【園館訪問ルポ】ノスタルヂアに惑わされるな(中編)――須坂市動物園(長野県須坂市)/高岡古城公園動物園(富山県高岡市)
帰ってくるな。私たちを忘れろ。手紙も書くな。ノスタルジーに惑わされるな。……自分のすることを愛せ。――「ニュー・シネマ・パラダイス」
「ノスタルヂア」と現代的な課題との相克に直面している動物園は、前編で紹介した宇都宮動物園や池田動物園のような「民営動物園」に限りません。
信州は須坂市、紅葉の名所である「臥竜公園」に位置する須坂市動物園は、1962年開園と、長い歴史を持つ園のひとつです。
入園者数の低迷にも一時苦しんだ同園は、民放の有名バラエティ番組にも取り上げられたアカカンガルー「ハッチ」の人気により、一躍全国にその名を轟かせました。「須坂市動物園名誉園長『ハッチ』」と刻印された彼の慰霊碑は真新しく、とても立派です。
あるときは、サンドバックに抱きついたりけったりのキックボクサー。またあるときは、ねころがっておなかをポリポリ・・・のおやじカンガルー。カメラ目線でポーズを決めて、とても人なつこくて、ファミリーおもい。多くの人をいやし、元気をあたえ、楽しませてくれた ハッチ。ありがとう。
しかし一方で、園の片隅ではリアルな数字を挙げて具体的に園のこれまでのあゆみとこれからの展望が示されていたのでした。
低迷していた入園者数が「ハッチ効果」によって飛躍的に増加したものの、その後以前よりは高い水準ながらゆるやかな減少傾向で推移していることが過去55年間のグラフからは読み取れました。
そしてグラフの横には、「広報すざか」平成28年5月号から「公共施設等総合管理計画」に関する記事の抜粋が掲示されていました。
①「新しくつくる」から「賢くつかう」へ
②「市民負担の少ない施設」としての有効活用
③身の丈に合った、管理し続けられる施設への更新
今後の予定 話し合いの場をつくり、市民の皆さんの意見をお聞きしながら、全体方針を踏まえた施設の個別計画をつくっていきます。
掲げられたこれらの文言が示すように、地域の少子高齢化が進展する中で、動物園に限らず公共施設は「身の丈に合った」運営を常に求められるようになっています。「動物福祉の実現のために相応しい施設を造ろう」という理念と、こうした自治体経営のフィロソフィーは時として反目し合います。
須坂市ではその後定められた臥竜公園の個別計画により「計画期間(~2025年度)内での施設廃止は行わない」ことが明言されていますが、地方公共団体、特に中小規模の自治体が設置している動物園においてはもはや「一時的な話題作り」による集客だけではなく、将来にわたる持続可能性も含めた「公共施設としての動物園」の在り方が問われていると言えそうです。
設置自治体の描く将来像の中で在り方への問いかけが現在進行形で提起されているのは、須坂だけではありませんでした。
富山県高岡市の高岡古城公園動物園は無料で開放されている動物園であり、愛らしい手作りパネルのユニークさでも知られています。1951年に開園し、現在の場所には1960年から設置されています。
しかしながら、高岡市では「構造的な歳出超過」に対応するために財政健全化の取り組みが進められています。動物園も、公共施設の再編の文脈で将来の姿が模索されています。
「公共施設再編計画」の中で将来的には「高岡城跡保存活用計画に基づき廃止又は移転を検討」とされている動物園。ただし、2019年2月の産経新聞報道の時点では、当面は維持される方針が示されています。
高岡古城公園動物園に限らず、姫路城下からの移転が検討されている姫路市立動物園のように、「お城の動物園」自体が改修の困難さに苦慮し、時代の流れの中で変わろうとしています。
高岡古城公園動物園は将来的には移転させる方針だが、当面は現状のまま維持する方向という。
動物園の「ウチ」の環境だけではなく「ソト」の環境も変わりゆくなかで、「癒し」や「憩い」、「ふれあい」といった従来どおりのキーワードだけでどこまで「納得」を勝ち取れるか、ひとつひとつの施設が難しい対応を迫られているのかも知れません。
後編では、前編・中編で取り上げた話題が総合的な形で立ち現れ、問い直されている園を紹介するとともに、動物園という場所に色濃く横たわる「ノスタルヂア」と私たちの向き合い方について個人的に抱いている想いを述べたいと思います。