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【抄訳】Kaiserreich進捗状況142 アイルランドその1

原文はこちらから

アイルランドの開発はかなり進んでいる。まったく新しいコンテンツが追加され、現在はテキストやゲームバランス、デバックなどの最終段階に入っている。

リリース日は明かせないが、アイルランドはKaiserreichの次回大型アップデートで実装される。今後数週間以内に!


前説

なぜリワークをするのか? ver1.0で若干の変更はあったものの、アイルランドの政治コンテンツは、Mod全体で見てもかなり古い内容だった。政体こそ変えられるが、数種類のイベントを除いてナラティブは存在せず、極右・極左・中道のどれでもほとんど代わり映えのしないプレイ体験しかなかった。

ver1.0からアイルランドの政情は大きく変更を加え、一部の古い設定を変更した。そしてリワーク後のアイルランドは活発な複数政党制民主主義国家となり、左派から右派まで幅広い勢力に独自のコンテンツが用意されている。

ある意味で、リワーク後のアイルランドの基本設定は現行の、すなわち長年のKRから変わっていない。アイルランドはやや保守的な民主主義共和国であり、指導者はマイケル・コリンズだ。歴史的に因縁深い圧制者を隣国に抱え、そのために大きな政治的影響を受けている。

だが現在、Hoi4版KRの開発を進める中で、国際社会に漕ぎだしたばかりのアイルランド共和国について深く掘り下げれるチャンスを得た。KRのアイルランドは内外からの圧力に対処し、その歴史と立地とうまく付き合っていくことになる。

KRにおけるアイルランドの立ち位置でもっとも惹かれたポイントは、1936年の開始状況ではない。たしかにアイルランド島全土32州からなる共和国というのは、私たちの世界の1936年アイルランドとは対照的だ。当時のアイルランドは、まだコモンウェルスの加盟国だった。共和制でもなく、提督が存在した。そしてイギリスは北部6州を保有し、また複数の重要な港を管理していた。

設定と同じくらい興味深く、また個人的により魅力を感じたのは、KR世界におけるアイルランドの歴史だ。史実では1922年に独立戦争が終結し、英愛条約が締結され、その後アイルランド内戦が勃発したが、KR世界ではそうはならなかった。すなわちmod世界では、あの短期間ながらも多くの流血と決定的な分断をもたらし、その後のアイルランドに大きな影響を与えた内戦が存在しないのだ。

20世紀のアイルランド史や政治についてかじった事がある人なら分かると思うが、内戦の影響は100年以上にわたってアイルランドの政治に大きな影を落とした。そのため内戦が起きなかった世界を想像するチャンスを逃す手はなかった。

可能性は大きい。内戦中の政治家・軍人には死亡したり失脚した者が少なくない。また政党もより保守的な発展を遂げる可能性がある。実際のイデオロギーというよりも、政党の変遷という意味が近い。史実では内戦でどの陣営に付いたかで、その後の政党の方針がおおよそ決まっていた。

正直に言えば、アイルランドは小国で、大国になることは絶対にない。デザインの観点からは大きな挑戦だ。ゲーム開始時にはすべての中核州を回収し、拡張先はない。工業力もあまり高くなく、人口も少ない。

そのため開発の早い段階から、アイルランドには別の楽しみ方を用意した。具体的には他国とのユニークな相互イベントや、バラエティに富んだ政治設定だ。これによってプレイヤーに繰り返し遊んでもらえるような内容に仕上げた。このバリエーションはリワーク全体のテーマで、フレーバーイベントも政府のイデオロギーによって異なる。

前史

世界大戦中

1801年、グレート・ブリテン王国とアイルランド王国が合併してグレート・ブリテンおよびアイルランド連合王国が成立。アイルランドはイギリスの直接統治下に置かれ、独自議会も廃止され、アイルランドの経済・社会は大きく衰退した。

