ポーランド映画とドラマ 社会派映画のザックリとした見どころ
バルト海に面した東欧の国ポーランド。歴史や政治をテーマにした社会派映画が多いことでも知られる国です。ポーランド映画にはどんな作品や特徴があるでしょうか。
その前に、ポーランドのザックリとした歴史をー。
第二次世界大戦の契機となったポーランド侵攻(1939年)によってポーランドはドイツとソ連によって分割。戦後はソ連の影響下で社会主義国となります。
映画界はスターリン主義の影響を強く受け自由な作品作りが妨げられるなか、ポーランド独自のユニットと呼ばれる映画製作システムが誕生。そこから抑圧が続く社会に対して痛烈なメッセージを持つ名作が生まれました。
1980年代後半、ソ連が崩壊しポーランドにも民主化運動がはじまります。そして、1989年に現国家となったポーランドです。
ポーランドを代表する映画監督
アンジェイ・ワイダ(1926年-2016年)
自身も対独レジスタンスに参加した経験を持つアンジェイ・ワイダ監督 ポーランド派の代表として祖国の歴史に根差した社会派映画を撮り続けました。
アンジェイ・ワイダ監督の代表作
『灰とダイヤモンド』(1958年)『世代』『地下水道』と合わせて抵抗三部作と呼ばれる監督初期の作品 ほか『大理石の男』(1977年)とその続編『鉄の男』(1981年)など
2016年死去 遺作は『残像』(2016年)
ロマン・ポランスキー(1933年ー )
長編第1作『水の中のナイフ』(1961年)が政府の怒りを買い、以後パリへ移住。その後ハリウッドでも活躍しますが、少女淫行のスキャンダルがもとで事実上追放となり、以後ヨーロッパで活動中です。
ロマン・ポランスキー監督の代表作
『ローズマリーの赤ちゃん』(1968年)『チャイナタウン』(1974年)『戦場のピアニスト』(2002年)など
クシシュトフ・キェシロフスキ(1941年-1996年)
社会派ドキュメンタリー監督から後年は感受性豊かな女性映画で人気を博したクシシュトフ・キェシロフスキ監督。1996年、54歳という若さでこの世を去りました。
クシシュトフ・キェシロフスキ監督の代表作
『デカローグ』(1989~90年)『ふたりのベロニカ』(1991年)『トリコロール三部作』(1991~94年)など
アグニェシカ・ホランド(1948年ー )
1981年の戒厳令を機に西側諸国に移住し映画製作。ハリウッドでも活躍する注目の女性監督です。
アグニェシカ・ホランド監督の代表作
『太陽と月に背いて』(1995年)『ソハの地下水道』(2011年)『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』(2019年)など
ポーランドの歴史を描く映画
ポーランドを舞台にした映画を歴史上の重要な出来事とともにご紹介します。
アウシュビッツ強制収容所
ナチス・ドイツによるホロコーストで最大の犠牲者を出した強制収容所。当時ドイツの占領下にあったポーランドに作られました。ここで起きた悲劇は多くの映画にも描かれています。
『ソフィーの選択』(1982年)
最大の犠牲者となったユダヤ人ではなくポーランド人女性が強いられた「ある選択」を描くことで、ホロコーストの、そして戦争の恐ろしさを描いた映画。
『シンドラーのリスト』(1993年)
ナチスによるユダヤ人虐殺から多くの命を救った人物オスカー・シンドラーを描く実話に基づいた映画。
カティンの森事件
第二次世界大戦中、ソビエト内務人民委員部(NKVD・のちのKGB)によってポーランド将校ほか1万数千人が虐殺。ソ連西部のスモレンスク近郊のカティンほか3カ所に埋められた遺体が1943年にドイツによって発見されました。が、ソ連はドイツが虐殺したとし、1990年にゴルバチョフ大統領が自国の犯行と認めるまでその事実を隠蔽し続けた事件です。
『カティンの森』(2007年)
カティンの森事件の残酷さを自身の父も犠牲となったアンジェイ・ワイダ監督が冷徹なまでに描き出す。犠牲となった少佐の帰還を信じる妻、母、娘が中心に描かれる原作小説(アンジェイ・ムラルチク著)と合わせてどうぞ。
ワルシャワ蜂起
戦局が決まりかけた1944年夏、ポーランド国内軍とレジスタンスがドイツ軍に挑んだ戦い。が、目論まれたソ連軍の援護がなくワルシャワは壊滅。20万人以上の市民が犠牲となりました。
『戦場のピアニスト』(2002年)
ロマン・ポランスキー監督
ナチスドイツ侵攻下のポーランドに実在したユダヤ人ピアニストの生涯を描く。
『地下水道』(1956年)
アンジェイ・ワイダ監督
ワルシャワ蜂起の末期、ドイツ軍に追い詰められ地下水道に逃げ込んだ人々の行き場のない状況を描く。
『ソハの地下水道』(2011年)
アニエスカ・ホランド監督
ユダヤ人を地下水道にかくまい、命を守り抜いたポーランド人の実話を題材にした映画。
ポーランド民主化運動
『ワレサ 連帯の男』(2003年)
アンジェイ・ワイダ監督
ポーランドにおける共産圏初の自主管理労組「連帯」の初代委員長レフ・ヴァウェンサ(ワレサ)の戦いを描く。
その他
『尼僧ヨアンナ』(1960年)
イェジー・カワレロウィッチ監督
17世紀中ごろフランス、ルーダンのウルスラ尼僧院で起きた集団悪魔憑き事件をポーランドに舞台を移して描く。
『ゆれる人魚』(2015年)
アグニェシュカ・スモチンスカ監督
共産主義政権下の1980年を舞台に、人魚をモチーフにした異色のファンタジーホラー。
Netflixで楽しむポーランドのドラマ
ナチス・ドイツや旧ソとの暗い歴史が影を落とすサスペンスドラマをご紹介します。見どころは、ワケありな人々とすぐ森に入り込むー、と言ったところでしょうか。
『1983』
『泥の沼』
『サインズ』
『その森に』
『ホールド・タイト』
まとめ ポーランドの映画、ドラマの見どころ
歴史や政治をテーマにした社会派映画が多いポーランド。その歴史や社会背景を踏まえておいたほうがより楽しめることと思います。
最大の難点は名前が覚えにくいこと。日本人にとっては書くのにも読むのにも苦労する独特の名前が多い。これは数を見て慣れていくしかないでしょう。
最後に私が注目の俳優をご紹介します。
ゾフィア・ヴィフワチュ
親しみやすいルックスが魅力。アンジェイワイダ監督の遺作『残像』(2016年)ほか、上記Netflixのドラマ『1983』と『泥の沼』にも出演しています。
ミハリーナ・オルシャンスカ
エキゾチックでミステリアスな魅力のミハリーナ。ポーランド映画のほかロシアでも活躍しています。
ポーランド映画は残念ながら配信作品が少なく、DVDやBDも高額なものが多いのですが、それでも見ておきたい作品が満載です。ぜひ一度お試しください。