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ノスタルジア8 -街にて-

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ノスタルジア13


街から少し離れた荒野。車を押すウエストとワイヤーとチャーリィ。
動かなくなった車の後部座席に座るルー。
ルーは車の後部座席から落ち着かない様子で3人を見ている。

ウエスト「くっそー、後少しだってところで…」

ぜいぜいと息を切らせながら車を押すワイヤー。

ワイヤー「ウ、ウエスト、や、やっぱり、車、買い換え、ようよ…」
ウエスト「だから、今回の報酬で買い替えるつってんだろ」
チャーリィ「どうせ、またやっすい、すぐ壊れるやつ買うんでしょ」
ウエスト「金が無いんだから、仕方ないだろ…」

ルーは前のめりになる。

ルー「あの、僕も…」
ワイヤー「大丈夫、ルーは、そこで、ゆっくり、してていいんだな」
ルー「…」

表情を曇らせて俯くルー。
ウエストは車を押しながらルーを盗み見る。息を吐くウエスト。

ウエスト「おい、ルー!」

ウエストは乱暴な口調で声をあげる。ルーは顔を上げる。

ウエスト「お前も降りて手伝え」
ルー「…!」

ルーは破顔し、それから勢いよく車から降りる。
ウエストに非難がましい目を向けるチャーリィ。

チャーリィ「こんな小さな子に手伝わせるなんて」
ウエスト「うるせえ」

ルーはワイヤーの隣にまわり、
3人と同じように車体に手をつけ車を押し始める。


***


ルー達が車を運んでいた荒野の近くにある街。
街はそこそこ栄えており活気ある。石造の民家がたくさん立ち並び、
表通りは、行き交う人々や露天で賑わっている。
裏路地で汗だくになりながら、壁にもたれかかるワイヤーとルー。

ワイヤー「あー疲れた」

ワイヤーはパタパタと手で顔を仰ぐ。
街角からチャーリィが現れる。チャーリィが手には革製の水筒。

チャーリィ「水、もらってきたわよ」

ワイヤーはチャーリィから水筒を受け取り、ルーに水筒を差し出す。

ワイヤー「ルー、先に飲んでいいんだな」
ルー「ありがとう」

ワイヤーから水筒を受け取るルー。
ルーは水を飲むと水筒をワイヤーに手渡し、そして大きく息を吐く。
辺りを見渡すルー。ルーの背後で水を掻き込むように
水を飲むチャーリィとワイヤー。
ふと、近くの壁がルーの目に止まる。

ルー「あっ」

ルーは小さく呟く。壁にはウエストとチャーリィとワイヤーの3人が
大雑把に描かれている手配書が貼られている。

ワイヤー「どうかしたんだな?」
ルー「あれ…」

ルーが壁に貼られた手配書を指差す。
水を飲むのを止め、手配書に顔を近づけるチャーリィとワイヤー。

兵士「いたぞー!!」

突然、背後から声が響き渡る。振り返る3人。
そこには3人を指差す一人の軍服の男。メインクーンの兵士。
ぽかんとした様子で軍服の男を眺める3人。そうこうしているうちに、
街角から続々と兵士が現れる。
顔を大きく引きつらせるチャーリィとワイヤー。


***


街中。機械の部品を売っている店のすぐ近くに
ウエストたちの車が停まっている。
台車に乗って車の下に滑り込み、作業をしているウエスト。
ウエストは車の下から出てきて、それから車に乗り、そして鍵を回す。

ウエスト「おっ」

エンジンがかかり動き出す車。

ウエスト「こいつもまだまだ行けそうだな」

ウエストは車体を軽く叩く。

ワイヤー「ウエストー!!」

背後から声が聞こえてくる。振り返るウエスト。
背後には車の方へ向かってきているチャーリィとワイヤー。
ワイヤーはルーを脇に抱えながら必死の形相で走っている。
チャーリーはワイヤーよりも先に車へとたどり着つき、
助手席へと乗り込む。一歩遅れてワイヤーも車に着く。まずはルーを乗せ、それから扉を開けて車に乗る。

チャーリィ「車!車ー!!」

助手席で、ウエストに向かって叫ぶチャーリィ。
ワイヤーは後部座席では息切れし、座り込んでいる。
ルーはトランクにあるリュックからハンカチを取り出し、ワイヤーに渡す。

ウエスト「はあ?何があったんだよ」

眉をひそめるウエスト。チャーリィはウエストの様子にイライラしながら、拳を握り、腕を上下に振らす。

チャーリィ「早く車を出して!」

より一層大きな声でチャーリィが叫ぶのと、ほぼ同時に地響きが起こる。
振り返るウエストとチャーリィ。

ウエスト「な、なんだあ?」

困惑した声をあげるウエスト。チャーリィは顔を引きつらせる。
街を歩いている人々も立ち止まり、キョロキョロと辺りを見回している。
建物の影から大きな地響きと共に巨大な戦車の先が現れる。

