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ノスタルジア6 -3人と1人と1台-

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ノスタルジア13


昼過ぎ。宿屋の前。
呆然と立ち尽くすチャーリィ。

チャーリィ「嘘でしょ…」

宿屋の隣に駐車してあったはずの車が見当たらない。
チャーリィの背後からぞろぞろと出てくるルーとウエストたち。
ルーの左腕には長いロープ巻き付けられていて、ロープの先はワイヤーが持っている。ルーは顔を俯せたまま、ウエストの後に続く。

ウエスト「!」

ウエストが車が無いことに気がつく。チャーリィを押しのけ、
車を駐車していた場所へと飛び出る。

ウエスト「おい!車はどうしたんだよ!」

ウエストの声に顔を上げるルー。ワイヤーはルーの隣で目を
しばたたかせている。ウエストはチャーリィの方へと顔を向ける。

ウエスト「鍵はどうした?」

チャーリィに詰め寄るウエスト。

ウエスト「付けっぱなにしてたのか?!」

顔をしかめるチャーリィ。

チャーリィ「そんなわけないじゃない!」

チャーリィはズボンのポケットから鍵を取り出しウエストの鼻先に
鍵を押しつける。目を瞬かせるウエスト。呆気にとられたように鍵を
眺めていたが、すぐに気をとりなおし、車が置いてあった場所へと
移動する。
ウエストはしゃがみ込み、まじまじと眺めながら地面に手を伸ばす。
地面には砂利が広がっているだけで何の後も残っていない。
ウエストは立ち上がり、市場の方へ体を向ける。

ウエスト「無理やり引きずって行ったのか?」

独り言のようにウエストが呟く。

ウエスト「おい、ワイヤー!」

ウエストは突然勢いよく振り返り、ワイヤーを見る。

ウエスト「さっき外に出た時には、まだ車はあったんだよな?」

突然の問いかけに、一瞬呆気にとられたワイヤーだが。
すぐに気をとりなおす。

ワイヤー「あ、うん」

ワイヤーの声にルーは顔を上げる。

ワイヤー「1時間ぐらい前にはあったんだな」
ウエスト「そうか…」

腕を組みウエストは考え込むが、すぐに顔を上げ、腕を解く。

ウエスト「よし、車を探しに行くぞ」

ウエストの声に顔をしかめるチャーリィ。

チャーリィ「ええ、探すって…」

チャーリィのポケットに視線を向けるウエスト。
つられてチャーリィも自分のポケットを見る。

ウエスト「鍵は俺たちが持ってるんだ。だったら無理やり引きずって
持って行ったんだろ。あんなものを引きずったまま町の外には行ったとは
考えづらいし、この辺りのジャンク屋にでも売られたのかも知れねえ」

そう言って、ウエストは市場の方へと足を進める。

チャーリィ「そうかも知れないけど…」

チャーリィはウエストの目の前へと回りこむ。立ちはだかるチャーリィに、ウエストは勢いよく前のめりになり、まくしたてる。

ウエスト「いいか!遠くに運ぶのは無理だが解体して部品を売れば
金になる、バラバラにされちまう前に見つけないと!」

呆気にとられるチャーリィ。ウエストとチャーリィの背後には
きょとんとした様子のワイヤーとルー。ウエストは少しバツが悪そうに
頭をかき、それから振り返ってワイヤーを見る。

ウエスト「…そういうわけだから、俺たちは市場の方を見てくる」
ワイヤー「あ、うん」
ウエスト「ワイヤー、お前はこのあたりを探してくれ」
ワイヤー「わかったんだな」

