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28回目 "The Island of Missing Trees" を 4 回(6-7回から変更)に分けて読み進めます。キプロス島を追われてイングランドに移住した両親の下に育った 少女 16 才。

この小説のプロローグ部分(全 5 頁)、それに加えて第1章のほぼ1頁分の原文(18-19頁にまたがる部分)が公開されています。
今回読むことにした小説は Elif Shafak の小説、"The Island of Missing Trees" です。これはNote 記事、Irene さんの洋書レビューに心惹かれたことに依ります。感謝を込めてここにリンクを張っておきます。

1.立ち木は人が体験できる期間よりも遥かに長い期間の出来事を体験し記憶しています。

私の第一回目の記事にある「マグノリアの花」では川の岸辺にあるヤシの木が人々の生活、歴史を語りきかせてくれました。今回の "The Island of Missing Trees" ではイチジクの木が主人公家族の様子を観察していて話してくれます。何れの場合も、これら立ち木が記憶している期間は人間ひとりの寿命を遥かに超えて長いことが小説に面白い効果を与えます。”The Island …" では年輪の歪み(Warp)が記憶部分の一形態とされこの小説に特有の Scientific な香りを放ちます。

2.両親の下で子供が育てられることの意味。

しっかりした両親の下で育てば、その土地にあって両親が外人であっても当地の言葉の達人になれるのです。この小説の登場人物である Ada にしろ、この作品の著者である Elif Shafak にしろ、異国で成長したのに見事な英語の使い手です。彼女達とは真逆に、親と切り離なされた子供たちの存在を確と頭に思い浮かべずにはおれません。こんなことを言う私は、今、トニ・モリスンの「マーシー (A Mercy)」を思い出しているのです。「マーシー」では子供と親の繋がりを無視して売り飛ばされていく人々にとって親から子に引き継がれるべき生きる為の基本行動さえ伝えられないことと、それが、当事者のみならず、そのような人々がいる社会にどれほど残酷な将来を生み出してきたのか、その事の重大さを思わずにはおれません。

3.イチジクの木の物語からはレーチェル・カーソンが描いた自然の匂いが噴出してきます。

レーチェル・カーソンが当時の世界を覚醒させた「自然への目の向け方」を、この小説の登場人物は当然の発想といえるレベルにまで自身のものとしています。例えば次の文章です。<From 2 lines at the bottom on page 41, "The Island of Missing Trees" a Penguin Book>
自宅の庭でイチジクの木の手入れをしていた父 Kostas は 自分の16才の娘 Ada に語り掛けるのです。 時は2017-19年です。

[原文] 'Well, I think there's still so much we don't know, we're only just beginning to discover the language of trees. But we can tell with certainty that they can hear, smell, communicate - and they can definitely remember. They can sense water, light, danger. They can send signals to other plants and help each other. They're much more alive than most people realize.'
[和訳] 「そうだね、しかし私たちにはまだまだ分かっていないことがたくさん残っています。今はまだ、ようやく木々が交わす言葉の存在に気付き始めたという段階です。それでも木々には聞く力、匂いを嗅ぐ力、情報をやり取りする力、更に確かなのは記憶する能力までもが備わっているのです。木々は水の存在、光、近づいてくる危険の存在が解れます。木々は他の立ち木に信号を送りあって互いに助け合っています。木々というのは私たち人間の大部分が思っているよりも遥かに多くの活動、生き物としての活動をしているのです。」

R. Carson の 'Silent Spring' は1950年代の作品。小説というよりノンフィクションです。< Chapter 1: "A Fable for Tomorrow." Excerpt from the first page of this chapter>

[原文] There was once a town in the heart of America where all life seemed to live in harmony with its surroundings. The town lay in the midst of a checkerboard of prosperous farms, with fields of grain and hillsides of orchards where, in spring, white clouds of bloom drifted above the green fields. In autumn, oak and maple and birch set up a blaze of colour that flamed and flickered across a backdrop of pines. Then foxes barked in the hills and deer silently crossed the fields, half hidden in the mists of the autumn mornings.

