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NOT A HOTELの建築デザイナーが追求する、デザイン以上に大切なこと

NOT A HOTELは、世界的な建築家やクリエイターとのコラボレーションによって多様な建築プロジェクトを手がけている。その多くが外部との協業プロジェクトであるため、「NOT A HOTELには建築デザイナーがいないのでは?」と捉える方も少なくない。 

しかし、実際にはNOT A HOTELには30名を超える建築家が在籍しており、そのうち約半分が建築デザイナーとして、主に意匠設計を手がけている。

「デザイナーにとってこれ以上ない理想的な環境であるにもかかわらず、社内にデザイナーがいないという“誤解”を抱かれている」ーーそう話すのは、デザインチームの責任者である杉山竜。

杉山は大手設計事務所で12年間、超高層ビル設計や再開発プロジェクトに携わり、その後、次なる挑戦として選んだのは、独立でも、組織系事務所でも、アトリエ系事務所でもなく、NOT A HOTELだった。

世界的なトップクリエイターたちと対等に渡り合いながら、建築デザインチームをリードする杉山にとって、NOT A HOTELの建築デザインとは何か。これまでのキャリアを振り返りつつ、その誤解を解いていく。

自分のアイデアをかたちにしたい。大手設計事務所からNOT A HOTELを選んだ理由


——まずはNOT A HOTELに入社した背景を聞かせてください。独立も視野に入れていたとか。

端的に言えば、「自分のアイデアを、よりダイレクトにかたちにしたい」という思いが強くなったことですね。大きな組織の場合、一つの意思決定にデザイナーのみならず経営陣やクライアントなど、数多くのステークホルダーが関わります。それ自体は大きなプロジェクトであるため、必要なプロセスだと僕自身も理解しています。

しかし、さまざまな人の手を通る間に、自分が当初抱いていた思いやアイデアが少しずつ変わってしまうこともありました。そのうちに、“本当にこれは自分が生み出したものだと胸を張って言えるのか?”、という違和感を無視できなくなっていって。そのもどかしさを解消できる場所を探し始めていたんです。

杉山 竜:県立大宮工業高校卒。池下設計にて現場管理従事後、CTSにてホテル、オフィスビル、大規模再開発案件の意匠設計に従事。主に自社プロジェクトの設計を担当。2023年1月NOT A HOTEL参画。一級建築士。パーマカルチャーデザイナー。

——「自分のアイデアをかたちにする」という意味では、独立の選択肢がフィットしそうですが。

まさに。建築をビジュアル化して提案することに自信があった僕にとって、一級建築士事務所を構え独立するのも魅力的な選択肢でした。先にCGパースを制作し、それに興味を持ってくれる人を探そうかなと考えていたんです。
ちょうどそんな頃に出会ったのが、NOT A HOTELでした。CGパースで販売するNOT A HOTELのプロダクトアウト思考は、まさに僕が考えていた理想に近い建築デザインのあり方だったんです。

——それで、独立でもアトリエ事務所などへの転職でもない、「第3の選択肢」としてNOT A HOTELを選んだと。

はい。この意思決定にあたって、2つのプロジェクトが決定打になりました。

一つは、NOT A HOTEL NASU(那須)のデザイン性の高さですね。入社前、一度見学に訪れた際、那須の広大な自然と一体化する美しい建築デザインのクオリティの高さに、強い衝撃を受けました。

自然豊かな栃木県那須の高原に誕生したNOT A HOTEL NASU。SUPPOSE DESIGN OFFICEが設計を手掛けた、土地をリスペクトし環境の魅力を最大限に引き出す建築

もう一つの決め手は相澤陽介さん(White Mountaineeringデザイナー)がディレクターを務めたNOT A HOTEL KITAKARUIZAWA BASE(以下、BASE)です。

このプロジェクトでは、相澤さんという素晴らしいクリエイターと協業しつつも、企画から設計・建築デザインを社内のデザインチームが中心的な役割を果たしたと聞いて。建築デザイナーが「サポート」的な立場を担うのではなく、一人のクリエイターとしてハイレベルな提案を実現できる環境だと感じたんです。