ウエストはワイヤーの返事を確認すると、市場の方へと歩き始める。
チャーリィは少しだけ不満そうに顔をしかめ、それから大きくため息をついたのち、ウエストの後に続く。

***

市場へ向かうウエストとチャーリィの姿を見送るワイヤー。隣にはルー。
ルーは気まずさからなんとなく視線を彷徨わせる。
ふと大きな茂みがルーの目に止まる。

ワイヤー「よし、僕たちも探しに行んだな!」

二人の姿が見えなくなったことを確認し、意気込んだような
声を上げるワイヤー。しかし、ルーは全く反応しない。

ワイヤー「ルー?」

ワイヤーはルーに視線を向ける。そこには興味津々といった様子で
茂みをじっと凝視するルー。

ワイヤー「どうしたの、ルー」

少し心配そうな声で尋ねるワイヤー。
返事をすることなく、ルーは黙って吸い込まれるように茂みの方へと
足を進める。

ワイヤー「あ、ちょっと」

ワイヤーはルーの左腕へとつながったロープを慌てて掴み直し、
ルーの後へと続く。茂みの前でしゃがみこむルー。

ワイヤー「何かあったんだな?」

ワイヤーは困惑した様子でルー背後から茂みを覗き込む。
茂みの根元を指差すルー。

ルー「これ」

ワイヤーは一瞬キョトンとするが、すぐに気を取り直してルーの隣に
しゃがみ、それから茂みに鼻先を近づける。
ルーが指差した先のが茂みの根元の地面には独特の模様の跡。
ワイヤーは模様の上にある葉っぱを手で避けてみる。
地べたが露わになり、その上にはくっきりとした跡。
そしてそれは茂みの奥へと続いてる。


***


市場。露天が立ち並び、沢山の人達が行き交っている。

チャーリィ「まったく、こんなの探すどころじゃないじゃない」

チャーリィはすし詰め状態の人ごみをかき分けながら進む。

チャーリィ「ちょ、ちょっと!」

突然、背後から押されバランスを崩すチャーリィ。
たくさんの人たちに次々とぶつかられ、あっという間に
人ごみから押し出され、建物と建物の間へと転がる。

チャーリィ「何なのよ、この町は!」

チャーリィはヒステリックな声をあげ、そして、ふと前を見る。
目の前にはボロボロの布を身にまとった汚らしい老人。
老人は小さなシートを敷き、細い裏路地の真ん中に座り込んでいる。
シートの上には機械のパーツのようなものが無造作に並べられている。

チャーリィ「あー…」

チャーリィは少し言い淀みながら、その老人に尋ねる。

チャーリィ「えっと、これは売り物かしら?」

老人はうずくまったまま返事をしない。
チャーリィバツが悪そうに顔をしかめながらも話を続ける。

チャーリィ「他にも機械はお持ちじゃないかしら? 例えば車とか…」
老人「車ァ?」

突然、老人がドスの効いた声で返事をする。

老人「あるように見えるのか?」

顔を引きつらせるチャーリィ。

老人「買うのか、買わねえのか」

老人の厳しい声。

チャーリィ「あ、えっと、ごめんなさいね」

チャーリィは冷や汗をかきながら苦笑いを浮かべ、慌ててその場から離れようとするが、立ち去ろうとふり返ったその時、誰かと勢いよくぶつかる。
衝撃で尻もちをつくチャーリィ。

チャーリィ「いったあ…」

チャーリィは腰をさすりながら目を開く。目の前には衝撃でポケットから
地面へとこぼれ落ちた車の鍵。チャーリィは地面に腰をつけたままの
体制で、鍵を拾おうと手を伸ばす。しかし、大きな手がチャーリィよりも
早く鍵をひっつかむ。

チャーリィ「えっ?」

驚いて顔を上げるチャーリィ。
目の前にはボロボロのフードを深くかぶった人物。フードの人物は
鍵を拾うと、そのまま走り去る。チャーリィはぽかんとその様子を
眺めていたが、すぐに顔を真っ青にさせる。

チャーリィ「嘘でしょ」


***


露天の前。
ウエストは露天の店主と話し込んでいる。背後では大量の人々が
行き交っており、時折、通行人に背中を押されよろめくウエスト。
ウエストは、店主と別れ、また人ごみの中を歩きはじめる。

ウエスト「くそっ、探すどころじゃねえな」

うんざりした様子で呟くウエスト。
突然、背後で人々がざわめき始める。ウエストはふり返ろうと
足を止めるが、確認する間もなく疾走するフードの男に突きとばされる。

ウエスト「いってえ」

ウエストはよろめき、とっさに近くにいた人の服ををつかむ。
周りには、ウエストと同じく突き飛ばされた人たちが尻餅をついている。

ウエスト「なんだあ?」

通行人達を突きとばしながら走り去っていくフードの人物。
ウエストは唖然とてその様子を眺める。突然、服を掴んでいる手を
つつかれるウエスト。顔を向けると女性はウエスト迷惑そうな視線を
送っている。