1914年、イギリス議会はアイルランド統治法を可決。アイルランドの自治権拡大が定められ、アイルランド議会党は長年の目標であったアイルランド自治を達成する。

しかし同年に世界体制が勃発。イギリス政府はアイルランド自治の実施を延期し、緊張が再び悪化する。

1916年、独立派のアイルランド義勇軍がドイツの小規模な支援を受けて全国規模での蜂起を計画。しかし対立や決断力不足、連絡不足などさまざまな要員が重なり、ダブリンで小グループがイギリス当局に対して武装蜂起をするにとどまる。

後にイースター蜂起と呼ばれる事件であり、決起グループはダブリン市中心街で激しい戦闘を繰り広げるが、イギリス軍によって速やかに殲滅される。

反乱の首謀者16名が軍事法廷で処刑され、これが大きな転換点となる。当初イースター蜂起はほとんど支持されていなかったが、イギリス側の厳しい対応はアイルランド世論を沸騰させ、革命を支持する声が急激に高まる

ナショナリズムの熱狂は、シン・フェインを表舞台に引き上げた。アーサー・グリフィスが創設したシン・フェインは、それまでアイルランド完全独立を支持する泡沫政党だった。

1917年、シン・フェインは3度の補欠選挙で劇的な勝利を納める。当選したシン・フェイン議員は登院拒否政策に則り、ウエストミンスター議会を欠席。

1918年、西部戦線の戦局悪化と人的資源の枯渇を受けて、イギリス政府がアイルランドに徴兵制を適応。反発から暴動が発生し、シン・フェインの新党首エイモン・デ・ヴァレラが徴兵への完全ボイコットを宣言。デ・ヴァレラは逮捕され、イギリス本土に拘禁される。

その後も徴兵への反発は高まり続け、イギリス政府は約束されていたアイルランド自治の導入を決断、ナショナリズム感情を押さえようとした。

この時、親英派(ユニオニスト)の根強いアルスター6州での自治は例外とされ、アイルランド民族主義者から強い反発を受ける。

1918年、アイルランド議会選挙が実施。シン・フェインが圧勝し、アイルランド議会党は大敗。シン・フェインはアイルランド独自の議会(ドイル・エアラン)を設立し、アイルランド政府の樹立を宣言する。

アイルランド独立戦争

第一回アイルランド議会の会合と同日、シン・フェインの武装組織アイルランド共和国軍王立アイルランド警察の巡査2名を待ち伏せして殺害。その後アイルランド、イギリスとも宣戦布告はしなかったもの、この事件が事実上アイルランド独立戦争の始まりとされる。

イギリス政府は警察力では反乱軍との戦闘は不可能と判断したが、正規軍を導入することもできなかった。軍の配備にはアイルランドでの戦時状態を布告する必要があったが、その場合かえってアイルランド共和国に正統性を与える結果になるのを危惧したのが原因だった。当時すでにドイツがアイルランドを支援しており、アイルランドが中央同盟の一員とみなされる可能性もあった。

解決策として、退役軍人からなる王立アイルランド警察の補助戦力、通称ブラック・アンド・タンズを創設。

ドイツ帝国がアイルランド支援を開始。しかし戦局を左右するほどの大規模支援は1919年までなかった。

戦争はゲリラ戦の様相を呈し、各地で小競り合いが頻発した。アイルランドは支配地域に独自の裁判制度を設ける。イギリス政府の正統性を削ぎ、同時にアイルランド側の戦闘員の訴追を防いだ(当時のイギリスは正式な戦争と見なしておらず、IRA戦闘員も戦時捕虜として扱われなかった)。

1919年12月、アイルランドで2回目の総選挙。アルスター6州は棄権し、ユニオニスト議員が当選してウエストミンスター議会に登院。翌年には北部で第二次アイルランド議会が創設され、独自の行政単位北アイルランドが誕生する。

1920年中盤、戦局は大きく変わった。ブラック・アンド・タンズは法的地位が曖昧だったのもあって、数々の残虐行為に加担。イギリスの新聞にその実態が暴露された。世界大戦終結から間もないイギリス世論は厭戦気分を募らせた。

