されながらも等身大の自分に戻ることができて嬉しい。
これからも少し心が疲れた時には、離島に来ようと思う。空と海のあの透き通る青色は悩みを底抜けに吹き飛ばしてくれる。この旅は絶対に続けていきたい。
どこまでも気持ちの良い青に背中を押されて、さあ、夏が始まった。
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