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実践向け!日本一わかりやすい有機肥料の肥料計算・施肥設計 基礎編
こんにちは、こんばんは。雇われ有機農家の Notariです。
今回は有機肥料の肥料計算を日本一わかりやすく解説します!
否、、、わかりやすく解説する予定です(笑)
まず前提となる知識を説明してから肥料計算の方法を綴ります。
前提を知らなくても計算できますので、お急ぎの方や玄人の方はすっ飛ばして超簡略!肥料計算からお読みください。
前置き~肥料計算に必要な知識~
①施肥基準
作物の成長には窒素(N)・リン酸(P)・カリウム(K)の三大栄養素が欠かせません。施肥基準とは、メタボや痩身を防ぐための適切なごはん(肥料)量の基準です。肥料の過不足は収穫量・品質の低下、病害虫の発生、環境汚染につながります。
②単位
農業界では畑の面積をa(アール)で呼びます。
1aは学校の教室くらいの広さで100m²(10m×10m)、その10倍の10aは1000m²(100m×10m)です。
1kg/10a は肥料を「10aあたりに1kg撒く」ことを意味します。
/(スラッシュ)は「あたり」と読みます。
③土壌の質量
肥料計算では土壌の質量あたりの肥料量を計算します。深さは栽培する作物の根の長さにより、イネは約15cm、大根は約30cmと異なります。僕は深さ20cmで肥料計算することが多いです。
土壌の質量は面積×深さ×密度で求めます。
10aの畑の体積は深さ20cmとすると200m³となります。
土壌の密度は仮比重(容積比重)で計算します。
土壌によって密度は異なるので下記を参考にします。
今回は一般的な仮比重「0.8」で計算します。
10aあたりの土壌の質量は
1000m²(面積)× 0.2m(深さ)× 0.8(仮比重)= 160t
となります。
④有機肥料の成分量
ほぼ全ての有機肥料の成分量は書籍「バイオマス利活用システムの設計と評価」(無料ダウンロード可)で知ることができます。
※3 農研機構2006年「バイオマス利活用システムの設計と評価」付属資料p.245
成分量は%で表されます。例えば、牛ふんの窒素(N)成分量は2.19%で、牛ふん100gあたりに2.19gの窒素が含まれているという意味です。2.19g/100gとも表記できます。
肥料計算には単位変換が必要です。
どれも同じ1gを示しますが、単位を変えると
1,000mg =1g =0.001kg =0.000,0001tと1000倍ずつ変化します。
例えば、2.19g/100g =21.9g/1kg =2,190mg/1kgとなります。分母の100gが1kgに変わると分子の2.19gも10倍されて21.9gとなり、gがmgに変わると0が3つ付きます(1g=1000mg)。単位が変わっただけでどれも同じ意味です。
⑤肥効率
肥効率とは何か?を説明する前に有機肥料の特性を紹介します。
作物にとって有機肥料は大き過ぎて直接吸収できません。
有機肥料の養分は微生物によって小さく分解されると、作物が吸収できる形になります。そのため施肥してから吸収されるまでに時間がかかります。一方で化学肥料は小さいため、作物がすぐに吸収できます。
肥効率とは堆肥の肥効を化学肥料の肥効に対する割合で表した値です。化学肥料で窒素を10㎏施肥した場合と同じ収量を得るために、堆肥の窒素成分として20㎏施肥する必要があるなら、肥効率は50%になります。 ※4 日本土壌協会 2017年 「土壌診断と作物成育改善 p.59」
要すると、肥効率は化学肥料を100%とした場合に有機肥料ではどの程度の養分量か、ということです。
肥効率は有機肥料の成分量によって決まります。
※5 日本土壌協会 2015年 「有機農業の基礎知識 p.119」
微生物の活性は温度・酸素・水分によって決まり、温度の高い夏には肥効率が高まります。堆肥の窒素が2%の未満で、肥効率は10%です。残りの90%は来年以降に放出されます。これを地力窒素と言います。一方でリン酸やカリの養分は高く、ほろんどが一年目で放出されます。
今回は窒素の肥効率を60%で肥料計算します。
⑥土壌分析(畑の肥料残量)
畑の肥料残量を知らなければ適切な量の施肥ができません。これを土壌分析によって確かめます。
ある畑の土壌分析結果です。
今回はこの無機体窒素の合計3.5mg/100gで肥料計算します。
分析結果がない場合は畑の窒素残量0として計算して下さい。
さて。長い前置きは終わりです。いよいよ本題です。
超簡略!肥料計算
今回は三大栄養素の一つ、窒素(N)で肥料計算を解説します。