1921年、イギリスは戦後経済の破綻に直面し、アイルランドもドイツからの援助によって武器不足問題が解消し、情勢はますます制御できなくなっていた。

イギリス政府は反乱軍に停戦を提案。7月11日、アイルランド側が受諾。

財務大臣兼IRA指揮官のマイケル・コリンズ、そしてシン・フェイン創設者のアーサー・グリフィスが派遣され、講和条約の締結交渉に臨んだ(当時デ・ヴァレラは収監されたままだった)。

1921年11月10日、英愛条約が締結。アイルランド独立戦争が終結する。条約に従い、イギリス軍はアイルランドから完全撤退。アイルランドは共和国として承認されるものの、イギリスとの外面的連合が維持され、英連邦に残留した。

また北アイルランド6州もイギリスに残留し、イギリス海軍が複数の港を管理することも認められた。

初期の共和国

アイルランド国民は条約をおおむね評価し、締結を歓迎した。しかしシン・フェイン内部では条約をめぐって意見が分かれ、特にIRAでは南北分断を拒絶する意見が続出。

反対派は離党して条約反対派シン・フェインを結成。条約に基づく現政権は非合法であるとして、議会への登院を拒否する。

1922年初頭、グリフィスが共和国憲法制定議会を招集。野党の反発がありながらも、同年2月に国民投票で正式に承認される。政体は大統領制的議院内閣制の共和国と定められ、独自に選出される大統領とプリオム・エール(Príomh Aire: 首相に相当)が行政権を担った。

5月、グリフィスは解散総選挙の実施と大統領辞任を発表。オウン・マクニールがシン・フェインの新党首兼大統領に就任し、マイケル・コリンズが首相として留任する。シン・フェイン内部ではコリンズへの反感が高まり、グリフィス同様にマクニールの裏で実権を掌握していると批判される。

カハル・ブルハエイモン・デ・ヴァレラを中心とした反コリンズ派がシン・フェインを離脱、社会保守・共和派の新党「共和国協会(Cumann an tSaorstáit)」を結成する。

ブルハは大統領選に立候補するが、結果はマクニール=コリンズ率いるシン・フェインが圧勝した。マクニール政権の中心的課題は、当時宗派間の暴力が激化していた北アイルランド問題だった。マクニール政権はベルファストのユニオニスト指導部と会談し、平和的解決に向けた取り組みを確認。しかし同時期、シン・フェインでは別の派閥が秘密裏にアルスターIRAを支援していた。

イギリス革命

1924年後半、イギリスでストライキと暴動が全国規模に拡大、その影響はアイルランドにも及んだ。

当初アイルランドの労働組合はイギリス労働者との連帯ストに突入。しかし労働組合運動の理論的指導者で穏健派のウィリアム・オブライエンの尽力により、アイルランドの主要組合はイギリス革命中もストライキの実施を控えた。積極路線の組合はストライキを決行したが、規模も小さく連携も取れていなかったため、政府によってすぐに鎮圧された。

条約反対派シン・フェインもイギリス革命の影響を受け、極右と極左に分裂する。


しかし最大の難問は北アイルランドを巡る問題だった。アイルランドでは侵攻・併合を訴える声が少なからず存在した。

北のユニオニスト政権は君主制・議会制を強く支持していたが、イギリス政府がカナダに亡命すると連絡は取りにくくなり、亡命政府からも現状維持の指令を送るだけだった。アルスター義勇軍の手で治安は維持されていたが、サンディカリストが旧イギリス領掌握のために侵攻するとの懸念は高まる一方だった。

ここでコリンズはユニオニストに接触し、共和国への編入の可能性を探る会談を提案した。当初ベルファスト政府は極めて消極的で、アイルランドでも怒りの声が多数挙がった。しかし1926年初頭、赤軍がリバプールに集結し、北アイルランド侵攻を画策しているとの噂が広まったことが決め手となり、ユニオニストは併合に同意した。


アイルランドの「再統一」の条件として、ユニオニストは多くの対価を引き出した。アイルランドはアルスター防衛の義務を負い、またアルスター特権と呼ばれる保護政策を導入した。

