開拓と自由と映画の都 【映画を楽しむための地理~アメリカ西部編】
「映画を楽しむための地理」アメリカ編の4回目はアメリカ西部です。
世界の映画産業の中心であるハリウッドがあるこの地域は、「西部劇」だけではなく、さまざまな名作の舞台となっています。
アメリカ西部の概要
アメリカ西部は13の州(モンタナ州・ワイオミング州・コロラド州・ニューメキシコ州・アイダホ州・ユタ州・アリゾナ州・ワシントン州・オレゴン州・ネバダ州・カリフォルニア州・アラスカ州・ハワイ州)からなる地域です。
ニューイングランドから進んだ開拓の最後の地域となったアメリカ西部は、広大な自然と多様な民族文化、そしてゴールドラッシュによって急激に発展したという特徴があります。
アメリカ西部といえば西部劇
西部劇とは、19世紀後半の西部開拓時代を舞台に、開拓者である白人と先住民であるインディアンの戦いを描いた映画の総称です。
古くから多く作られてきた西部劇は、1940~50年代に黄金期を迎えます。
しかし、勧善懲悪のストーリーやヒーローは必ず白人で描かれることが現代の価値観にそぐわなくなり、西部劇は形を変えていきます。
1960年代半ば~70年代に量産されたイタリア製作の西部劇(通称「マカロニ・ウエスタン」←こう命名したのは映画解説者の淀川長治氏です)は、無法者たちの壮絶なバイオレンスが人気を呼び、クリント・イーストウッドという偉大なダーティヒーローを生み出しました。
アメリカ西部各州のおすすめの映画
モンタナ州
モンタナ州は雄大なロッキー山脈が走るアメリカ北西部の州です。
この土地の美しい自然をたっぷり堪能できる映画といえば『リバー・ランズ・スルー・イット』(1992年)。
厳格な父に育てられた対照的な兄弟の成長を、フライフィッシングを絡めて描いています。ブラッド・ピットの人気を確立した映画としても知られています。
ワイオミング州
ワイオミング州はアメリカの中でも人口が最も少ない州です。
カウボーイ州という愛称を持つこの州を舞台にした映画『噂のモーガン夫妻』(2009年)は、ニューヨークから殺人事件の証人保護プログラムとして移り住んできたセレブ夫婦(ヒュー・グラントとサラ・ジェシカ・パーカー)のコメディです。
慣れない大自然に奮闘する2人をお楽しみください。
コロラド州
南北をロッキー山脈が貫き、州のほとんどが山岳地帯であるコロラド州。
この州を舞台にした映画といえば『シャイニング』(1980年)です。
映画史に残る有名なシーンの数々は、冬の閉ざされたホテルならでは、ですね。
もう1本ご紹介したい映画は『ブラック・クランズマン』(2018年)。
州の都市コロラド・スプリングスを舞台に、州初のアフリカ系アメリカ巡査が白人刑事とタッグを組み、白人至上主義団体KKKに潜入捜査を行うストーリー。
実話の映画化作品+エンタメとしての見どころたっぷりのおすすめ映画です。
ニューメキシコ州
ニューメキシコ州は、テキサス州やメキシコ国境と接するアメリカ南西部の州です。ヒスパニック系の人口が多く、文化にも強い影響を及ぼしています。
この地を舞台に、落ちぶれたミュージシャンの再生を描いた映画『クレイジー・ハート』(2009年)
この映画では、州都サンタフェでの出会いが大きな転機となります。
アイダホ州
アイダホ州はアメリカ北西部の山岳地域の州です。
アイダホと聞いて思い浮かべるのは「ポテト」というとおり、ジャガイモが多く栽培されている土地です。
ここを舞台にした映画と言えば、タイトルにも「アイダホ」と含まれている『マイ・プライベート・アイダホ』(1991年)ですね。
早逝のリバー・フェリックスと今やビックスターとなったキアヌ・リーヴスが共演。
男娼として生きるしかない痛みを抱えた青年が、故郷アイダホへ自分を捨てた母を探しに行くという青春映画です。
アリゾナ州・ユタ州
『駅馬車』(1939年)、『アパッチ砦』(1948年)などの西部劇の舞台になったモニュメントバレーは、アリゾナ州とユタ州の州境にあります。ジョン・フォード監督が惚れ込んだこの土地は、典型的なアメリカ西部の風景と言われています。
ですが、西部劇ではない名作も生まれています。
アリゾナ州都で州最大の都市フェニックスは、ヒッチコック監督のホラー傑作『サイコ』(1960年)の舞台となった都市です。
会社の金を持ち逃げするマリオンは、フェニックスからカリフォルニアの恋人の元に向かう途中であの「ベイツ・モーテル」に立ち寄り、あのノーマンに出会ってしまうのです。
ワシントン州
ワシントン州はアメリカ西海岸最北部の州です。
州の中心都市シアトルは、古くから貿易港や軍港として栄えてきました。
1980年代を代表する人気映画『愛と青春の旅立ち』(1982年)は、そのシアトルの海軍士官学校を舞台に愛と友情を描いた作品です。
ジョー・コッカーとジェニファー・ウォーンズの同名主題歌が流れる中、制服姿のリチャード・ギアが工場で働く彼女を迎えに行ってお姫様抱っこ、というラストは何度見ても胸キュンです。
オレゴン州
西海岸に位置するオレゴン州は、美しい景観とリベラルな気風で知られる州です。
そして、それらを象徴する映画といえばー。
