夕日がとっても赤いから

短編戯曲/作・高山遥/登場人物:4人/時間:5分

【場所】
 ・公園

【人物】
 ・男      
三十代くらいのサラリーマン
 ・女      
中年。犬を散歩している。犬は本物だとノイズが大きす
         ぎるので、ぬいぐるみ等小道具として作られたものがい
         いかもしれない。
 ・男子高校生
 ・女子高校生


夕暮れ時の公園。ベンチが複数。
サラリーマン風の男が歩いてきて、ベンチに座る。荷物を残して立ち上がり、いったん舞台上から消える。カバンの中の携帯が鳴りだし、男慌てて戻ってくる。手には缶コーヒー。

男   はい、もしもし、ええ、・・・・・・・・ああ・・・・・・・・・そうですか、はい・・・・・いえいえ、すいません・・・・・はい・・・・・承知しました・・・・では、明日、お伺いさせていただきますので・・・では、はい・・・失礼します。

女、犬を連れて男の後ろを通り過ぎようとして、男が座っている隣のベンチに腰掛ける。
男イライラしたように電話を切り、缶コーヒーを開けようとするが、なかなか開けられない。

女   ほれ。
男   え。
女   (缶を開け)いい男が缶のふたも開けられなくてどうするのよ。
男   どうも・・・
女   ・・・
男   ・・・力が弱いんです。生まれつき、ほかの人より手の力が入らないんです・・・
女   あら、そうなの。
男   ・・・
   ごめんなさいね、そうとは知らないもんだから。
男   いえいえ、いいんです。
女   だめね、専業主婦って。
   え、
   見える世界が、こうどんどん狭くなってくでしょ。ずっと家のことばっかり          
    やってると。
   ああ、
   洗濯物とか、台所とか、景色が変わらないのよねえ毎日。こうして散歩でもしないと、気違いみたいになっちゃうからさあ。
男   ・・・

男子高校生現れる。
誰かを待っている様子。

女   ごめんなさい、うるさいですよね・・・
   ええ、まあ、ちょっと
女   (笑いながら)でも、初めてお見かけしたから。
   ああ
   初めてですよね。
   ええ、いつもこの辺りを
女   そうなんです。(犬を指して)この子の散歩で朝と夕方。
男   そうですか。だいぶ大人しいですね。
   ええ、昔保健所から引き取ったんです。
男   そうですか。
女   その時はまだこんなに小さくてねえ、ぜんぜんなつかなかったんです、怖がっちゃって。
   はいはい、
   こうやって散歩に行けるようになったのも、ここ一年くらいですよ。
   それは大変ですねえ。
   ええ、もうほんとに。苦労しましたあ・・・
女、軽く犬とじゃれ合う。
女   こどもがね、小さい時にずっとこの子につきっきりでね。
男   はい
   撫でようとしてみたり、ボールで遊ぼうとしたんだけどね。なかなかなつかなくてねえ。
   そうですか。
女   旦那は旦那で仕事が忙しくて、犬なんかほったらかしで。・・・あの人が連れて帰って来たのにねえ、元は。
男   ・・・

そこへ女子高生。
この男子高生と女子高生との会話の間にも男と女は犬とじゃれ合っている。

男高  あれ、他は?
女高  まだ終わってないみたい。
男高  ああ、そうなんだ・・・
女高  今日ってここでやるの?
男高  え、いや、集合はここだけど。
女高  どこでやるの。
男高  公民館。
女高  公民館?
男高  あるんだよ、西小(西小学校)の方行くと。聞いてない?
女高  うん。
男高  ええ、言っといてっていったのに。え、ここ集合なのは知ってたんだ。
女高  うん、それはユマから聞いた。
男高  ああ、うそ。
男   ん
女   ここ、ほつれてますよ。
男   え、ああ、ほんとだ。
   直しましょうか。
   いやいや、そんな、
   あ~こりゃどっかひっかけたねえ。ちょっと脱ぎなさい。
男   ええ、
   しょうがないわねえ(ポケットから針と糸を取り出す)
男   ・・・
女   (縫い始める)
男   いつも持ち歩いてるんですか。
女   (無視して)こんな上着、着たまま帰っても、奥さんあきれちゃうでしょ。もっと若いころならまだ可愛いけどさあ。
男   ・・・
   共働き?
男   いえ・・・妻は、もう・・・いません・・・
女高  遅いなあ
男高  うん
女高  もっかい見てくるね。
男高  俺、いこっか
女高  え、いいよ~あたし行く。
男高  ああ、そう・・・

女高はける。
しばし沈黙。
男高、犬の存在に気づく。
男と男高の目が合って軽く会釈する。
女も男高に気づく。たまたま目が合ってしまったことによって生まれる気まずさを回避するように、男高が話しかける。

男高  かわいいですね。
女   撫でてみる?
男高  え、ああ、

男高、撫でてみる。

   部活?
男高  あ、はい。
女   何部なの。
男高  演劇部です。
女   あ~演劇部なんだ。
男高  これから、公民館で練習するので、
女   ああそう。発声練習くらいここでやってけばいいのに。
男高  いやいや。
女   別に誰も聞いてないよ、恥ずかしいの。
男高  そういうわけじゃ、
   ははははそんなんじゃだめよおあんた、ねえ。
男   え、ああ、
   ほれ、できた。
男   すいません、
   はい、
男   ありがとうございます、ほんとに。
   いいんですよ、こんなことくらい。・・・さて、私はもう行こうかなあ。

そこへ女高。

女高  なんかユマたちまだ用事あるみたいだから、四十分まで待ってこなかったら
    先行っててって。
男高  ああ、そう
   あんた、
男   はい・・・
女   もういないんやったら(男がはめている指輪を指して)そんなもん、はずし
    て、
男   ・・・
女   さよならだけが人生だ。
   ・・・
男高  あのさ、
女高  なに。
男高  いや、ああ・・・
女高  え、
(舞台袖でユマが女高を呼ぶ声)
女高  あ、きた~、もうおそいよ~

女高舞台袖へ、男高それに続いてはける。
女も犬を連れて公園を後にする。

女   サヨナラだけが人生ならば、また来る春はなんだろう・・・誰やったかなこれ・・・

男   (指輪を外して見つめる)・・・(つぶやくように)サヨナラだけが人生ならば、また来る春はなんだろう・・・サヨナラだけが人生ならば、人生なんかいりません・・・・

男、指輪をポケットにしまい立ち去る。
溶暗。


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