主な内容は6州の州議会への特別自治権の付与、大統領評議会における一定数のユニオニスト議席の提供、6州での選挙区改正の禁止、アルスター担当相の設置などが挙げられる。こうした数々の譲歩にもかかわらず、統合は遅々として進まず、ユニオニストからの激しい抵抗に直面した。

アイルランド再統一はシン・フェインの大きな成果となるはずだった。しかしイギリス崩壊とアメリカ大恐慌によって、アイルランド経済は大きな打撃を受けた。

経済不況、再統一プロセスを巡る論争、マクニール大統領の指導力不足問題などが重なって、1926年選挙ではキリスト教協会が勝利し、カハル・ブルハが大統領に就任した。


ブルハ政権の経済回復政策の中心は、従来のイギリス・アメリカ市場からドイツ市場への移行だった。アイルランドの農産物はドイツ市場でよく売れ、ドイツからの大規模投資が流入した。しかしデ・ヴァレラ首相を筆頭に、党内からは自給自足経済を支持する意見が根強く、アイルランドは中欧同盟の加盟は見送った。

しかし経済はその後も停滞し、左派への支持が増大。イギリスから支援をうけて過激派グループまで台頭しつつあった。政府派サンディカリスト政党を非合法化し、労働運動は改良主義派と革命派に分かれたが、地下に潜った過激派はその後も成長を続けた。

コリンズ政権期

経済回復のペースが遅く、アルスター特権を巡る議論がなおも白熱する1929年、ブルハは総選挙を実施するも、どの政党も過半数を獲得できなかった。

交渉の結果、シン・フェインはアルスター・ユニオニスト党の後続政党アルスター民主党閣外協力協定を結び、新政権を樹立。マイケル・コリンズが大統領、リチャード・マルケーイが首相に就任した。

コリンズは前政権の方針を転換し、ドイツとの貿易を積極的に推進。アイルランドに投資を呼び込み、中欧同盟ブロック加盟を実現した。

またコリンズはウエストミンスター・モデルからアメリカ型の強力な大統領制への移行を目指した。賛否拮抗する国民投票を繰り返し、コリンズは大統領権限の大幅な拡大を認めさせた。シン・フェインはより社会自由主義色を強めていたものの、コリンズはさっそく大統領権限を存分に発揮し、極右・極左を厳しく弾圧した。

1931年、アイルランド国家警察長官オウン・オダフィーが反コリンズの立場を強めたことで、コリンズから解任される。オダフィーは右派や反ドイツ党員を多数引き連れてシン・フェインを離党

オダフィー派は条約反対派シン・フェイン右派の残党と合流して、コーポラティズム、反アルスター特権を掲げる極右政党国民連合(Aontas Náisiúnta)を結成。

同時期、選挙で敗北したキリスト教協会はデ・ヴァレラが新党首に就任。党名もキリスト教共和党(An Saorstát Críostúil)に改名し、より保守色を強める。

1933年選挙ではこうした新党を含めた野党勢力がシン・フェインとUDPの牙城を切り崩しにかかり、部分的に成功した。シン・フェインは議席全体の46%しか獲得できなかったため単独政権を樹立できず、またしてもUDPとの閣外協力に頼らざるを得なくなった。この協力関係によってシン・フェインはますます北部特権に手出しできなくなっているが、経済は堅調で不満もひとまず沈静化しており、コリンズの政権基盤は確かなものになっている。

ゲーム開始時

1936年アイルランドの開始状況は一新され、マイケル・コリンズのポートレイトもより年齢を重ねた見た目になった。

ゲーム開始時、アイルランドを率いる与党はシン・フェインで、アルスター民主党(UDP)と閣外協力の取り決めを結んでいる。マイケル・コリンズ大統領は連続2期目に突入した。アイルランドの初期国民精神はそれぞれ独立防衛の意志、UDPと共和国全土の一筋縄ではいかない同盟関係、そしてロイヤリストが得ている有形無形の優遇について表している。