例として、土壌の深さ0.2m、仮比重0.8、窒素施肥基準20kg/10a、畑の窒素残量3.5㎎/100g、施肥する有機肥料の窒素成分4%、肥効率60%で計算します。
下記の「肥料計算はやみ表」と「見取り図」を参考にします。
「肥料計算はやみ表」
*土壌の深さを変えたい方は、、、
はやみ表の値は単位変換によって求めました。
施肥基準20kg/10a
→20kg/160t(10a=1000m²(面積)× 0.2m(深さ)× 0.8(仮比重) )
→20mg/160g 160gを100gへ。分母を変えれば分子にも同じ数をかける。
→(20×0.625)/100g
→12.5mg/100g
「肥料計算 見取り図」
①はやみ表で、施肥基準(kg/10a)と仮比重から値(mg/100g)を取り出す
計算しやすいように、はやみ表には施肥基準のkg/10aを土壌分析の単位に合わせてmg/100gへ単位変換した値が書いてあります。
例の場合、窒素の施肥基準は20㎏/10a、仮比重は0.8なので、施肥基準は12.50mg/100gとなります。
②①から畑の肥料残量を引く
施肥基準から畑の肥料残量(土壌分析値)を引いて、施肥成分量を求めます。
12.50mg/100g- 3.5mg/100g= 9mg/100g
施肥成分量は9mg/100gとなります。
この値はいったん保留して、次に有機肥料の成分量を求めます。
③有機肥料の成分量をmg/100gに単位変換する
例によって、有機肥料の窒素成分は4%です。
100gの有機肥料の中に4gの窒素があることになるので、4g/100gとなり、単位をgからmgに変えて4,000mg/100gとなります。
④窒素成分に肥効率をかける
例によって、肥効率は60%なので、4,000mg/100g中の60%が実際の肥料成分となります。
4,000(窒素成分)×0.6(肥効率) =2,400mg/100g
⑤施肥成分量を有機肥料の成分量で割る
②で保留した9mg/100gの施肥成分量を④の値で割って肥料撒布量を求めます。
9mg÷ 2,400mg= 0.00375mg/100g
これで土壌100gあたりの施肥量が求まったので、これを10aの肥料撒布量に単位変換します。
⑥⑤の値に、はやみ表の係数をかけて10aあたりの肥料散布量を求める
はやみ表より、仮比重0.8の時の係数は1,600,000です。
この係数をかけると単位がmg/100gからkg/10aに変換されます。
0.00375× 1,600,000= 6,000kg/10a
以上から、施肥基準に基づく適切な肥料撒布量は6,000kg/10aとなります。
さらに深く知りたい方へ
現場では6t/10aの有機肥料を撒くことはない
今回は有機肥料の計算を分かりやすく説明するものです。慣行農法から有機農法に変える時、耕作放棄地の開墾時には6t撒くことがありますが、一般的な施肥ではそこまで大量には撒きません。
僕の中で有機肥料の施肥には3つのお約束があります。
①頭打ちになる肥料成分から求める
今回の例のように、窒素成分4%の有機肥料を6tも畑に撒けば、肥効率が高いリン酸やカリウムが過剰になる可能性があります。
例えば、スイートコーンの施肥基準はN:P:K=20:20:20です。
肥効率が窒素60%、リン酸80%、カリウム90%で、肥料成分が窒素4%、リン酸4%、カリウム1%の豚糞堆肥を用いる場合、窒素肥料をベースに計算するとリン酸が過剰になります。
肥料成分量と肥効率を加味して、最も多く施肥されるであろう成分に見当をつけてから肥料計算し、足りない成分は他の肥料と組み合わせます。
窒素以外の成分でも肥効率が変わるだけで計算の仕方は同じです。
②有機肥料の施肥量は土壌質量の3%以下にする
今回の例では、土壌質量は160tでした。その3%となると、最大4.8tの施肥量となります。一度にたくさんの肥料を施肥すると土壌環境が急激に変わり、病害虫が増加するなど作物に悪影響が出ます。
③地力窒素の養分を予測する
有機肥料の窒素の肥効率は低く、翌年以降に少しずつ養分を供給します。これを地力窒素と言います。土壌分析の無機体窒素値には、ほとんどの地力窒素は含まれません。土壌中有機物量や昨年撒布した有機肥料の肥効率から、地力窒素による養分供給量を予測して、施肥設計します。これらを加味しないと窒素過多になる可能性があります。
まとめ
分かりやすく伝わったでしょうか。。?
有機肥料の施肥設計は奥が深く、ここだけでは語れていないことがごまんとあります。土壌の性質、C/N比、肥料の分解速度、土壌の物理性、CEC、腐植などなど。全てを考慮して最善の施肥設計をするのはとても難しいですが、そこが農業の面白さだと思います。
お読み下さり、ありがとうございました。
Notari