「自分のアイデアをかたちにしたい」という僕の理想を叶えるのはここしかない。そう思って、NOT A HOTELへの入社を決めました。

「NOT A HOTELには建築デザイナーがいない」という“誤解”


——外部の著名な建築家やクリエイターとのコラボレーションが話題になると、「NOT A HOTELには建築デザイナーがいないんでしょ?」という声を耳にします。

僕も同じような声をよく耳にしますが、ここまでコラボレーションをするスタートアップ企業を見たことがないので、無理はないというか。

でも、NOT  A HOTELで働く僕たちとしては、それは“誤解”だとはっきり伝えたくて。

——“誤解”ですか。

協業の際には、当然クリエイターの意思は最大限尊重しますが、“任せきり”にするようなことは決してありません。

外部のクリエイターと僕たちデザインチームが同じ方向を見ながら、時に喧喧諤々の議論を重ね、一つの建築や体験をつくっていく。その様子は「ONE TEAM」と表現するのがふさわしいかもしれません。

——実際のプロジェクトでは、外部の建築家やクリエイターとどのような役割分担を行っているのでしょうか。

建築家やクリエイターとの協働では、社内デザイナーの役割分担は大きく異なります。

建築家との協働の場合は、建築設計は建築家の方々に担っていただき、僕たちはデザインや体験の側面だけでなく、将来的な運営や維持管理を視野に入れた事業者目線を持つデザイナーとしてプロジェクトに関わります。

一方、NIGO©︎さんや相澤さんといったクリエイターとの協働では、建築設計は社内デザイナーが担い、クリエイターの方にはデザインの方向性やコンセプトについて深く関わっていただきます。

ただ、どちらの場合でも共通するのは、NOT A HOTELならではの体験を建築としてどう表現・実現するかという視点です。建築家やクリエイターが持つ独自の世界観を大切にしながら、それをNOT A HOTELの体験としてうまく組み合わせていく。そこが僕たち建築デザインチームの重要な役割だと考えています。

——どのようなチームメンバーが在籍しているのか気になります。

組織構成からお伝えすると、デザインチームには15名ほどのメンバーが在籍しています。アトリエや組織設計、ゼネコン設計などさまざまな分野の経験者、フレッシュな新卒メンバーから経験豊富な外国籍メンバーまで、多様なバックグラウンドを持つメンバーで構成されています。

この組織づくりにも、NOT A HOTELらしい思想が関係していて。NOT A HOTELが重視するのは「最高の体験を提供すること」。何を「最高の体験」と定義するかは、人や利用シーンによってさまざま。

だからこそ、建築デザインにも多様な視点が必要だと考えているんです。NOT A HOTELらしさは大切にしつつ、多様な視点の下で、その「らしさ」を築き上げていきたいんです。

30名を超える組織にまで拡大をする、NOT A HOTELの建築チーム

——実に多様ですね。外部とのコラボレーション以外に、「自社設計」のプロジェクトもあるのでしょうか。

「自社設計」には大きく2種類あります。

一つは文字通りNOT A HOTEL内部だけで完結するインハウスのプロジェクト。もう一つはクリエイターとの協業でNOT A HOTELが設計を担当するプロジェクトです。

先ほどお話ししたBASE、あるいはストリートファッションシーンの礎を築いたNIGO©︎さんをディレクターに迎えたNOT A HOTEL TOKYOも後者の一例ですね。こうした案件は年々増えていて、現在進行中のプロジェクトの半数以上は「自社設計」です。

——半数以上が「自社設計」というのは驚きです。

そうなんです。これも誤解の一つですね。

世界を股にかけて活躍するクリエイティブディレクター、NIGO©︎がディレクションするNOT A HOTEL TOKYO

最高の体験から逆算する。NOT A HOTELの建築デザインの共通項


——NOT A HOTELはどれも違うデザインにも関わらず、すべてにNOT A HOTELらしさがあるところが特徴だと思います。「NOT A HOTELたらしめるデザイン」とは何だと捉えていますか。

