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アフリカの曲の歌詞がわからなくて水瓶座の時代を感じた

気づいたら夏だった。
マドリードも連日最高気温が20度台後半で、澄んだ青空から強い日差しが照りつけている。
私の夏用のプレイリストに入っているメインの曲は、アフリカの音楽だ。
すべての音楽の母であるアフリカ、きっとここよりももっと強く太陽が照っているであろうアフリカ、乾いた大地を吹き抜ける風…
そうしたものを想像しながら聞くと、私がどこにいたとしてもジリジリと肌を焼く日光や、頬を撫でる風がすべてアフリカのもののように感じられる。
そうすると不思議と、外気温が35度を超える過酷な日でもなんだか気分良く乗り切ることができるのだった。

私が特に好きなのは、コンゴ民主共和国のファリー・イプパだ。
YouTubeでは彼のMVの再生回数は軒並み2000万回を超えていて、コメント欄を見てみても、アフリカ大陸を超えて世界中で愛されているのがわかる。私もそのうちの1人だ。
ジャンルで言うと、コンゴを中心に人気のジャンル「スークース」に、彼は最近流行りのダンスミュージック風のアレンジを取り入れたりして、とにかく幅広い人気を誇っている。
だが私が最も好きなのは、彼が最初に出したアルバム「Droit Chemin」に収録されている楽曲の数々だ。
特に「Attente」は、毎年夏が来ると必ず1日に20回は聞いている。

↑この公式チャンネルの動画ではライブ用音源なのか半音低いが、とにかく聞いてみてほしい。
サビだけに興味がある方は2:00頃からだけでもお願いしたい。

この圧倒的な優しさ。サビの直前でピアノが入ってくるところなんか、聞くたびに泣きそうになって仕方がない。
今までいろいろなジャンルの音楽を聞いてきたが、今のところ、私にとって人生で一番好きな曲はこの曲である。

好きな楽曲への「好き!」という気持ちが高じると、歌詞を調べて歌えるようになってみたくなることはないだろうか?
私もこのファリー・イプパの「Attente」があまりにも好きで、歌詞を調べてみた。
しかし、丸一日かけて検索したのに、完全版の正しい歌詞を掲載したページというものをついに見つけることはできなかった。

どういうことか?
歌詞掲載サイトによって、歌詞の内容が違ったり、順番が違ったり、まるまる一節が抜けていたりする。グーグル検索でトップに出てくるサイトですらそうだ。
それでもたくさん見れば、その中でひと組ぐらいは全く同じ内容を掲載しているサイト同士が見つかるはずだが、本当に全てのサイトで掲載内容が違う。
特に問題なのが、曲の終盤でファリー・イプパが、おそらく楽曲制作にあたって協力してくれた人々の名前を歌い上げる部分だ。
たとえば上記で掲載した動画でいうと6:40頃に歌われている人名、
あるサイトでは「Max Nzongo」と、別のサイトでは「maze nzongo」、また別のサイトでは「marianix yaya」や「Mais nzongo」となっている。その前の部分もサイトによって「alphan ivoné」だったり「apo ipame」だったり…
日本でも人名の間違いは頻繁にあるが、そのレベルではない激しい表記の揺れが見られる。協力者の名前コーナーだけでなく、他の歌詞の部分についても同様だ。
一体どのサイトの内容が信用に値するのかが全くわからないじゃないか。

結局私は、何度も曲を聴きながら歌詞掲載サイトを徘徊し、すべてのサイトからそれぞれ信用できそうな部分を一節ごとにコピーし、メモ帳に貼り付けてオリジナルの「ファリー・イプパのAttente歌詞 完全版」を完成させるに至った。
なにかひとつ信用できる情報源があればそれでよかったが、そうもいかないので、自分なりに信用できそうな情報を色々なところから少しずつ集める。
作業をしながら、この行動ってすごく"水瓶座の時代"っぽいなぁ、と思った。

けれど、自分なりの完全版を作る作業が終わった後にまたゆったりとこの曲を聴きながら、「別に歌詞がきちんと定義されているかどうかなんて、どうでもいいのかもしれない」という考えも頭に浮かんだ。
アフリカの言葉で歌われている内容を一語一句アルファベットの文字列という形に落とし込もうなどといった考えが、そもそも傲慢なのかもしれない。
なんでもかんでもをすでにこの世にあるルールに当てはめることができるという考えは危険だ。
この曲でいえば、「マゼ・ンゾンゴ」だろうが「マックス・エンゾンゴ」だろうが、なんとなくそんな感じで呼ばれている人が、ファリー・イプパの楽曲制作に協力したという事実が大事なのであって、彼の名前がアルファベットでどのように表記されるのかについてはおそらく大した問題ではないのだ。
尺度は一つではないし、絶対的な尺度はない。
頭では分かっているはずだったのに、体感としてはやっぱり分かっていなかったなぁ、と少しへこみながらも、スピーカーから流れてくるファリー・イプパの歌声はやっぱり優しいのだった。


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