他にもアイルランド社会におけるカトリック教会の地位、ここ数年のドイツの経済的支配、それに中欧同盟加盟国を示す国民精神がある。

ブラックマンデー

次回選挙を1年後に控える中、ゲーム開始時のシン・フェインには楽観ムードが漂っているが、それも2月に吹っ飛ぶ。

アイルランドはブラックマンデーの煽りをもろに食らい、壊滅的な悪影響を受ける。アイルランドの経済モデルが崩壊すると、シン・フェインとUDPの関係に亀裂が生じ、コリンズは最後の警告を突き付けられる。アイルランド各地でも救援の声が上がる中、UDP党首バジル・ブルック北東部経済の優先的回復をコリンズに要求する

ここに「Ulster Comes First」ミニゲームがアンロックされる。コリンズは6か月以内に、UDPと世論全体を満足させるという難題に取り組まなければならない。

このミニゲームでは独自の国家方針ツリー、それにディシジョンを使って展開する。その間にもブラックマンデーの被害の全容が明らかになり、またイベントでプレイヤーにさまざまな政治派閥を紹介する。

コリンズが2つのグループのうちどちらかを満足させることができれば、再選の可能性は残る。両方を満足させることができれば、再選は約束されたようなものだ。しかしミニゲームを成功させるためには、UDPか世論のどちらかを完全に満足させないといけない。もしもバランスを取った末にどちらのグループも満足させることができなければ、シン・フェインの選挙での見通しはまったく暗いものになるだろう

マッハ号事件

ブラックマンデーからしばらくすると、政府にさらなる試練が降りかかる。1936年8月、アイルランドの軍艦マッハとイギリスの潜水艦テティスの衝突事故が発生する。乗組員は全員無事だったが、大きな禍根を残す。事故はアイルランドの領海内で起きたのだ。この一件はただちにドイツ帝国の目にも留まり、ドイツはイギリスを非難する。ここに3つの国々を巻き込んで、アイルランドの脆弱な孤立はますます危うくなる。

マッハ号事件によって、リワークの目玉とも言える新たなディシジョン「Gateway to the Atlantic」が始まる。ドイツ帝国とイギリス連合、そしてその間に立つアイルランドが三つ巴の外交戦を繰り広げる。

ディシジョンのアンロックから18か月、アイルランドはドイツとイギリスの干渉政策の間でなんとか均衡を保とうと試みる。ドイツとイギリスは、お互いにアイルランドの政治・経済・軍事が敵の手に渡るのを阻止するのが目標となる。

発展途上の小国アイルランドにとって、大国からの支援には計り知れない価値がある。しかし外国からの干渉は注意深く対処する必要がある。さもなければ気づいた時には手遅れになってしまう。

このディシジョンではドイツとイギリスそれぞれの影響力を中心に展開し、さまざまな手段で増減させることができる。ドイツとイギリスは一時的なデバフと引き換えに、アイルランドでの影響力を増大させるディシジョンを押すことができる。またディシジョンには政治力が必要だが、他のイベントや国家方針でも影響力を増やすことができる。

アイルランドでも、マッハ号事件で新しい国家方針ツリーがアンロックされ、この対立の間にさまざまなボーナスを得ることができる。

ドイツとイギリスの影響力が一定数を超えるか、それぞれの影響力に一定以上の差が出ると、強力な国家方針を取得できるが、どちらかの影響力が大きく偏るリスクが存在する。

対立の行方については後に話すとして、時間を巻き戻そう。

1937年選挙

もちろん、コリンズが憂慮すべき事柄は他にもある。シン・フェインはこれまで体制転覆の芽を厳しく潰してきたが、それでもアイルランドは民主主義国家であり、1937年選挙も予定通り行われる。

選挙キャンペーンは1936年11月に本格化し、議会で繰り広げられる討論に、複数のディシジョンやミッションを通じて、各党の選挙戦が展開される。

選挙中、プレイヤーは与党シン・フェインの視点からゲームを操作するが、選挙全体では6つの政党が出馬している。なかでもキリスト教共和党と労働党は、次期政権与党の有力候補だ。