最大の特徴は、「自分たちが超ワクワクする体験をつくる」ことに徹底的にこだわり、追求しようとしている点だと思います。

「超ワクワク」というNOT A HOTELのバリュー(行動指針)にもある言葉ですが、あらゆる物事をプロダクトアウトで検討し、意思決定していく。それを実現するためには、常識を取り払い、一般的な建築で重視される部屋数や予算などの条件をいったん度外視して考えることも必要だと思っています。

この場所で実現できる「最高の体験」は何か。土地探しからクリエイター選定、細部のデザインに至るまで、すべてのプロセスで一貫して追求する価値観です。

土地の特長から「この土地なら、この風景を残したいね」「この土地なら、絶対にあの建築家・クリエイターとぜひ組みたいね」というような議論に自然と発展していきます。

——他に土地からクリエイター選定を行なった印象的な事例があれば、教えてください。

2024年7月に発表したNOT A HOTEL RUSUTSU(北海道)では、ノルウェーの建築事務所スノヘッタとコラボレーションをしています。スノヘッタは自然と一体になるような建築として世界的に知られている事務所で、まさにルスツという土地柄や山頂の圧倒的ロケーションが彼らの建築哲学に見事にマッチした例だと考えています。

ノルウェー設立の建築デザイン事務所 「Snøhetta(スノヘッタ)」が手掛ける「NOT A HOTEL RUSUTSU」が北海道のルスツリゾートに誕生。2025年冬販売開始予定。

例えば、スノヘッタは北欧各地で自然と調和した印象的なホテルを手がけていますが、ルスツという雄大な自然のなかで、彼らがどのような解釈でNOT A HOTELならではの体験を提案してくれるのか。

そこに僕たち建築デザインチームが関わることで、新しい価値が生まれると期待しています。このように、土地の特性とクリエイターの個性が響き合うような組み合わせを見出すことも、僕たちの重要な役割の一つです。

——実際のプロジェクトで「超ワクワク」を実感するのはどんな場面でしょうか。

どのプロジェクトでも感じますが、一つ挙げるとすれば現在進行中のNOT A HOTEL MIURA(2025年春販売予定)では特にそれを感じましたね。三浦半島にあるMIURAは、NOT A HOTELとしては珍しく、パブリックエリアを備えた「集合型別荘」を計画しています。

このエリアは世界大会も開催されるほどウインドサーフィンに適した心地よい風が吹き、高台から海を一望できる景観が魅力の土地です。東京から車で1時間、最寄り駅からも徒歩圏内、一方アクセスの良さ故に非日常感をどのように創出するか。この場所でできる最高の体験とは何か、この場所だからこそできる新しいチャレンジは何かをさまざまな観点からスタディし、デザインしてきました。

新たなチャレンジをデザインに施したNOT A HOTEL MIURA

——共用プールを囲むデザインは、ほかの拠点と比較すると特徴的ですよね。

そうなんです。実はプロジェクト開始当時、社内デザイナー達でコンペを実施して、何案もの体験デザインの方向性を模索していました。

そのなかで、僕たちが焦点を絞ったのが「プールを中心とした体験」。このアイデアに基づき、海に大きく開けた浅いビーチプール、落ち着いた優雅さが漂うインフィニティプール、全天候で楽しめる屋内のインナープールスパ、そして特定の部屋だけに存在する自分だけのプライベートプールという4種類のプールを計画しました。

NOT A HOTELらしい個性を活かしつつ、それぞれ異なる趣を持つ4つのプール体験を提供することで、多様な人々が思い思いのスタイルで楽しめる、豊かで自由な空間が生まれました。NOT A HOTEL AOSHIMAの目の前に広がるビーチのように、まるでホテルの付帯施設として自然に受け入れられる空間を目指しています。

——MIURAのプロジェクトは、NOT A HOTELにとってどのような意味を持つと考えますか。

「NOT A HOTELの領域を拡大する」可能性を持つ、と僕は捉えています。

これまでNOT A HOTELが重視してきた「超プライベート」感から、より開かれた共用空間を持つモデルへの挑戦という意味で、大きな価値があるのではないかと。これも、NOT A HOTELが「最高の体験」を追求するため、時には自分たちが大切にしてきた価値をも疑う姿勢が表れた事例だと思います。

