【園館訪問ルポ】バンドウイルカのラボとナホトカ号事故の記憶――越前松島水族館(福井県坂井市)
北陸地方を代表する温泉街、芦原温泉や、絶景が広がる東尋坊からほど近い越前松島水族館。
この水族館で活躍しているのは、バンドウイルカのジェミニ(父)とラボ(子)の親子です。
「柱状節理」と呼ばれる、独特の地形に囲まれた中でのイルカショーは、開放的でテンポよく、多くの人を魅了しています。
しかし、華やかなショーの背景には、この海が乗り越えてきた苦難の歴史が横たわっていました。
水族館からほど近い海浜自然公園の一角に、石碑が建てられています。1997年1月、ロシア船籍のタンカー、ナホトカ号が日本海で遭難。大量の重油が流出したのです。
水族館の海獣プールにも重油が混入し、他の水族館へイルカたちを移送しなければならなくなりました。
当時、バンドウイルカのラボは生後6ヵ月。幼いイルカの移送は世界にも例がなく、きわめて困難な取り組みでした。移送先の須磨海浜水族園をはじめ、多くの人のサポートがあって成功した「疎開」でした。
同時に地域の人々やボランティアが中心となり、汚染された海岸の清掃・環境回復や、海洋生物の保護活動も行われました。
同館は、いのちを繋いで元気に暮らしているラボのエピソードを通じ、海洋保護の大切さを訴え続けています。
単なるアトラクションでなく、深刻な話を暗いトーンのまま伝えるのでもなく。
「楽しさ」と「学び」が融合した「エデュテイメント」の場が、確かにそこにはありました。
イルカたちの爽やかな姿を見ながら海風に吹かれ、目の前に広がる景色を守り続けるため自分たちに出来ることはないだろうか、と自問させられる訪問でした。