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【短歌・自選百首】幻猿図鑑

むかしむかしあるところにはあるという愛を探した柴刈りでした

世界一美しい猿も水辺にてわれは猿だと思うだろうか

海獣の骨格だけが知っているかつて入江であった日のこと

パーで勝つ。パイン、パインと歩みよる。ち、よ、こ、れ、い、と、を、ぼくにください

翼よ、とリンドバーグになり切って指差す名無き街や街の灯

カテーテルつながれた駅 地下鉄も持病抱えて走り続ける

【取り急ぎ】【至急】【緊急】わくらばが深く沈んだフォルダの湖底

もう春の息吹が薫るトンネルを夢見心地でくぐってみせた

「ストレスをやわらげるGABA」……わたし向け 伊勢丹地下のショコラ……あなたへ

野分立ちえのころ草を薙ぎ倒す元気ない日の仔犬のしっぽ

ホチキスの針の数だけささくれた無駄な努力の最期を看取る

家内制手工業からあぶれ出ることばの切れで編んだおまもり

じゃあ逆に聞くよ光っていくのならひとりの日々でもいいの 叱って

隣席はゼクシィの話題とどまらず無言で胡椒挽くステーキ屋

獏の仔の離乳食にはちょうどいい甘くたるんだ夢を差し出す

かつかつとかに道楽のかに 川のない新宿でも呼吸をしたい

頻出度①に臆さず列記してゆけば詩になる人名地名

”Needless to say,they’re…….”そう、今じゃ「ニート」ってあまり聞かなくなった

ブルータス、お前もかって苦笑して買う二冊目のカフェ特集号

コピー機がすねているから修正の指示で陰気になみだがにじむ

コメットが駆け抜けるには狭すぎる白点病まみれの金魚鉢

おまじないひとつも覚えられないで定型文をはむはむと食む

「そよぐ」って、いくさ、の漢字当てるんだ、しなやかにあらがえますように

庚申にさるなしをもぎ一人去る 見ざる聞かざる言わざるおきて

お祈りをしたりされたり似たようなものだろここじゃぼくらけむりだ

「ディズニーが好き」ってプロフ その「好き」の濃淡で虹 むせかえる虹

屈折し歪んでくれなかったなら届かないひかりにある救い

となり合うために電車でなくバスで行く 約十五分後ので行く

風年度 目配せすれば体言で止められていくひとひらの愚痴

休息は時にからだを追い抜かす 遠いようです(声)駆けますね

虫のような愛し方だったから虫のように部屋から放ってあげた

縮こまり凍えているか遠すぎて見えない北極天のきりん座

詳しくはwebで いや webじゃなくてもいいけど それで いかがでしょうか

愛?無礼。タートルネック越しに見よ。役に立たない定期購読

夕焼けが公共性を飲み込んで右や左や向かいに居ます

引っ込んでしまう真冬の星々を虫干ししたらちょうどいい夜

都営バスひとり降りればアナウンス広告の断末魔がひびく

若い日の日本国民顔をしたぼくが貼り付いたままの旅券

つかれてるので肉食べていいですか(だれの許可取らなくてもいいよ)

ペーパーと言い出せなくて五時間のパックで走る産業道路

愛だとか夢だとかすり潰してさ なうまん象の虫歯に詰める

お台場も海 舞浜も海 いつも凪いでいるよね、ジオラマのうみ

評価。さぁ、生々しさが生えてゆく。三次会なら排水溝で。

ジャケットを羽織るあいつは酔い方も折り目正しいビアフェスティバル

東京の人も行くんだブックオフ東京をどこと思ってたんだ

寝転んで眉なぞり合う人たちを沖で見守る犬の犬かき

睡魔 キス魔 通り魔 みんな中毒者 魔はいつだってまっすぐに差す

ひととせを試す冬にはより強く陰日向踏む履き慣れた靴

千成の芭蕉 フェイジョア カカオ豆 もぎ取れずともこころはゆたか

影遊びブチハイエナもしましまの光のしじまくぐり装う

友達をやめると言って友達をやめる ところにより降る豪雨

避雷針付き発電機は問う、稲よ妻と呼ぶのかあのいかづちを

おやすみを積分したら導けた曲線たちが囲むやさしさ

Aボタン連打、連打で死んじゃったみたいな味の それは味なの

ぼくたちのメールはいつも本題が括弧に綴じられていて(会いたさ)

