ノスタルジア3 -ルーとハバナ-
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メイクーンの発掘拠点地。
巨大な建物の前。すっかり日が暮れている。
建物の大きさに圧倒され、立ち尽くすルー。シャムは建物のそばに
バイクを駐車させる。先ほどまでルーが持っていたバッグは、
今はシャムが肩にかけている。シャムはバイクを駐車させると、
ルーの隣まで歩いてくる。
それからポケットから無線機を取り出しボタンを何個か押す。
建物の門がゆっくりと開き始める。
ルーは突然動き出した扉に、肩をビクリとさせ一歩後ろに下がる。
シャム「行こう」
そう言ってシャムは門の中へと入っていく。恐る恐る後に続くルー。
ハバナ「いらっしゃーい!!」
シャムとルーが扉に足を踏み入れたのと同時に、
騒がしい足音が近づいてくる。自分たちの方へ駆け寄ってくるハバナを確認したシャムは、足を止めて愛想笑いを浮かべる。
シャム「博士、この子が…」
ハバナ「あなたがルーね!」
シャムがルーを紹介するのを待つ間もなく、ハバナはルーに
飛び込むように抱きつく。困惑し、怯えた表情を浮かべるルー。
ハバナはルーの様子には気づくことなく、話し始める。
ハバナ「私、ずっとあなたに会いたかったのよ!
というのもね!あ、そうだ。遺跡のことはもう聞いた?
私たちもまだ全然調査できてないんだけれどね。
えっと、そのことで…」
シャム「ハバナ博士」
一方的にに話を続けるハバナに、とがめるような声を出すシャム。
ハバナはきょとんとした様子でシャムの方へ顔を向ける。
シャム「お土産です」
シャムは肩掛けバックから、街で回収した機械をハバナの目の前へと
差し出す。みるみるうちにハバナの目が輝いていく。
ハバナ「まあ!」
ルーから手を離し、シャムから機械を両手で受け取る。
頬を紅潮させながら、シャムの顔を見つめるハバナ。
ハバナ「どうしたの、これ?」
シャム「さっき○○(町の名前)で見つかったんですよ」
笑顔を浮かべ、穏やかな口調で答えるシャム。
ハバナ「そうなんだあ」
ハバナは機械へと視線を戻し、それから色々な角度で眺めたり、
あちこち触ったりし始める。
ルーは小さい箱の機械を何か言いたげに視線を送る。
シャム「博士、ひとまず中に入りましょう」
夢中で機械を触るハバナにシャムが声をかける。
我に帰るハバナ。
ハバナ「それもそうね」
小さな箱型の機械をポケットに入れるハバナ。
ルーは、小さな箱がしまいこまれたハバナの服のポケットに、
名残惜しげな視線を送る。
ハバナ「じゃ、行きましょうか、ルー」
ルーに微笑みかけるハバナ。
ハバナ「それじゃあシャムさん。また後ほど」
ハバナはシャムに一言挨拶すると、建物の方へと歩き始める。
ルーはシャムに助けを求めるように不安げな視線を送る。
シャムはルーに優しく微笑む。
シャム「ハバナ博士と一緒に行っておいで」
ルー「…」
うつむくルー。
シャムはルー前でしゃがみこみ、そして耳元でささやく。
シャム「ねえ、ルー。
博士にあの箱を動かしてくれるように頼んでみたら?」
ルー「…!」
ルーはほんの少しだけ目を輝かせ、シャムの顔を見る。
ルーに微笑みかけるシャム。
シャム「また後で、あの箱のこと聞かせてね」
一瞬ルーは躊躇するが、やがて思いたったように早足でハバナの後を追う。
ルーとハバナを見送るシャム。ルーたちが遠くなったことを確認し、
それからシャムは二人とは違う方向へと歩き始める。
***
廊下。
まっすぐな姿勢で歩くシャム。
シャムは大きな扉を開け休憩所へと入る。休憩所には大きな机が何個も
並べられていて、ところどころに台所がある。そこでは、たくさんの
メイクーンの兵士が行き交っており、談笑する者や机で仮眠をとる者など、それぞれ自由に過ごしている。
シャムは誰も使っていない台所へと向かい、棚からヤカンとカップを
取り出す。テキパキとした動作でヤカンに水を入れ、
コンロに乗せ火をつける。
コンロの上で揺れる炎をどこかボーとした様子で眺めるアリス。
<回想>
メイクーンの中心都市にある大きな建物。
建物の中ではたくさんの人々が忙しくなく働いている。
派手な装飾の巨大な扉の前で警備をする兵士たち。
会議室。
年老いたの男を中心に大きな机を囲う人々。