ウエスト「あ、すみません」

ウエストが慌てて手を離したのと同時に、背後から声がかかる。

チャーリィ「ウエストー!!」
ウエスト「…チャーリィ?」

ウエストは振り返る。

ウエスト「そいつよ!追って!!」

チェーリィが必死の形相で、フードの男が空けた道を走る。

ウエスト「はあ?」

ウエストは少し圧倒されながらも訝しげに返事をする。

チャーリィ「カギ!!」

顔をしかめるウエスト。

チャーリィ「車のカギ!盗られたのよ!あいつに!」

チャーリィはフードの人物の方を指差しながら、息も絶え絶えに叫ぶ。
ウエストは呆気にとられていたが、すぐに飛び上がり、
フードの人物が走り去った方へと顔を向ける。

ウエスト「なにィ!?」

フードの人物はすでに遠く、強引に割られた人ごみだけが見える。

ウエスト「クソッ!」

ウエスト慌てて走りだす。


***


人ごみに揉まれながらも何とか前へ進むウエストとチャーリィ。
二人の少し先にはフードの人物が人ごみを押し進んでいる。
フードの人物は路地裏へと飛び込む。後に続くウエストとチャーリィ。
入り組んだ裏路地を右へ左へと曲がるフードの人物。
フードの人物は、地面にゴミ箱やバケツなどを器用に避けながら走る。
地面に落ちているゴミを蹴飛ばしながら走るウエストとチャーリィ。
フードの人物は路地裏走りながらゴミ箱をウエストたちの方へと倒す。
ゴミ箱を飛び越えるウエスト。

チャーリィ「いったあ!」

ゴミ箱のどこかに足をぶつけ、悲鳴をあげるチャーリィ。

ウエスト「おい、おいてくぞ!」

そう言ってウエストは振り返ることなく先へと進む。

フードの人物を追って、建物と建物の間から飛び出るウエスト。
そこはウエストたちが宿泊していた宿屋の前。
ウエストはあたりを見渡すがフードの人物は見当たらない。

ウエスト「くっそお、どこへ行ったんだ?」

一歩遅れて裏路地から出てくるチャーリィ。

チャーリィ「あ、あいつは…?」

ぜいぜいと息を切らせながら、チャーリィは前かがみになる。

ウエスト「わからん」

ウエストは左右を確認する。

ウエスト「まだ遠くには行ってないだろうから、二手に分かれて…」

突然、地響きが起こる。
チャーリィは顔をあげ、あたりを見回す。

ウエスト「なんだあ…?」
チャーリィ「な、なにこの音…」

困惑した声をあげるウエストとチャーリィ。
徐々に近づくエンジンの音。

ウエスト「おい、まさか…!」

顔を引きつらせるウエストとチャーリィ。
巨大な茂みからから車が飛び出す。
二人は慌てて、頭を庇うように腕を回し、左右へ分かれて転がる。


***


ワイヤー「あ、ウエスト!」

ワイヤーののんびりした声が響く。

チャーリィ「それにチャーリィも!」

ウエストとチャーリィは飛び起き、車を見上げる。
車の運転先にはワイヤー、助手席にはルーが座っている。
ルーの腕に巻きつけられていたロープがなくなっている。

ワイヤー「遅かったねー。待ちくたびれちゃったよ」

ワイヤーはそう言って、後部座席が二人に見えるように体をづらす。
後部座席には腕を縛りつけられたボロボロのフードを纏った男が
転がっている。あんぐりと口をあけるウエストとチャーリィ。

ウエスト「どうしたんだよ、その車…!」

ウエストは飛び起き、ワイヤーへと近づく。
ワイヤーは得意げに鼻を鳴らす。

ワイヤー「驚かないでね」

もったいぶった様子のワイヤー。ウエストとチャーリィは顔を見合わせる。

ワイヤー「ルーが車を見つけたんだ!」

ぽかんとした様子でルーを見つめるウエスト。
ルーはウエストの視線に縮こまる。
ウエストは、まっすぐルーに向かう。目を強く閉じ、小さくなるルー。

ウエスト「やるじゃねえか!」

ルーは驚いて目を見開く。ウエストバシバシとルー背中を叩く。
続いてチャーリィが勢いよくルーに飛びつく。慌てて避けるウエスト。

チャーリィ「よくやったわ!!」

呆気とられるルー。チャーリィはルーの様子に気を止めることなく、
帽子をガシガシと撫でる。ルーはぽかんとした様子で放心していたが、
しばらくしてから少し頬を染める。