ウエスト「いぃ!?」

悲鳴をあげるウエスト。
戦車のてっぺんには、腕を組み仁王立ちになっているバーマン。
ウエストは慌ててアクセルを踏む。
急発進する車。近くを歩いていた人が慌てて、飛びのく。
バーマンの乗った戦車はウエストたちが走る道へと曲がろうとするが、
街には不釣り合いな大きさのため、戦車の一部が建物をこする。
擦れた部分のレンガが崩れ落ち、戦車は強引に道を曲がりおえる。
それまで戦車を唖然とした様子で見ていた人たちが慌てて、
端へと避難する。それとほぼ同時に戦車は急発進する。


***


街。表通りを買い物などで行き交っている人たち。
猛スピードで走る車が、ゆっくりと道を歩いている人たちの背後に迫る。
車から乱暴なクラクションが鳴り響く。
事態を把握し、慌てて隅へと避ける人々。車が通り過ぎると、
人々は不審そうに走り去った車を見送る。
突然、地響きが起こる。
驚いて再び振り返る通行人たち。背後には猛スピードで迫りつつある
巨大な戦車。車を避けた時とは比にならないぐらい、慌てた様子で
端へと散っていく通行人たち。戦車は花壇や屋根の先など、
街の一部を破壊しながら狭い道を通りすぎていく。

バーマン「止まれ、きさまらー!」

ウエストたちに向かってバーマンが大声をあげる。
3人に向かって大声をあげたと同時に、バーマンの
軍服のボタンが一つはじけとぶ。

ルー「うわあ!」

ルーは後部座席から前のめりになりなが戦車を見つめている。

ウエスト「おい、あれ お前の親戚なんじゃねえの!?」

バックミラーでバーマンの姿を確認し、叫ぶウエスト。
額にハンカチを当てながら、ぜいぜいと息を切らせていたワイヤーは、
振り返り戦車の上のバーマンを確認する。

ワイヤー「…本当だ。生き別れの兄さんだ」
チャーリィ「えっ、そうのなの?」

眉をひそめるチャーリィ。
ルーはバーマンとワイヤーを交互に見比べる。

ワイヤー「そんなわけないんだな!」

チャーリィとルーの反応に、抗議の声をあげるワイヤー。

バーマン「撃てェ!!」

バーマンの号令とともに戦車から大砲が発射される。砲弾は
ウエストたちの車ではなく、近くの建物を撃ち抜く。
大砲によって破壊された建物から崩れ、瓦礫が車に向かって落下する。
力一杯ハンドルを切るウエスト。瓦礫を避ける車。

チャーリィ「あんたの兄さん、アホなんじゃないの!?」

悲鳴をあげるチャーリィ。

ウエスト「クッソー! こっちも何かお見舞いしてやれ!」

ウエストがハンドルを握りながら叫ぶ。
腰から銃を引き抜くチャーリィ。ワイヤーはトランクにある荷物を
漁り始める。ウエストは横目でチャーリィを見る。

ウエスト「タイヤを狙えよ!」
チャーリィ「オッケー!」

チャーリィは戦車に銃を向ける。
ルーもポシェットからおもちゃの銃を取りだし、背後の戦車に向けて構え、そして引き金を引く。口径からグローブは勢いよく発射するが、
戦車に届くことなく発射口へと戻ってくる。
不満そうにおもちゃの銃を眺めるルー。

ワイヤー「はい、これ」

ルーの目の前にワイヤーの手が現れる。
ワイヤーの手にはカラーボールが握られている。

ルー「…」

きょとんとした様子でワイヤーを見上げるルー。


***


戦車。
戦車の上で仁王立ちになりながら指示を飛ばすバーマン。

バーマン「ようし、どんどん撃て!」
兵士「あのぅ、将官…」

バーマンの背後から、兵士の1人がおそるおそる声をかける。

バーマン「んん!?」

バーマンは勢いよく振り返る。

兵士「これ以上、街を破壊するのは…」

兵士に掴みかかるバーマン。

バーマン「あいつらはボルゾイのスパイなんだぞ!」
兵士「…」

顔を引きつらせる兵士。

バーマン「万が一ここで、取り逃がしたらどうする!
それこそ町の1つや2つじゃ済まんぞ!!」

突然、左右に激しく揺れる戦車。

バーマン「なんだ!?」

地面のところどこカラフルな液体が飛び散っており、タイヤがその液体を
踏むたびに戦車が左右に滑る。
怒りで顔を真っ赤にするバーマン。

バーマン「ほら見ろ!だから早く撃てと言ったんだ!」


***


後部座席で、カラーボールを両手に抱えているルーとワイヤー。
地面に向かってボールを投げるルー。ボールは地面に当たると割れ、
中に入っていた液体が飛び散る。ルーたちがばらまいた液体を踏むたびに
バランスを崩し左右に揺れる戦車。ふらふらとおぼつかない戦車を見て、ルーとワイヤーは、顔を見合わせて笑う。

