【園館等訪問ルポ】きときとかがやく、光は観えるか?――ほたるいかミュージアム/滑川漁港(富山県滑川市)
富山県滑川市をはじめとする富山湾岸地域は、毎年春になるとホタルイカが集まり青白い光に包まれることで知られています。国の特別天然記念物「ホタルイカ群遊海面」です。
ホタルイカ漁が古くから盛んに行われ観光船も運行されているこの街に、「ほたるいかミュージアム」はあります。
鉄道の駅からも歩けますが、道の駅「ウェーブパークなめりかわ」に併設されているので、足を運ぶ際は車が便利かも知れません。
ほたるいかミュージアムでは、富山湾の深海から海上にかけて一生の中で誘導するホタルイカの生活環や発光の仕組みが解説されています。内容はぜひ現地で確認して頂きたいのですが、ビデオによる解説も行われており、そこではより詳しくホタルイカの生態を学べます。
生体のホタルイカです。季節によってはタッチプールで触れることができます。写真は深夜のミュージアムを特別に見学させて頂いた時のものです(※後述します)。
みんな大好きダイオウグソクムシ。ほたるいかミュージアムはいわゆる「水族館」に比べると種数は少ないですが、ホタルイカ以外の水生生物、魚類も展示されています。一部の甲殻類等はホタルイカ同様に触れます。タッチプールの水は海洋深層水で、キンキンに冷えていました。
「食べないでくださーい!」「食べるよ!」某アニメを彷彿とさせる小芝居を一瞬妄想しました。漁獲されたホタルイカは併設のレストラン「光彩」で食べられます。旬の春に訪問すればしっかり身の詰まった大きなイカを楽しめます。
特に力が入っていると感じたのは地域の文化史の中におけるホタルイカの在り様を概観した展示でした。富山湾のホタルイカは「特別天然記念物」ですが、指定されているのはホタルイカが群遊する「海面」です。
水産資源としての利用を厳格に制限するものではありませんが、ホタルイカをはじめとする独特の海洋生態系を育む富山湾の環境を特別に守らなくてはならないという、ある意味で「種」単独の保全よりも広範な意味での環境保全のメッセージとも読み解けます。
水産資源であると同時に観光資源でもあり、その上地域の海洋環境全体を保全するシンボルとして保全の象徴とされるホタルイカ。生物種の「受容のされ方」の多面性が見えてきます。
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最初のミュージアム訪問から1年近く経った後、「ほたるいか海上観光」への参加を申し込みましたが、当日悪天候で巡航は中止となりました。自然が相手なので致し方ありません。
その代わり、乗船料を払い戻して頂いた後、普段なら入れない深夜27時のほたるいかミュージアムを案内して頂きました。館内が暗い状態だったので、タッチプールでもホタルイカが光る様子がちゃんと観察出来ました。
ミュージアムでの発光体験の後、ほど近い滑川漁港へ。暴風雪によって観光船は出航できなくとも、漁船は険しい環境の海に出て漁を行い、無事に帰港しようとしていました。
水揚げされたほたるいか、醢のような見た目ですが、鮮度は抜群です。この港をはじめとする富山湾岸で漁獲されたホタルイカが加工され、全国各地へ流通しています。
ミュージアムで学べる生態だけではなく、実際の水揚げの様子を見ながら、地域の環境を象徴する種はヒトの営為とも切り離せない関係にあるという実感が湧きました。生物多様性保全は、地域に固有の遺産として残る、生活文化の多様性を保全するということでもあるのだ、と。
富山県の方言に、新鮮で活きがいいことを表す「きときと」ということばがあります。海面にゆらゆらと揺れる青白い光を観ることはかなわなかったけれど、雪と風で凍てついた夜明け前に眼前に広がった、水揚げされたばかりの「きときと」のかがやきに、「いのち」と「文化」が溶けあった光景を垣間見ました。
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そういえばこの漁港でも、アオサギ先輩が漁船に寄り添ってワンチャンスを狙っていました。ヒトの営みあるところ、ほんとどこにでも出没するなぁ、先輩。
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ちなみに私はホタルイカ料理では黒作りが好きです。お酒のアテにも最高ですし、寿司でもたまりません。富山湾で採れて鮮度抜群のまま調理されたネタの寿司はいいぞ、ということを、やや蛇足ながら文末に書き添えておきます。