昼補佐と夜補佐が張り合っていて輪番だったはずの日だった

力なくきみやわたしを待っている閉館前のいきいきプラザ

アラサーってなんすか何サークルですか 歩き回るよ遠回りでも

羚羊のなみだ西日に燃えていてわれも反芻する所在なさ

七対もあるおっぱいのひと房が豚チチカブとして焼ける音

途中下車繰り返すたび足あとが増え伝説のポケモンになる

淡泊なわたしらしさの証明よ G(グアニン)・A(アデニン)・C(シトシン)・T(チミン)

デザイナー人魚ベイビー八百年先で起こしておくれ 《オヤスミ》

夕闇にオハヨウと言う鸚鵡たち移動動物園は今日まで

低気圧落ちてゆくならいつまでも雨の匂いのコンドミニアム

修飾語まみれでうなるおんおんおん御社のためのあなたでしたか

ぼんやりと生きちゃいねーよ 恋は故意 だいじょばなくても揺蕩う踊り

致命的にショートパンツが似合わないまま歩いてた 羽を拾った

こぼれ出す水溶性のさみしさをそっと配膳する飼育員

県境歩いてまたぐ 笑み それであなたを過ぎるのがこわかった

冗談で買った「エッチがしたくなる飴」の賞味期限だ 雨だ

すれ違うから燃えるのか 噛み合わぬ吻で接吻する鰐夫妻

たましいをさわりあいっこ(これはなに?)(こどく)(こんなに固いんですね?)

美化委員だったあなたが濾過装置洗う音、音、音、音、音、音……

にんべんをあてがわれても動くこと 細胞のはたらき 息 鼓動

宇宙まるく象もまるいと詩にうたうたびにまあるくこころは満ちて

しらんけど しらんの しらん しらんのん ひかりに匂うデンドロビウム

滅茶苦茶にしないで触れたくない過去もめっちゃさわれるタッチプールで

たましいをさわりあいっこ(そこはどこ?)(こころ)(ことばはとどくでしょうか?)

あと戻りできない道を行くでしょう変な進化をした鳥みたく

ごっこでもプロレスならば真剣に膝は痛むし買おうよマット

橙 それははじけるひかり はつなつのしずく 繊細でいてもいいよね

あの頃のきみがbotになり今日もつぶやいている人魚の歌だ

だいじょうぶ 半分こした大根の半分の煮物をほおばれば

猿山に同化している小屋(小屋?)の木目をずっと数えてる猿 

あけぼのに打ち上がる探索機からひかりが届く春ですように

セブンティーンアイスを舐めて青春と呼ぶには遅い温度と湿度

よいおともだちでいましょう ストールを巻いて鰓呼吸をひた隠す

相模湾大水槽でしゃがみ込みハタを見る眼が澄んでいたこと

ことばにはしない無数のさよならがついばんでゆく想い出ばかり

いつまでも追いかけているふさふさのひかりけもののかたちのひかり

喜望峰狒狒はひねもすのたりとのいつかのはなし いそがないでよ

羽衣の衣替えでもしませんか 梅雨は無縁の浄土でしたか

かけらさえもうみだ「だいじなもの入れ」の 外貨 軽石 シーグラス など

得手不得手あるものたちのゆびさきに渦巻いているちいさな銀河

きらきらが氾濫したらぷらたなす並木にもじき霜降りますね

うみの底照らすプリズム赤黄色緑群青オリーブの日々

日を日々と呼ぶときひとは振り返り余生ではなく余白を生きる

港湾 バス 減速しつつあるのぞみ レールは曲がる遠くゆっくり

ここでありほかのどこでもない場所へここでもドアを開けていくのか