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R.I.P.

 出会いは、中学生の頃だった。
 友達から借りたアルバム『狂った太陽』。

 1曲目の「スピード」から、めちゃくちゃ変な曲だと思った。聞いたことがない音楽だった。テレレレ テレレレ テレレレンッ……というギターの後に、歓声とドラムが入り乱れる騒がしいイントロ。
 アウッ! とシャウトして、「人指し指を頭に突き立ててぶっとんでいる」と歌い出すボーカルは、太めの低音なのに妙に艶めかしい。
 その横でギターは、合っているのか合っているのか分からない絶妙のラインを、荒めの運転で進んでいく。

 変な曲!

 かっこいいとかかっこ悪いとかじゃ言い表せない、謎の昂揚感があった。
 不良っぽさとSFみたいな作り物感が同時に立ち上がって、ジャンプばかり読んでいた少年が、初めてアフタヌーンやスピリッツで『寄生獣』や『MONSTER』にふれた時みたいな、知らない扉を開けてしまった感覚。

 そう思ってドキドキしていたら、サビでもう一発くらった。

「女の子 男の子」 「蝶になれ 華になれ」

 やたら艶めかしい低音ボイスが、急に郷ひろみか山本リンダみたいな詞を歌い出したのだ。
 なにこれ、やっぱりめちゃくちゃ変!!

 そして「あぁ!」「UHHH!」って喘ぎながら、どんどんテンションを上げて、摩天楼にダイブしたり、ボリュームを上げたり、共犯者たちを誘ったりしていく。その声はいやらしく、悪くて、愉快そうだった。
 本当に人間じゃなくて、悪魔のようだった。
 そして、2番のサビを聴いたときには、完全に虜になっていたと思う。

「女の子 男の子 君には自由が似合う」

 そう歌ってくれた人が、櫻井敦司だった。

 何者でもない、何者にもなれそうにない田舎の十四歳に、悪魔が降りてきて囁いたのだ。

 「君には自由が似合う
  素敵だ お前が宇宙
  君が宇宙」

 それから三十年、ずっとBUCK-TICKを聴き続けている。


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 櫻井敦司はずっと、愛と、生と死と、お別れを歌ってきた。

 あの尋常ならざる美貌と、ビジュアル系の元祖と呼ばれるゴシックなバンドイメージから、装飾的な言葉でファンタジーを歌ってきたイメージを世間ではもたれているかもしれないが、実際には血肉の通った歌と詞を書いてきた人だ。

 そして常に、いつか来るお別れの準備をするように、夜の闇や月の向こう、宇宙の果てへと消え去っていくような歌をたくさん唄ってきた人だ。

 この世界では誰もが孤独で、どんなに楽しいことがあっても幸せを感じても、いつも寂しさがつきまとうことを、繰り返し繰り返し歌ってきた人だ。

 でも、だからこそ、彼の歌は、自分の孤独を否定しなくていい、寂しさや悲しさとともに生きていっていいんだ、と優しく笑いかけてくれる。

 そして、孤独で寂しくて自分自身を呪ってしまうことはあっても、誰かや世界を呪うことはしない。そんな高潔さも教えてくれた。

 わたしたちはみんな孤独で、みんないつかいなくなってしまうのだけど、だからこそ束の間の人生で出会えたことを喜び合おう。
 人生は愛と死だから。
 世界は美しいはずのものだから。
 そのことを、果てしなく優しく歌い続けたのが櫻井敦司だ。

 大切な人との別れを歌った「さくら」「JUPITER」。
 生命が宇宙を輪廻していくような「COSMOS」「Soralis」「夢見る宇宙」。
 解放としての死を想わせる「die」「MOONLIGHT ESCAPE」。

 もちろんこれ以外に、激しい曲やポップな曲もあるし、歌詞のテーマもたくさんある。
 ただただ踊り狂う曲や、エロティックな恋の歌や、誰かになりきったシアトリカルな曲や、反戦歌や、猫の歌もあって、好きな曲は数えきれないほどある。好きな歌詞もいくらでも出てくる。

 だけど僕が特に、ああ、櫻井敦司だな、と思う歌詞がある。
 それはやっぱり、孤独と別れを歌った詞だ。

「夜空にきらめく星屑 綺麗ね 誰もひとりね」
 (NEW WORLD)

「人間にはさよなら いつか来るじゃない この宇宙でもう一度 会える日まで」
 (BRAN-NEW LOVER)
 
「生きていたいと思う 愛されてるなら ごめんなさい ありがとう」
 (鼓動)

 最後に行くことができたライブの最後の曲は、「鼓動」だった。

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 櫻井さん。あっちゃん。
 永遠に好きです。
 あなたの声が、歌が、詩が本当に好きです。
 あなたがいないことが本当に寂しいです。
 でも、あなたの残してくれた曲を聴いていると、もしかしたらあなたは今、すごく久しぶりに安らげているのかもしれない、とも思います。
 きっとずっと寂しいけれど、その寂しさや悲しさと一緒に生きていきます。
 人生はそういうものだと、あなたの歌に教えてもらいました。

 ありがとう。
 あなたの魂が安らかでありますように。

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