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【園館等訪問ルポ】文庫に栞をはさむように――横浜市立金沢自然公園「ののはな館」/金沢動物園「なかよしトンネル」「ロッキーマウンテン」(神奈川県横浜市)

■ いのちという名の書をひらく


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  京急金沢文庫駅前。一際目立つキリン柄のポールが建てられた停留所にしばらくたたずむと、金沢動物園行きのバスがやってきます。


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    週末なら自然公園の中まで走ってくれるので、可愛いデザインのバスに乗るとよいでしょう。駅から10分ほどで今回の訪問先、金沢動物園の「夏山口」側入園ゲートまでたどりつきます。


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「夏山口」側の入園ゲート前には、動物たちのオブジェが坂道に沿って並んでいます。ひときわ印象的なのは、本を開いているキリンの像。キリンの足元の本からは、園内で命をつむぐ動物たちのシルエットが飛び出してきているように見えます。


 動物園に足を踏み入れるとは「いのちという名の本を開く」ことだと改めて強く意識させられます。

動物をボーッとではなくきちんと見て驚くというのは、(中略)動物園や水族館をあたかも図書館のように利用するというお話に通じます。図書館はお昼寝をするところではありません。置いてある本を開きましょう。



■ ののはな館


    ここですぐに動物園へ入園してもよいのですが、まず入園ゲートとは反対側に出て「ののはな館」へ先に立ち寄ってみることにしましょう。グッズストアやカフェレストランと、資料館・図書館が一体になった、この自然公園の「憩いと知」が集まる中心施設です。


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   新型感染症対策で2階は利用できなくなっていましたが、1階の図書館部分には入ることができました。


  ここでは全国の動物園・水族館・博物館の機関誌が読めるほか、絶版になってしまった書籍も含め、動物や動物園に関する資料がみっちりと集まっています。

    動物園に併設されている図書館としては、関東地方でも指折りの施設ではないかと感じられます。

     棚に並んだ本のうち、「シートン動物記」が目に留まりました。小学生の頃に読んだことがある気もするけれど、改めて向き合うのは久しぶりかも知れません。

   キーパーさんが付けたものでしょうか、「動物園にもいるオオツノヒツジが登場する物語です!」というポップに惹かれて、「峰の大将クラッグ」を手に取ってみます。




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     角と蹄を持つ生きものの殿堂として数々の栄光に飾られてきた金沢動物園。

     口蹄疫の防疫などの事情によりあらたな動物を導入することが難しくなっていることもあり、飼育種数は減少傾向にありますが、「ビッグホーン」とも呼ばれ、シンボルマークに掲げられているオオツノヒツジは、いまも園を代表する飼育動物であり続けています。


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  シートンが描いたオオツノヒツジの物語も記憶にとどめながら、「ののはな館」を出て「なかよしトンネル」をくぐりましょう。



■ なかよしトンネル


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    夏山口から入園した人は動物たちと会う前に必ず通る「なかよしトンネル」。エバーグリーンな世界観の中で、様々ないのちたちの姿をかたどった人形が並んでいます。「まるでイッツ・ア・スモール・ワールド」みたい!と、誰かが歓声を上げていました。



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  動物たちと出会う前の入口にあたる場所に、童心に還ることができるモニュメンタルな場所がささやかながら設けられていることは、この動物園を大きく特徴づけていると感じます。


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動物園は広い自然公園から独立して存在しているのではなく、トンネルによって「植物区」とつながり、一体の園になっているのだということ。そしてそれは、自然界の「共生」の仕組みと相似形を成しているのだということ。


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    「なかよしトンネル」には動物園とソトの世界とを分かつのではなく、つなぐ道という役割が与えられていました。


■ ロッキーマウンテン


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  なかよしトンネルを出て左手の道をしばらく行き、メタセコイアの並木を抜けると、大きなトーテムポールが現れます。横浜市の姉妹都市であるカナダ・バンクーバーから寄贈されたトーテムポール「シーアイア」は、「友人」を象徴しています。先ほど通り抜けてきた「なかよしトンネル」のテーマ、「共生」とも響きあうモチーフです。


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      トーテムポールの先には、青々と茂る草原、そして険しく切り立った岩山が姿を見せています。ここがオオツノヒツジたちの暮らす放飼場、通称「ロッキーマウンテン」です。


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    元々ここには3種の角を持つ動物が、北アメリカ大陸の3つの異なる環境を象徴して暮らしていました。草原を駆け抜けるプロングホーン。険しい崖を登るオオツノヒツジ。そして標高の高い山岳に生きるシロイワヤギ


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(「ブッチ」の訃報を伝える掲示物と、まだ屋外に出ていた頃の「ペンケ」。2017〜2018年にかけ撮影)


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    国内最後のひとりだったプロングホーン「ブッチ」は2017年に死亡。同じく国内最後のひとりであるシロイワヤギ「ペンケ」は2020年6月現在存命ですが、とうに平均寿命を超えた高齢のため、直接会うことはかないません。


※2020.08.13 シロイワヤギの「ペンケ」さんは、2020年8月10日に死亡したことが報道発表されました。19歳は国内で飼育されたシロイワヤギの最高齢記録、そして彼女が死亡したことで日本国内のすべての動物園でシロイワヤギを観ることは出来なくなりました。



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   展示される種が少なくなれば、動物園の魅力は失われてしまうものなのか。プロングホーンとシロイワヤギの不在は、そんな問いを突きつけているように思えました。しかし、久々の訪問となった「ロッキーマウンテン」に目を向けていると、新しい可能性の萌芽を見出すことが出来たのです。



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   元々プロングホーンが暮らしていた草地の放飼場に、牝とコドモの群れが暮らしています。これまでの「ロッキーマウンテン」ではけわしい崖の上で暮らす姿ばかりが目立ってきましたが、野生下のオオツノヒツジが暮らす環境にも多様性があります。



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  大学との共同研究により、行動の変化がカメラで記録されています。研究が明らかにしたのは、草地の個体の方がより野生のオオツノヒツジに近い暮らしぶりをしていた、ということでした。

    これまでは見えてこなかった、こうした比較ができるようになったことも、放飼場の選択肢がもたらした新たな価値でした。



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    「ロッキーマウンテン」のハイライトは、険しい崖の上に張り出したデッキから頂上にいる上位牡と向き合った瞬間にあると言ってよいでしょう。


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     6月の緑を背景に、彼の巨大な角はうつくしく湾曲しながら弧を描いています。



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    先ほどの「ののはな館」で触れたシートンのまなざし――雄大な風景を一望する「峰の大将」の環世界――を、追体験出来た気がしました。





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   帰る時も「なかよしトンネル」を通っていきます。園内で見つけた更なる「ふしぎ」があれば、時間がゆるす限り再び「ののはな館」で調べてもよいでしょう。


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  あれも見たい、これも見たい、と駆け回るのも動物園の楽しみ方のひとつの形ですが、ゆっくり、じっくりと反芻するように時間をかけていのちと向き合ってみることの大切さをこの園は教えてくれるような気がしています。


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"あの日のキミ わすれられないよ
おなじ大地の
おなじ空のしたに立ってたんだ
図鑑の中 テレビでも
スマホでも ないのさ"  
  ――京都大学野生動物センター

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  文庫本のお気に入りのページに栞を挟んで、何度も何度も読み返すように。

    物語や図鑑を読んでイメージを広げることと、同じ空のした、同じ太陽のもとで現実に生きているいのちと向き合うこととのあいだを往復することで、「生きているということ」に対する理解は深まっていくはずです。


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