ワイヤー「よーし、どんどん投げよう!」

ワイヤーはリュックからカラーボールを取り出し、ルーに渡す。
その時、今までにないぐらい激しい爆発音が響き、地面が揺れる。

ルー「うわあ!」

よろめくルーとワイヤー。ルーの手からボールがこぼれ落ちる。
チャーリィは車につかまりながら、背後の戦車に目を向ける。
大砲の口径からは大量の煙が出ている。
急いで上部に顔を向けるチャーリィ。そこには煙立つ建物。
その建物の一部がぐらりと揺れ、こぼれ落ちるように剥がれる。

チャーリィ「ウエスト避けて!」

声を上げるチャーリィ。

ウエスト「クソっ!」

素早くハンドルを切るウエスト。車は済んでのところで瓦礫を避ける。
胸をなでおろすチャーリィ。後部座席では真っ青な顔で座り込む
ワイヤーと、きょとんとした表情のルー。
ウエストは左手をハンドルから離し、イライラした様子で頭を掻き毟る。

ウエスト「早いことメインクーンから出ちまわないと!」

ウエストはハンドルを握らながら辺りをキョロキョロと見回す。
建物が密集した住宅街がウエストの目に止まる。ウエストは額に汗を
滲ませながら、ハンドルを強く握り、そして住宅街へと車を滑り込ませる。

ルー「うわっ」

よろめきながら、車を両手で掴むルー。これまでにないほど
車体が大きく斜めに傾く。

バーマン「続けぇ!」

住宅街へ消えた車にバーマンが叫ぶ。
バーマンの指示と共に戦車も住宅街へと飛び込む。

建物に衝突しそうになりながらも、右へ左へと不規則に
建物の間を走る車は。

ウエスト「お前ら、振り落とされるなよ!」

激しい空気抵抗を受け、かろうじで目を開けながら運転するウエスト。
バーマンの戦車も民家の一部を破壊しながらウエストたちの後に続く。
車は激しく揺れ、チャーリィとワイヤーは目を閉じ、
前かがみになりながら車体につかまる。
車の動きに合わせて強い風を感じるルー。ルーは強く目を閉じ両手で
車に捕まっていたが、少しだけ目を開き、そして片手を車体から手を離す。
空気抵抗を受けながらもなんとか腕を上げ、必死に頭の帽子を掴むルー。帽子を掴むとルーはそれを強く抑えながら小さく縮こまる。
ウエスト汗を滲ませながら、ハンドルを強く握る。

バーマン「追え!絶対に逃がすな!」

戦車の上で怒鳴り散らすバーマン。
バーマンの部下は前で走る車に合わせて、戦車を右へ左へと動かす。
突然、目の前に想定外のサイズの建物が現れる。
焦った声を上げる部下。
バーマンの部下は慌ててハンドルを切るが戦車は曲がりきれない。
戦車は勢いよく建物に激突し、そして停止する。


***


住宅街から勢いよく飛び出る車。
ハンドルを握るウエスト。ルーとワイヤーとチャーリィの3人は
脱力しきった様子でが抜けたようにシートに深く腰を落している。
ワイヤーはよろよろと疲れ切った様子で顔を上げ、背後を確認する。
ルーも帽子から手を離し、振り返る。
戦車が現れる気配は一向になく、辺りは驚くほど静まり返っている。
顔を見合わせるワイヤーとルー。

ワイヤー「うん、ついてこないみたい」

ワイヤーは安心して少し微笑む。
助手席ではチャーリィが胸をなでおろし、大きく息を吐いている。

ウエスト「なんとかなったな…」

ウエストも疲れた様子で力なく呟く。
車は徐々に速度を落とし、そして常時の速さにもどる。
先ほどの騒動がまるで嘘のように静まり返り穏やかに走る車。
緩やかな風を受けながらルーは周りを見渡す。退廃的な建物が立ち並び、人っ子一人いない。やがて車は郊外へと差し掛かる。

ウエスト「…このままボルゾイに行くけど、いいな?」

ウエストは語りかけるように呟く。ウエストの方へと顔を向けるルー。
ルーはウエストに向かって言葉を発しようと口を開く。しかしその時、
車体に衝撃が走る。
車は強い力を受け、回転しながら滑るように転がる。

ウエスト「なんだ!?」
チャーリィ「ちょっとー!!」

車内から悲鳴が上がる。
ルーは衝撃に耐えるため、力一杯目を閉じ、車に捕まる。
突如、ルーは強い力に引っ張られ浮き上がる。

ルー「!?」

驚いて目を開くルー。
ワイヤーはルーの隣で縮こませていたが、ルーの体が浮き上がったことに
気がつき顔を上げる。

ワイヤー「ルー?!」

ワイヤーはルーを掴もうと手を伸ばすが、
むなしく空を切るだけで届かない。
がしゃんとけたたましい音が響き、再び車に大きな衝撃が走る。

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