【 #さるのうた ・解題】原猿図鑑(前編)
おらんうーたんになりたい。です。今年、 #さるのうた のハッシュタグを付けて断続的に詩歌の創作に取り組んできました。当初は霊長類フリーマガジン「【EN】ZINE(エンジン)」のいち企画として始めていましたが、この「原猿図鑑」と題した記事では、これまでつくってきたうち自分の中で気に入っているうたをいくつか取り上げ、うたの背景を付して再掲してみたいと思います。
いちばんになれないなりに居てもいい場所を探して隣に座る
「さるのうた」をつくり始めた最初期のうた。東武動物公園で暮らす雄のマントヒヒ「スリー」と「フォー」という、明確にモデルがいるうたです。多くの霊長類の群れは順位付けが明確で、「スリー」と「フォー」も弱い雄たちであることが見てとれたのですが、彼らなりにお互いをいたわりあって暮らしている姿を見て、このうたを思い付きました。
牽牛に引かれたひかり時をかけ幼き日々の夜市を照らす
プラネタリウムを訪れた日につくったうた。この日学芸員の方が夏の星空について解説をして下さっていて、牽牛星(アルタイル)から届く光は17光年離れているということを初めて知りました。幼い頃、夏まつりの帰りに田舎道から見る夏の夜空が好きだったのですが、解説を聞きながら星の光も過去と現在をつないでいるんだということに気付かされて、なんだか嬉しくなれた気がします。
ホチキスの針の数だけささくれた無駄な努力の最期を看取る
忙殺されてすさんでいた時期は主題も内容も荒々しくなります。ホチキス止めして準備したたくさんの書類をばらばらにして(せざるを得なくて)、シュレッダーに流し込んでいったときの気持ちを閉じ込めています。それでも、うたに変換できるだけ元気があった時期とも言えます。うたをつくることでその時期の調子やこころの動きを振り返りセルフチェックできるのは、新鮮な発見でした。
獏の仔の離乳食にはちょうどいい甘ったれてる夢を差し出す
甲府にある動物園へバクの赤ちゃんを見に行ったあとで思いついたうた。現実のバクは夢を食べないけれど、食べてほしい夢、それなりに色々あります。地に足を付けたいですし、年相応にもなりたいです。
こぼれ出す水溶性のさみしさをそっと配膳する飼育員
「水溶性のさみしさ」とは何なのか、どんな動物が「水溶性のさみしさ」を口にするのか、飼育員は何を感じて「そっと配膳」しているのか、余白が多いうたですが、個人的にはとても気に入っています。ひとり分の食事を自分で用意することがいつにもなく多い一年でした。食事には日々の彩度が色濃く反映されるような気がして、これからも主題にしていきたいと思っています。
あけぼのに打ち上がる探索機からひかりが届く春ですように
「ひかり」ということばに私は今年強く惹かれていたようです。世相が暗い中で、「ひかり」を待ち望んでいたように思います。あまのじゃくなので「はやぶさ2」の冒険譚にも無頓着なまま過ごしていましたが、探索機が帰還するように、明るい知らせが世の中に満ち溢れることを願いながら日々を忍んでいます。
他にもいくつか気に入ったうたがあるので、「後編」でもう少しだけ選出してみます。