バーマンと同じ軍服を着た人たちや、礼服を身につけた人たち、
作業服の人たちなど、様々な格好の人たちが集まっている。
その中にはアリスの姿もある。
メイクーン人A「今回の発見は、これまでの機械とは違います!」
部屋中に声が響く。
メイクーン人A「もっと慎重に捜査を進めるべきです。
あれがどういった物なのか、まだ誰も皆目見当ついていません。
もし不用意に発動させて、事故でも起きれば…」
メイクーン人B「ならば、なおさら急ぐ必要があるのではないのか」
突然、割って入る声。軍服を着た集団に視線が集まる。
メイクーン人B「そんな危険な物が、我々がうかうかしているうちにボルゾイに渡ったらどうする?」
軍服の集団の中から一人の男が立ち上がり、そして高らかに声を上げる。
メイクーン人B「すでに、遺跡周辺の町ではボルゾイの工作員と思われる不審な連中も目撃されています!」
メイクーン人A「遺跡は国境からは遠い。あんな巨大なものを
持ち去ることなど…」
メイクーン人B「あの機械がどういったものか
誰も存じてないのでしょう!」
軍服の男(メイクーン人B)は厳しい声を上げ、芝居がかった動きで腕を振り上げる。
メイクーン人B「もし、あの遺跡が戦車と同じようなタイプの
機械だったら?ボルゾイのスパイが我々よりも先に
それを起動させどうなりますか?あの巨大な機械が動き出した時、
それを止める手段が我々にありますか?
…本当にボルゾイに遺跡が奪われることが無いと言い切れるのですか!」
会議室に男(メイクーン人B)の声が響く。
メイクーン人B「ボルゾイが巨大な力を手に入れ、
今の均衡が崩れればどうなる?それこそ事故では済まない!」
男は腕を下ろし、それから静かな声で話を続ける。
メイクーン人B「どうか、遺跡の件は引き続き私の部隊に
任せていただきたい。我々はこれまでも数多くの大型機器を発掘、
管理してきました。調査はもちろん、我々なら万が一の時に
ボルゾイに対抗する力もあります」
演説する男(メイクーン人B)を厳しい視線で見つめるシャム。
中年男「フン」
シャムの隣に座る中年の男が鼻をならす。
中年男「どうやら軍部は、今回の新兵器を独占するつもりらしい」
中年の男はつまらなさそうにつぶやき、それからそっと立ち上がる。
中年男「わたくし共も○○(メイクーン人B)殿の意見に賛成です。
遺跡の件は引き続き、○○(メイクーン人B)殿のバーマン部隊に
お任せしたい」
男の声に軍服の男は目を見開くがすぐに満足げな表情になり、
中年の男の方へ視線を向ける。
中年男「ところで」
中年の男の声が鋭くなる。
中年男「現地のハバナ博士は助手を要請しているそうですね?」
メイクーン人B「あ、ああ? それなら我々が…」
困惑した声で返事をする軍服の男。
中年の男はちらりとシャムを横目る。
中年男「私に提案があるのですが…」
シャム「…」
<回想終了>
水が沸騰し、ガタガタと揺れるヤカン。
ヤカンの音に驚き、顔を上げるシャム。シャムは火を止め、
カップにお湯を注ぐ。カップを手に取り、あたりを見回すシャム。
シャムは誰もいない机を見つけ、そしてそこへ向かう。
カップを机に置く同時に、ごとりと響く鈍い音。シャムは、椅子に座り、それから机の上のカップに手を伸ばす。
ふと、水面に映った自分の顔に気がつくシャム。
シャムは一瞬だけ眉をひそめるが、すぐに気を取り直し、
カップを手に取り口へと運ぶ。
***
こじんまりとした部屋。
小さい照明がついた机が一つと椅子が二つ、それから部屋の隅には
ガラクタのような物が山積みになっている。
ガラクタの山の中には、1メートルぐらいの大きな円形状の物体がある。
机の上で小さなランプを頼りに、機械の箱をさわるハバナ。
ルーは机から一歩離れた場所にある椅子に座っている。
ハバナ「あと少しで終わるから、もうちょっと待っててね」
機械に視線を向けたままルーに話しかける。
不安げにハバナを見つめるルー。
部屋は静まり返り、カチャカチャと物がぶつかり合う音だけが響く。
そうこうしている間に、音が止む。
ハバナ「うん!」
ハバナは箱を持ち上げ、角度を変えて眺める。
ルー「…それ動くの?」
ルーはおそるおそる尋ねる。
ハバナはルーの方へ体を向けると、歯を出して、子供っぽい笑顔を作る。
ハバナ「おいで」
ルーは一瞬だけ躊躇するが、ゆっくりと椅子からおり、