***


車に大量の荷物を車に押し込むウエストとワイヤー。二人の背後でその様子を眺めるルー。
車の背後では黒いフードの男が木に縛り付けられ、目を回している。

ウエスト「よーし、こんなもんだな」

ウエストは荷物を軽くたたく。運転席から様子をうかがうチャーリィ。

チャーリィ「そろそろ出発するわよー」
ウエスト「わかってる」

ウエスト助手席へ向かう。

ルー「あの…」

ルーが背後からウエストに声をかける。

ウエスト「あん?」

振り返るウエスト。

ルー「…」

ルーは黙りこんでしまうが、
その視線はウエストのヒップバッグに注がれている。

ウエスト「ああ」

ウエストはルーの様子に眉をひそめていたが、すぐに合点が行く。

ウエスト「オルゴールなら、後でちゃんと修理するから心配すんな」

ウエストはルーの帽子に1度、軽く手を乗せ、それから助手席へ向かう。
ウエストを見上げるルー。

ワイヤー「ルーはこっちなんだなー!」

ワイヤーの声が響く。後部座席で、隣の席をポンポンと叩くワイヤー。
ルーは車へと走る。ドアを開け車へと乗り込み、それから
力を込めて扉を閉める。バタンという音が響き、そして車が発進する。
ルーは少し体を乗り出し、周りの風景を眺める。風を受け、
ルーの前髪がほんの少しだけなびく。


***


広がる荒野。
ところどころに木々が生えている。ルーは顔をあげ、空を見上げる。
青空に太陽が照っている。眩しさに目を細めるルー。
ルーはしばらく風景を眺めていたが、やがてまっすぐに座りなおす。
ルーの隣でお菓子の袋を開けているワイヤー。

ワイヤー「ルーも食べる?」

ワイヤーは袋からクッキーを取り出し、ルーに差し出す。

ルー「ありがとう」

ルーはワイヤーからクッキーを受け取り、それから興味深げに眺める。

チャーリィ「ちょっと!ちゃんと残しといてよ!」

運転席からチャーリィの声が飛ぶ。

ワイヤー「わかってるー」

のんびりとした声で返事をするワイヤー。

チャーリィ「まったく」

鼻を鳴らすチャーリィ。
ウエストは助手席でヒップバッグからオルゴールを取りだし、
そしてオルゴールをあらゆる角度で眺める。

ウエスト「おーい、そっちのリュックに工具入れが入ってねえか?」

後部座席の方へ振り返るウエスト。

ワイヤー「んー?」

ワイヤーはクッキーを片手に口をもごもごさせながら返事をする。

ワイヤー「ねえ、ルー」

ワイヤーはトランクに積んであるリュックを指差す。

ワイヤー「ここから工具箱を出して、ウエストに渡してほしいんだな」

ルーはクッキーをポシェットに入れ、トランクへ体を向ける。
それからリュックのチャックを引き、その中から箱を引っ張り上げる。

ルー「これ?」
ワイヤー「そう!それなんだな!」

ルーは少しだけ前かがみになってウエストに渡す。

ウエスト「どうも」

工具箱を受け取ったウエストは体を前に戻し、オルゴールを触り始める。
ルーはウエストの様子を前かがみのまま眺めていたが、
やがてシートに深く座り、ポシェットからクッキーを取り出す。
クッキーをかじり、そしてまた風景を眺め始めるルー。
オルゴールを触るウエストをチャーリィが横目で見る。

チャーリィ「そういえば、アイツ一体何だったのかしらね?」
ウエスト「ん?」
チャーリィ「ほら、あの車を盗もうとてした浮浪者みたいなやつよ」
ウエスト「ンなもん、ただの物盗りか何かだろ。貧乏くさい町だったし、
あそこじゃ車一台でもありゃ、一生暮らせるんじゃねえか?」
チャーリィ「ふーん? ま、次からはもっと気をつけないとね」


***



荒れた村。
先ほどまで、ルーたちが滞在していた場所。
タイヤの跡がくっきりと残った地面の上で、ボロボロのフードの男が
ロープで縛られた状態で転がっている。ロープを解こうと、
地面で体をくねらせる男。

男「くそお!!」

悔しげに呻く男。男にもがく男の懐から筒状に巻かれた紙がこぼれ落ちる。
少しシワついているが、紙自体は真新しい。筒状の内側から乱暴にメモされた文字が少しだけ覗き見える。
紙には、ウエスト、チャーリィとワイヤーの3人の外見的特徴や、
車や少年といったメモが大雑把に書かれている。

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