また、MIURAはレストラン以外のエリアをほぼ自社設計で進めているという特徴もありますね。外部の建築家やクリエイターに頼らず、ゼロからつくり上げる難しさはありますが、それだけにNOT A HOTELの独自性を追求できるプロジェクトだと考え、取り組んでいます。

NOT A HOTEL MIURA

こんな場所は他にないーーNOT A HOTELで建築デザイナーとして働く醍醐味


——竜さんが考える「NOT A HOTELの建築デザイナーとして働く醍醐味」を教えてください。

いくつかあります。一つは、世界トップクラスの建築家、クリエイターと仕事をする機会が得られること。

NIGO©︎さんや相澤さんとのプロジェクトでは、建築家だけでは生み出すことのできない、クリエイティブディレクター、ファッションデザイナーならではの視点から多くのことを学ばせていただきました。また、ビャルケ・インゲルス氏が率いるBIGとのNOT A HOTEL SETOUCHIでも、世界最高峰の設計プロセスを間近で経験することができた。

瀬戸内を望む1万坪の半島ごとビャルケ・インゲルス率いるBIGがデザインするNOT A HOTEL SETOUCHI

つくるのはNOT A HOTEL、ただ一つなのに、こんなにも多くの素晴らしい建築家・クリエイターと日々仕事ができる環境は、世界中を見渡してもほぼないと思います。

そして、もう一つは圧倒的なスピードでものづくりができることです。

僕も入社して2年足らずですが、手がけるプロジェクトは10を超えました。このスピードはデザインプロセスをはじめとした意思決定が早いNOT  A HOTELならではだと思いますね。常識の数倍のスピード感かなと。

最後に一つ。デザインの手前からデザインできること、でしょうか。

——「デザインの手前」というと?

NOT A HOTELは「建築のデザイン」よりも「体験のデザイン」を重視しています。土地探しから、拠点の管理運営までオーナーシップをすべて持つわけなので、単に設計だけをしていればいいわけではありません。

建築デザイナーにとっては、この責任範囲の広さがより良い建築を生み出す原動力にもつながっていると感じます。僕も実際に購入前の土地を見に行くこともありますし、社内のシェフやソムリエと一緒に「ここでどんな体験をつくったら最高な体験ができるか?」と議論することも多い。事業者として建築をつくる、僕たちの一番の醍醐味かもしれませんね。

NOT A HOTELという選択が、「新しい建築デザイナー像」をつくる


——最後に、今後の展望について聞かせてください。

NOT A HOTELの建築チームを「世界最強の建築デザインチーム」にすることです。

とても大袈裟に聞こえるかもしれませんが、著名な建築家・クリエイターと協業するということは、NOT A HOTELのデザイナーは世界的な建築家と比較される宿命にあると思っていて。

もちろん実力も経験もまだまだだと思いますが、見劣りしない存在になることで、建築業界にも貢献していきたいですね。手がけるプロジェクトもホテルに限らず、様々な用途の建築にも挑戦していきたい。最終的には、NOT A HOTELというブランドを通じて、人々の新たな暮らしにWOW(驚き)を届けられるようなチームをつくっていきたいと考えています。

建築デザイナーという枠を超えて、事業全体をデザインする。それがNOT A HOTELという選択に込められた、「新しい建築デザイナー像」なのかもしれません。

——「新しい建築デザイナー像」、いいですね。

大手設計事務所のキャリアを経て、独立も含めて色々な可能性を考えた僕だからこそ、そう思うんです。

独立は、確かに建築デザイナーにとって魅力的な選択肢かもしれない。でも今は、それ以外にも建築デザイナーが活躍できる場所は確実に増えているんじゃないかなと。

その一つが、建築の枠を超えて「事業全体をデザイン」できる、NOT A HOTELだと思うんです。

採用情報


現在、NOT A HOTELの建築チームではデザイナーをはじめ複数ポジションで採用強化中です。カジュアル面談も受け付けておりますので、気軽にご連絡ください。

STAFF
TEXT:Aya Ajimi
EDIT/PHOTO:Ryo Saimaru

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