ハバナのところまで歩く。机を覗き込むルー。
ハバナ「見てて」
ハバナは箱を手に取って底にあるゼンマイを巻き、また机へと戻す。
小さな箱から静かな音楽が響き始める。
ルー「…!」
徐々にルーの目が輝ていく。
ハバナ「これはオルゴールって言うの」
ルー「…オルゴール」
オルゴールを見つめるルー。
ハバナ「持ってみる?」
ルー「え?」
ハバナ「ほら、手を出して」
ハバナはルーの手を取り、そしてオルゴールを乗せる。
ルー「…!」
ルーは息を飲み、そしてオルゴールを見つめる。
ルーの様子に満足そうに見つめるハバナ。
ハバナ「それ、ルーにあげようか?」
ルー「えっ」
ルーは驚いて顔を上げる。
ハバナはルーに向かって、いたずらっぽく笑いかける。
ハバナ「シャムさんにプレゼントしたらいいよ」
ルー「ええ!?」
驚いた声をあげ、頬を染めるルー。
***
休憩所。
開放感のある大きな部屋にはたくさんの机と椅子が規則正しく並べられ、
ところどころに台所がある。部屋にはたくさんの兵士たち。
食事をとる者や談笑している者などがいる。
そこにはシャムの姿もある。
誰もいないテーブルで、一人でカップに口をつけるシャム。
突然、乱暴に開く入り口の扉。空いた扉の先にはバーマンとその部下。
バーマン「どういうことだ!」
ズカズカと乱暴な足取りで休憩所に入室するバーマン。
驚いた兵士たちが静まりかえりるが、バーマンは気にする様子もなく手近な席に向かう。乱暴に椅子を引いて腰を下ろすバーマン。バーマンの部下たちは、少しばかり震えながららもバーマンの周りの椅子に座る。
バーマン「くそっ、なぜ俺の部隊が撤収しなけらばならん!」
机に向かって拳を振り下ろすバーマン。周りの部下たちが一斉に肩を
震わせる。振り下ろした拳を見つめるバーマン。
バーマンは一人で座るシャムの姿に気がつく。
バーマン「おい、なんであいつが居るんだ?」
バーマンは隣に座っている部下に問いかける。
背筋を伸ばし、緊張気味に答える部下。
兵士A「はい!なんでも、シャム准士官はハバナ博士から
極秘の任務を請け負っているそうで…」
バーマン「なにぃ!?」
声を荒げ、立ち上がるバーマン。バーマンはシャムを睨みつける。
バーマン「…」
アリスはバーマンたちに一切顔を向けることはない。
***
ハバナの部屋。
ルーの肩には小さなポシェットがかけられている。
ポシェットの中にはハバナにもらったオルゴールが入っている。
ガラクタの山から大きな円形状の物体を引っ張り出すハバナ。
ルーはきょとんとした様子でハバナを見る。
ハバナ「これはね、とても珍しいものなの」
ルーは前かがみになり、半径状の物体をじっと見つめる。
大きな機械にはルーが反射して写っている。
ハバナ「私の母さんが見つけたの」
顔を上げ、ハバナを見るルー。
ハバナ「これはどうやって使うの?」
ルーはおずおずとした様子で尋ねる。
ハバナ「…さあ、それがよくわからないの」
困ったように笑うハバナ。
ハバナ「でも、きっともの凄い機械の一部に違いないわ」
ハバナは円形状の物体から目をそらし、そして寂しげにつぶやく。
ハバナ「…きっとそう」
ルー「…」
どう返事していいのかわからず、視線を落とすルー。
ハバナはどこか遠くを見ながら考え込んでいたが、
すぐにルーの様子に気がつき明るい声で話かける。
ハバナ「だからね、私が母さんの意思を継いで機械の調査をしてるの!」
ルーは再び顔を上げハバナを見る。ハバナはルーに人懐っこい笑みを向け、それから机の上の本棚から大きな地図を取りだす。
机の上に地図を広げるハバナ。
ハバナ「見てみて」
ハバナはルーを手招きする。ハバナの隣に向かう。
得意げな顔で地図の一点を指差すハバナ。
ルーは前のめりになり、ハバナが指し示す場所を覗き込む。
ハバナ「ここで遺跡が見つかったの」
地図をじっと見つめるルー。
ハバナが指差した箇所は、緑色の線で囲われている。
ルーはハバナの顔を見る。
ハバナ「驚かないでね、なんと、その遺跡は機械で出来てるのよ!」
きょとんとするルー。ピンとこないといった様子でハバナに尋ねる。
ルー「それって凄いの?」
ハバナ「もちろん!」
ハバナは頬を紅潮させ、興奮した様子で答える。
ハバナ「すべてが機械で出来た建物なのよ!ああ、なんて説明すれば
いいかしら!機械のお城と言った方がルーはしっくりくる?