… … … … … (One complete paragraph skipped here.) … … … … …

Then a strange blight crept over the area and everything began to change. … … …
[和訳]何時のことだったか、少し以前の頃です、アメリカの中心ともいえる町の一つがここにありました。すべての生き物が周囲の自然と調和して暮らしていると信じられていました。町は実り豊かの耕作地がチェスボードの格子面のように並ぶ真ん中にありました。穀物が育つ耕地が広がり傾斜地には果物の木々が育っていました。春には緑に覆われる土地、その上には木々の花が白い雲の様に拡がり揺らぐのでした。秋にはオークとメープルそしてカバの木々が鮮やかな色で立ち上がり揺れ動き、パインの木立の背景を作りあげました。キツネが丘の方から遠吠えを響かせシカは静かにこの耕作地を渡り歩いたのです。その姿、秋の早朝には朝霧に包み隠されていたのでした。・・・
  しかしある時、奇妙な災いの前兆がこの辺り一帯を覆ってしまったのです。すべてが変化を始めたのでした。

4.教室で先生の質問への返答に行き詰った16才の少女アダ、その間のドキドキする心が秒刻みでカウントされ読み手に迫ります。

このハラハラ・ドキドキは Michael Morpurgo の小説「Private Peaceful(兵士ピースフル)」のハラハラ・ドキドキを思い出させます。一方は一人の心の中の戦争、もう一方は国の戦争(第一次大戦、ベルギー・フランス国境地帯)と異なりますが。Private Peaceful では次の通りです。(ご注意:題名のPrivateは個人のという形容詞でなく「下級兵」の意味です。Peaceful は良くあるイギリス人の Family Name であって、「平和な」という意味の形容詞ではありません。)

[原文]< ”The Island of Missing Trees” lines 22-30 on Page 26 >
She screamed.
So unpredicted and forcefully and impossibly high-pitched was her voice that the other students fell quiet. Mrs Walcott stood still, her hands pressed to her chest, the creases around her eyes deepening. In all her years of teaching she had never seen any thing like this.
Four seconds passed. eight, ten, twelve . . . The clock on the wall inched its way forward painfully slowly. Time warped and leaned into itself, like dry, charred timber.
[和訳] 彼女は大きな声を上げました。
その声はあまりにも唐突で、一方的な内容であって、ありえない程にキーキー声であったもので教室の生徒たちは一瞬シーンと静まり返ったのでした。ウィルコット先生はじっと立ったままで動くのを止め、両方の掌を胸にあてるのが精一杯でした。両目の周りの皺が一層深くなりました。長い教師生活の中でもこのような経験は初めてでした。
4秒間が過ぎました。8秒、10秒、12秒・・・壁に掛けられた時計の動きまでが苦しそうにそのスピードを落とすのでした。時刻の進行がゆがめられたのです。時刻自身の内部に詰め込まれたのでした。それは水が足りなくて茶色に色を変えた材木と同じでした。

前述の "Private Peaceful" では次の通り各章が秒読みするかのように、時刻で提示されます。

[原文 第一章]FIVE PAST TEN
They've gone now, and I'm alone at last.. I have the whole night ahead of me, and I won't waste a single moment of it. I shan't sleep it away. I won't dream it away either. I mustn't, because every moment of it will be fat too precious.
… … … (以下略)
[原文 第二章]TWENTY TO ELEVEN
I don't want to eat. Stew, potatoes and biscuits. I usually like stew, but I've no appetite for it. I nibble at a biscuit, but I don't want that either. Not now. … …
… … (以下略)

このような調子で続く小説の最後の章は次の通りです。
[原文 第十一章]ONE MINUTE TO SIX
(以下略)

[和訳 第一章]10時10分過ぎ
みんな(集まっていた人たち全員)は部屋から出て行きました。自分はとうとう一人になりました。その時まで、これから先、私には一晩の時間が残されています。この時間はその一瞬たりとも無駄にしたくないのです。眠りに失うなんてできません。夢の内に過ごしてしまうなんてできません。そんなことはもっての外です。重要なことこの上ない時間なのです。・・・
[和訳 第二章]11時20分前
食欲がありません。シチュー、ポテト、ビスケットがあります。シチューは好物です。今日はしかし食べたくないのです。ビスケットの一枚を持って舐めましたが、食べる気が起こりません。食べたくないのです、今は。・・・

[和訳 第十一章]6時1分前
(以下略)

5.少し言い訳させて頂きます(免責事項?)

私の記事、これまでの記事(27回目とそれ以前のものすべて)は当該作品を最後まで読了し2-3回読み返した後の Study Notes を公開していました。今回からの「The Island of Missing Trees」は読了以前の進行途中で、Study Notes を公開し始めています。最終回までたどり着いた後に、公開済みの Study Notes にかなりの数の訂正を入れるかも知れません。ご留意ください。
この記事ではまだ読み終わっていない小説故に、読み進むその時その時に、自分の記憶を総動員して目の前の話題の把握に努める私の内輪の作業を人目に曝すことになってしまったなと複雑な気持ちでいます。 以上。

6.Study Notes の無償公開 "The Island of Missing Trees" の Pages 1-49 に対応するものとして、 StudyNotes_TheIslandOfMissingTrees_Part 1を以下に公開します。