「Ulster Comes First」ミニゲームの結末によっては、コリンズはブラックマンデー後の失態を理由に、党内からのプレッシャーにさらされる。選挙中、プレイヤーはコリンズを引きずりおろし、首相のリチャード・マルケーイを党首に据えることができる。そうなった場合は、選挙でシン・フェインが勝利するとマルケーイが国家元首になる。あるいはコリンズが自らの正しさを証明し、過去の失態を帳消しにして改めて勝利を納める道もある。

選挙ではシン・フェインの他にも、キリスト教共和党と労働党が勝利する可能性があり、3党とも選挙が終わると独自の国家方針ツリーがアンロックされる。シン・フェインが続投した場合、UDPとの閣外協力を継続し、キリスト教重視、工業化推進、過激派への抑圧政策を続ける。

コリンズとマルケーイの政見はほとんど同じだが、それぞれに独自の分岐ツリーが用意され、アプローチの違いが表現されている。

政権与党の二番手がエイモン・デ・ヴァレラ率いるキリスト教共和党だ。

デ・ヴァレラは大統領の座を長年狙ってきた。イギリス軍から釈放された後、独立戦争時代にはシン・フェインの党首だった。独立直後に国の方向性や主導権をめぐる対立で離党し、それ以来コリンズをライバル視してきた。キリスト教共和党の政策は社会保守主義に分類される。社会面ではシン・フェインよりも右派に属するが、経済では左派で、カトリック教会の社会教説が唱える福祉理論に大きな影響を受けている。

しかしキリスト教共和党は選挙に勝利できても単独過半数は得ることはできず、連立を組む必要に迫られる。最有力候補は実業界系の全国発展党だ。元シン・フェイン所属のジーン・リーマスが率いる政党で、近年導入された規制制度をめぐってシン・フェインから離脱した一派が母体となっている。リーマスたちは他の勢力と合流して新党を結成。イギリス系アイルランド人を始めとする富裕層、実業家の利益を代表している。しかしリーマス自身もかつては革命に参加した人物であり、共和主義を強く信奉している。

デ・ヴァレラは連立政権を実現するため、リーマスと条件について交渉する必要がある。基本的には成功するが、あまり多くの譲歩をしてしまうと、今度は他の民族主義・保守勢力との折衝が困難になってしまい……その後については別の機会に話そう。

しかしコリンズが「Ulster Comes First」ミニゲームでUDPと国民全体を怒らせる大失敗を犯した場合のみ、極右の民族主義・コーポラティズム政党の国民連合(AN)が連立候補として浮上する。

他のルートでは、ANは反民主主義的姿勢や民兵組織との関係が取りざだされることもあって、デ・ヴァレラにとって連立パートナー候補には数えられない。しかしコリンズがブラックマンデー直後の対応で大きくつまずくと、ANは勢力を急激に伸ばし、状況は一変する。

かつてプロテスタント差別反対を理由にシン・フェインを放逐されたAN党首オイン・オダフィーがデ・ヴァレラ政権の首相に就任し、ANの登院派が政権に参加。キリスト教共和党の穏健保護主義政策に独自の民族主義・コーポラティズム的要素を加えていく。

キリスト教共和党も独自の政治ツリーを持ち、共通ルートと連立パートナーに応じた分岐ルートが用意されている。

外国権益を極力排除しようとするANの独自性を協調するため、与党にANが参加した場合は「Gateway to the Atlantic」のNFツリーで独自の分岐ルートが解禁される。ここでは外国の干渉から利益を得るのではなく、国内に注力し、外国の影響力を下げるディシジョンがアンロックされる。こちらのNFも、影響力が一定数以下で選択できる。

ANは別の方法でも政権を握ることができるが、それも後述する。

政権与党候補のなかで、勝利する可能性が一番低いのが労働党だ。

アイルランド政治における永遠の第三極で、党首ウィリアム・オブライエンの長期体制の下、サンディカリスムとの指摘を回避しながら慎重な党運営を続けてきた。老練な穏健派のオブライエンは、かつてサンディカリストとの関与を疑われた党員を追放。この一件をきっかけに少数の若手急進派層が抗議の意を込めて離党し、進歩労働党を結成した。