とにかく、すごく、すっごく大きな機械で、こんなすごいものが
見つかったのは初めてなの!」
ルー「…」
ルーを考え込み、それからハバナに尋ねる。
ルー「ここよりも大きい?」
ハバナ「大きいかもしれない!」
興奮した声を上げるハバナ。
ハバナ「ここを調査すれば、
母さんが見つけた機械のことも少しはわかるかも知れないでしょ!」
ハバナは目をキラキラさせながら大きく見開き、前のめりになる。
ルーは静かな声でハバナに尋ねる。
ルー「…お母さんが、調査しなさいって言ったの?」
ハバナ「えっ?」
ハバナは驚いて、前のめりのまま少しだけ立ち尽くす。
が、すぐに姿勢を伸ばし、ルーの問いについて考え込む。
ハバナ「うーん、母さんに言われたわけじゃないけど。
…あ!でも私が今こうしているのは母さんのおかげかな」
満足げにうなずくハバナ。
ルー「…」
ルーはハバナをどこかぼーとした様子で見上げる。
突然、ハバナはルーに顔を近づける。
ハバナ「ねえ、ルー」
驚いて少しだけ身を震わせるルー。
ハバナ「その手袋、とってみてもいい?」
ハバナはルーの手袋を指差す。
ルーは大きく目を見開き、後ずさる。ハバナに怯えた目を向けるルー。
ハバナ「大丈夫だから」
ハバナは穏やかな口調で、言い聞かせるように言う。
ルーは怯えた表情で固まったまま動かない。
ハバナ「大丈夫」
ハバナは囁く。
しゃがみこんで、ゆっくりとルーの片方の手袋をめくるハバナ。
ルーの手のひらはハバナにしか見ることができない。
ハバナ「やっぱり…」
静かな声でハバナはつぶやき、それから手袋を戻す。
ルーは立ち尽くしたまま、ハバナを見つめる。
ハバナ「ねえ、ルー。ルーの家族って今…」
ルー「おじいちゃん?」
ハバナ「え? うーん、そうね。ルーのおじいちゃんは元気?」
ルー「おじいちゃんはずっと前に…」
ルーは手袋をズボンを握りしめながらうつむく。
ハバナ「…他の家族は?」
ルー「ずっとおじいちゃんしかいない」
ハバナ「…」
ルーを見つめるハバナ。
ハバナ「そうなんだ。…私もね、私と母さんの2人なの」
ハバナは少しだけうつむき、寂しげに笑う。
ハバナ「ずっと前に死んじゃったけど」
ルー「…」
ルーは少しだけ顔を上げ、ハバナを見る。
ハバナ「あのね、ルー」
突然、勢いよく顔を上げるハバナ。
ハバナはルーに顔を近づけ、そしてまっすぐルーを見つめる。
ハバナの表情は真剣そのもの。
ハバナ「私たちと一緒に遺跡に行ってほしいの」
ルー「…」
ルーは何も返すことができず、呆然とした顔でハバナを顔を見る。
困惑したルーの瞳にはまっすぐルーを見据えるハバナが写っている。