4人の少年の死体探しの旅をノスタルジックに描いた映画『スタンド・バイ・ミー』(1986年)は、オレゴンの田舎町キャッスル・ロック(これは映画のための架空の地名です)の美しい景色が印象的です。
『カッコーの巣の上で』(1975年)は、1960年代のオレゴン州の精神科病院を舞台に、刑務所の労働を逃れるために精神疾患を偽装した主人公マクマーフィーが、厳しい管理体制に反旗を翻す物語です。
原作者のケン・キージーはオレゴン州に育ち、ヒッピーコミューンのリーダーとしても知られる人物です。
『サムサッカー』(2005年)もオレゴン州が舞台の映画。
指吸がやめられないADHDの少年の「自分らしく生きる姿」を描いています。
ネバダ州
ネバダ州は、かつてはゴールドラッシュに沸いた砂漠の州です。
そして、現在の州の中心地はラスベガス。カジノで有名なこの都市を舞台に、多くのカジノ映画やギャンブル絡みの犯罪映画が作られています。
豪華キャストによる犯罪ドリームチームがカジノを手玉にとる『オーシャンズシリーズ』(2001年~)、天才的な頭脳を使ってブラックジャックで荒稼ぎする『ラスベガスをぶっつぶせ』(2008年)、結婚前の花ムコが泥酔してトンデモない事態に見舞われる『ハングオーバーシリーズ』(2009年~・写真)、ニコラス・ケイジがお金も彼女も失うコメディ『ハネムーン・イン・ベガス』(1992年)、ニコラス・ケイジがアル中の男を演じてオスカーを獲ったラブストーリー『リービング・ラスベガス』(1995年)など、ホントに盛りだくさんです。
カリフォルニア州
温暖な気候、リベラルな気風、そして映画の都ハリウッドがあるカリフォルニア州。
ハリウッドはもちろん、大都市ロサンゼルスやサンフランシスコを舞台にした映画は数多くあります。とにかく数が多すぎるので、完全に私の好みでセレクトしてみました。
まずがハリウッドものから。
『バートンフィンク』(1991年)は、ハリウッドに招かれた脚本家が殺人事件に巻き込まれていく不条理劇。『へイル・シーザー』(2016年)は、赤狩り*時代のハリウッドの内幕を描いたコメディ。ともにコーエン兄弟監督作品です。
(*赤狩りとは、第二次世界大戦後の米ソ冷戦の中で起こった、共産主義者を排除しようとする思想弾圧)
異色の映画の中からは『ディザスター・アーチスト』(2017年)がおすすめ。史上最悪の映画としてカルト的人気を誇る『ザ・ルーム』の制作過程を描いた映画です。
カリフォルニア州最大の都市、ロサンゼルスからはこの3本。
同姓同名の富豪を間違えられる男デュードの自由っぷりに惚れ惚れする『ビッグ・リボウスキ』(1998年)
パーティやドラッグに溺れる青年の破滅を、その後自身も薬物で逮捕されることになるロバート・ダウニーJrが好演した『レス・ザン・ゼロ』(1987年)
1930年代のロスを舞台に事件に巻き込まれる私立探偵を演じるジャック・ニコルソンがめちゃくちゃカッコイイ『チャイナタウン』(1974年)
サンフランシスコを舞台にした映画なら『ブルージャスミン』(2013年)
ニューヨークのセレブ妻ジャスミンが、夫の逮捕、財産の没収によって異母姉妹を頼ってサンフランシスコにやってくるお話です。
州都サクラメントからは、映画『レディ・バード』(2017年)
ニューヨーク大学に進学したい女子高生レディ・バードの瑞々しい”女子あるある”が楽しめます。
カリフォルニア州らしからぬ暗い映画も紹介しておきましょう。
『ゾディアック』(2007年)はサンフランシスコベイエリア、バレーホで起きたアベック銃殺事件以後、連続殺人事件を追う捜査官や記者の長い戦いを描いた実話に基づく映画です。
最後は『告発』(1995年)です。
舞台となったのはアルカトラズ島にあった連邦刑務所。脱獄不能と言われた(脱獄劇を描いた映画『アルカトラズからの脱出』(1979年)もあります)この刑務所で行われていた虐待を告発した弁護士と囚人の絆を描いた映画です。
アラスカ州
アラスカ州は本土との間にカナダを挟む飛地のアメリカ最北端の州です。
元はロシア領だったアラスカ州は、一部が北極圏に含まれる極寒の地です。
アラスカ州を舞台にしたおすすめ映画は『フローズン・グラウンド』(2013年)です。
州最大の都市アンカレッジで実際に起きた、若い女性ばかりを狙った連続殺人事件を題材にしています。アラスカの大雪原と、ジョン・キューザック演じるシリアルキラーに心底冷やされることでしょう。
ハワイ州
太平洋に位置する8つの島と小島からなるハワイ諸島は、日系人も多く観光地としても人気です。州都ホノルルはオアフ島にあります。
そのハワイを舞台にしたおすすめ映画は『パーフェクト・ゲッタウェイ』(2009年)です。
舞台となるのはカウアイ島。火山活動によって形成された島にトレッキングにおとずれた新婚夫婦と殺人事件を描いた映画です。
ホノルルでのショッピングやビーチとは一味違うハワイがたっぷり楽しめる映画です。
まとめ
以上、映画を楽しむための地理「アメリカ西部編」でした。
地理が苦手な私もかなり勉強になりました。
みなさんもぜひ「この映画ってどこの話だっけ?」を調べてみませんか?