労働党は農村主体のアイルランドで数少ない都市部の労働者を地盤としている。もしも政権を樹立するのであれば、連立パートナー候補は間違いなく「農地の子たち」ことクラン・ナ・ターラン(CnaT:Clann na Talmhan)になるだろう。小規模農家の代表する小規模政党で、地方の労働者階級の利益となる政策を提唱しており、都市労働者を重視する労働党と共通点がある。議席獲得のため、労働党政権には必ずCnaTが参加するが、彼らだけでは政権獲得には足りない。さらなるパートナーが必要だ。

最有力候補が全国発展党だ。彼らとの「玉虫色の連立」が形成された場合、アイルランドは妥協的な近代化改革を重ね、シン・フェイン時代からの脱却を図る。資本家に近しい全国発展党は、すでに穏健社会民主主義政党と化した労働党をさらに中和すると期待されており、社会主義的すぎる政策が導入されるのではないかとの懸念を解消するのに大いに役立つだろう。

他にもより議論を呼ぶ選択肢として、平和主義・理想主義的な進歩労働党と遺恨を忘れて手を組み、左派大連立を形成する手もある。労働党が常日頃から訴えている反サンディカリスム姿勢をうまく利用すれば、この難しい連立をまとめ上げ、保守派の既得権益層を打破することができるかもしれない。目指す目標は妥協なき真の改革、ひいては民主的社会主義の漸進的達成だ。

しかし、政権発足直後から進歩労働党の提案を節操もなく取り入れると、大連立の夢も水の泡と化してしまう。国内の保守勢力はその政策があまりにも過激すぎると考えており、新しい左翼政府に予想通りの結果をもたらすだろう……この先について、また別の機会に。

キリスト教共和党同様、労働党も独自の政治ツリーと、連立パートナーごとの分岐ルートが用意されている。

ダブリン進軍

このように1937年選挙の結果によって6通りの民主政権が誕生する。しかしその後の展開はもう少し複雑だ。キリスト教共和党なら全国発展党に譲歩しすぎた場合、労働党なら進歩労働党の急進的で妥協のない政策を採用した場合、民主制府は長くはもたないだろう

ここで登場するのが先ほども紹介した国民連合(AN)だ。その母体はシン・フェインから離党した2つのグループにさかのぼる。1つ目が英愛条約反対派グループで、北アイルランドとの分裂やイギリス連邦への残留に反対してシン・フェインから離党した一派だ。2つ目がオイン・オダフィー率いる反アルスター特権派だ。

アルスター特権とはUDPとアイルランド政府が交わした取り決めで、北アイルランドの共和国参加と引き換えに現地カトリック系住民の権利を犠牲にしており、議論を読んでいる。

ANは一枚岩の組織ではなく、思想の異なる複数の派閥を抱えている。しかし独自の民兵組織国民衛兵隊、通称「青シャツ隊」が支持を失い不安定した民選政府を無血クーデターが転覆させた場合、エオイン・オダフィーが指導者となり、AN内でもさらに過激なガロイト・オ・クイネガンが首相に就任する。

新体制の当面の課題は反体制派の一掃であり、専用の国家方針ツリーが解禁される。また民主ルート同様に、ANは「Gateway to the Atlantic」ディシジョンにも対処する必要がある。その際はキリスト教共和党との連立時と同じNFツリーがアンロックされる。

また党内で独自の内部対立にも対処する必要があるが、それは2回目の進捗報告に譲ろう……

アルスター危機

選挙とその後のイベントが終わると、政権はブラックマンデーからの完全回復一定の期間内に実現するよう期待される。回復には各党の政治ツリーを使い、それぞれ独自の方法がある。しかしさらなる困難が待ち受けている。

今度の火種は北アイルランドでの対立悪化だ。ブラックマンデー以降、北アイルランドではロイヤリスト中心の地方議会による、カトリック系住民への差別が明るみに出る。カトリック系住民らは近隣住民との平等な待遇を求めて声を挙げるようになり、北アイルランドでは民族・宗派対立が激化し、やがて暴動にまで発展する。

暴動はますます激化する中、ダブリン政府の対応は後手後手に回る。アイルランド共和国軍(若干の親ドイツ感情を有しているが、基本的に政治には関与しない)は事態の推移を注意深く見守っており、より政治思想の強い将校は、政府と国家の完全崩壊を防ぐために介入を検討している。

アルスター危機の展開は政権によって違うが、最終的な結末は「Gateway to the Atlantic」ディシジョンの結果によって決まる。ドイツとイギリスもアイルランド政府の不安定化に注目しており、事態の推移を見つめている。そしてこのディシジョンの勝者が決まるのは、このタイミングとなる。

混乱の収束

終了時にドイツかイギリスの影響力ポイントが相手のポイントを15点上回ると、「Gateway to the Atlantic」ディシジョンの勝者となる。そうでない場合は、アイルランドが無傷でアルスター危機を乗り切ったということになる。

ドイツが勝利した場合、事態のさらなる悪化を防ぐためにIRAを支援し、IRAが不安定化した政府を転覆させる。アイルランドはドイツ帝国の傀儡国となり、ドイツの手で新政権が誕生する。この選択肢はドイツにあり、転覆された政権に応じて4つの主要政党のうちどれかを与党に据える。アイルランドは傀儡となるが、その後政治・経済・軍事力でプレゼンスを示せば、帝国協定の独立加盟国になることもできる。ドイツ傀儡ルートのNFツリーではアイルランドとドイツの新たな関係構築と、最終的な独立回復についてのNFが用意されているが、基本的には独立維持ルートと基本的に同じだ。

イギリスが勝利した場合も軍はクーデターに乗り出すが、その結末は大きく異なる。イギリス連合は多大な支援を投じ、今度は社会主義勢力の蜂起によって軍が転覆され、アイルランドに社会主義政権が誕生する。外国からの支援ありきで誕生した、ほとんど国民から支持されていない状態のため、新政権はイギリス連合の傀儡国としてスタートする。しかしドイツ勝利ルート同様、国民に成果を示すことができれば、その後に第三インターナショナルの独立加盟国になることができる。政権の内情は前政権与党などいくつかの要素によって決まるが、それは次回の進捗状況で詳しく解説する。

最後に、アイルランドがドイツとイギリスの勢力争いを乗り切った場合、政府は存続し、アイルランドは独立状態を維持する。ドイツとイギリスはアイルランドが相手陣営の手に渡るのを防ぐという主目的を達成したと判断するため、両国はディシジョンで投資した政治力に応じて追加の政治力を獲得する。

アイルランド政府はひとまずの平和を勝ち取る。独自の外交政策を選ぶ余地も生まれ、陣営加盟ディシジョンがアンロックされる。もっとも可能性が高いのは中立維持だが、帝国協定や協商に加盟する選択肢もある。AIが操作している場合は与党によって選択肢の確率が変わるが、プレイヤー操作の場合は自由に選択できる。

民主政府はアルスター危機を平和的に解決し、ロイヤリストとナショナリストの双方に警鐘を鳴らす。両派はアイルランドの政治的独立が危機にさらされている事実を実感し、国家存続のために新たな和解を結ぶ重要性を確認し合う。ここで新しい政治ツリーがアンロックされ、新憲法起草につながるイベントが始まり、国内平和の実現に向けた長期的解決の道を模索する。最終的にアルスター特権のデバフは取り除かれるが、こちらも詳細は次回に譲ろう。


次回は極右・極左ルートとそのNF、民主ルートの後半コンテンツ、そして経済・軍事ツリーなどを紹介する。

最後にブラックマンデー対応ツリー、(今回紹介したルートの)政治ツリーGateway to the Atlanticツリー、外交ツリーの全体図をお見せする。ではまた次回!

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